第38話 マティヴァ
「こんにちは、マティヴァさん」
「あ、ツムギちゃんだあ」
茶色の髪と大きな胸を軽く揺らし、おっとりとした口調で返事をしてくれたのが、受付嬢の一人、マティヴァさんである。
カチューシャのようにした三つ編みと笑顔が印象的で、このギルドの看板娘として大人気なのも頷ける。
首元に刻まれた数字は『06』。ついでに言えば、隣でなぜか呻いてるシオンは『02』と両親分だ。数の差を気にするのはこの世界の人の性かもしれない。
「あら、珍しく両手に花ね」
「からかわないでくださいよ」
「そうよ! こんな根暗の花なんて真っ平御免だわ!」
「お前ちょっと黙ってろ?」
ともかく、オウカが腹ぺこで今にも溶けてしまいそうな表情になっているのでさっさと済ませよう。
「今日はこっちの子をギルドに登録したくて」
「あら、小さくて可愛いお嬢さんねぇ」
「ぐぅ」
「オウカ、お腹の音が口にでてるぞ」
「初めまして、受付のマティヴァと言います。よろしくね、オウカちゃん」
「よろしくお願いします……ご主人様と随分仲良しなのですね」
姿勢を正したオウカだったが、その瞳が少しだけ細くなった。
「そうねえ、ツムギちゃんが冒険者になったときから、いろいろとお世話しているからねえ」
マティヴァさんの言葉に、
「いろいろ!?」とオウカ。
「お世話!?」とシオン。
冗談が通じない子供が二名おられる。
「おふざけはそこまでにして、彼女の冒険者登録をお願いします」
「はぁい。それじゃあFランクから――」
「いえ――Eランクからで」
俺の言葉に、一瞬だけ場が静まり返る。
「……ツムギちゃん? 冒険者ランクの仕組みはわかってるの?」
「ええ、実力主義ですよね。強いものが上のランクにいける」
「正しく言えば、実力と経験とキズナリストの数、ね」
「ですが、FからEは冒険者としての基本を知るためで、キズナの数に関係なく昇格出来ますよね?」
マティヴァさんが、ちらりとオウカを見る。
正しくは、オウカの首元。
「ツムギちゃんの数字が増えてるのは、その子と一緒にDランク昇格試験を受けるためなのね」
「ご理解が早くて助かります」
マティヴァさんが「ふぅ」と息を吐く。
「でもねえ、いくらツムギちゃんがいるからって、年端もいかない未経験の女の子を……」
その言葉を待っていた。
「これでも、ですか?」
アイテムボックスから大きな麻袋を取り出した。
縛っていた紐を解く。
ギルド内に大きな音を響かせながら、その中身が受付の台を埋めた。
その数、1007個。
「これって……スライムの魔石?」
「この子が集めたものですよ。
もちろん、一晩でね。」
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