第344話 上書き
「あらぁ?」
ピクリと、クラヴィアの眉が動く。
「気配が変わりましたわね。
それでも、ワタクシには何も出来ないでしょう?」
オウカの邪視はステータスが底上げされる。
だからと言ってクラヴィアのアビリティが突破できるわけじゃない。
それに――
「オウカ、お前、また」
「大丈夫ですよ、ツムギ様。
もうこの力で記憶を失くすことはありません」
俺の懸念をオウカが振り払った。
もしかすると、力を使う時にあの青い鳥と話をしたのかもしれない。
「だからと言って、私が全てを使いこなせるかは別なんですけどね」
「そんなことでワタクシを殺せますの?」
くすくすと笑い声を漏らす魔族に対して、オウカも口角を釣り上げた。
「それは、あなた次第ですよ」
右手を伸ばす。
そこに青い瘴気が集まると、刀の形をなしていく。
「魔剣……」
魔剣も魔力の塊。どちらにせよ攻撃の意志があればクラヴィアには届かない。
オウカが何を企んでいるのか分からない。
援護すべきか、しかし勝機があるなら俺が動くべきじゃないのか。
後ろでは巨大な衝突音が響き続けている。まだドラゴンたちも戦っているらしい。
「魔剣妖刀、桜花。これであなたを斬ります」
「できるものな……ら?」
クラヴィアの言葉が急に詰まる。
その表情から笑みは消え、途端に歪み、額から脂汗が滲み出ていた。
なんだ、何が起きた。
ステータスを覗いても変動はない。今この状況で起きている変化が読み取れない。
苦痛に耐えるような表情を浮かべながら、クラヴィアがやっとといった様子で口を開く。
「なん、ですの、これ」
「わかりませんか? あなたはいま、怯えているんですよ?」
「ワタクシ、が……?」
どういうことだ。
状況は何も変わっていない。
俺から見ればオウカのステータスは上がっているが、まだクラヴィアの方が勝っている。
まさか殺気で負けたなんて言わないだろうし。
「いや――殺気だ」
しかも常人のとは違う、直接的に影響を与える殺気。
――
魔力の流れを操作し、相手の感覚に違和感を与えることで、殺気に睨まれていると錯覚させる能力。
かつてオウカが対策に苦しみ、そして克服したドラゴンのスキルだ。
そうか、相手が自身を無敵だと思っているなら、その考えを覆すほどの
もしかしたら殺されるかもしれないと、思い込みを上書きすればいい。
だからって、魔力を操作して疑似的にスキルを生み出すなんて、考えもしなかった。
「そんな、馬鹿なこと――!」
クラヴィアが服の下から蛇腹剣を取り出して振るった。
しかしすぐに反応したオウカが魔剣で弾き飛ばす。
「そん――ッ!?」
「終わりです」
いまので完全にクラヴィアは飲まれただろう。
周辺が黒に染まり、青い一閃が煌めく。
「秘技――
薄暗い闇の中で、魔族の倒れる音が響いた。
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