第163話 もふついた
翌朝、目を覚まして起き上がると、オウカの尾っぽを挟んで隣で寝ていたシオンが死んだような目で窓の方を眺めているのが目に入った。
「ど、どうしたシオン……?」
黄緑のパジャマがはだけて肩が露になっており、お団子にしていた髪の毛もほつれてひと房垂れ下がっている。
無駄に艶かしい姿に狼狽えていると、彼女の視線がこちらに向かれた。
「……覚えてないの?」
「おぼ……なにを?」
「……あ、あんなことをしておきながら! あなたは――」
シオンはベッドの上で立ち上がるも、みるみるうちに顔が赤くなり、すぐにペタンと座り込んだ。
「オウカちゃんから話は聞いてたけど……これほどとは」
「話? ちょっとまて、なんのことだ」
「あなた……寝相が悪いのよ」
寝相?
それなら、いつの間にか上下反転して尻尾が枕で寝ているオウカがいるのだが。(寝る前にオウカへの魔法は解いてある)
「尻尾……好きなの?」
「え? まあ、もふつくのは嫌いじゃないが……」
特にオウカの尻尾はふわりとしている。
今は桃から黒色に生え変わったので、寝る時も落ち着いた雰囲気を楽しめ……
「え、まさか」
「考えなくてよろしい」
シオンがふらふらとしながらベッドから降りて部屋を出ていった。
俺は寝ている間、一体なににもふついたのだろう。
部屋には、足元で寝ているオウカの寝息だけが静かに響いていた。
***
初日からCクラスのウェイとひと騒ぎがあったものの、本業は勉学になってしまった護衛兼学院生活。
いきなり不登校というわけにもいかないので、ちゃんと登校した。
「みんなおはようーって、あれ!?」
教員が教室に入るや否や、俺の方を見て驚きの声を上げる。
いや、正確には俺の隣にいるシオンにだろう。
「ど、どうしてCクラスの子がいるんだい」
「どうせ能力と世間体で分けられただけの杜撰なクラスじゃない。一年は学ぶことが一緒なんだから、どのクラスにいたっていいでしょ?」
「ええ……いやあしかし、うーん」
「それに、こいつがあたしの護衛をしないといけないから、わざわざこっちにきてやったのよ」
早口に捲し立てながら、言っていることはめちゃくちゃなのだが、
「君の……? あれ、王女様の付き添いの人じゃ……」
「こいつが一度でも肯定した?」
「あ……そっか、先生の早とちりだったのか!
いやすまないね。黒いローブを着た人なんて滅多に見ないし、顔も見えなかったから! 勘違いしちゃったよ!
そうだよね、王女様の付き人がキズナリスト0人なんてことないよねー!」
教員が自分で額をペシリと叩く。
周りの生徒からは嘲笑と取れる声が漏れていた。
「ツムギ、相対的にあたしの評価が下がったんですけど」
「諦めろ」
そもそも依頼する相手を間違えている。
俺にキズナリストは悪影響でしかないからな。仕方ないのだ。
「それじゃあ」と、教員は両手をパンと叩いて生徒の視線を戻す。
「今日の授業は、キズナリストについてにしよっか」
よし、寝るか。
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