第156話 アリヨク

「泣いても許さないからな!」


 ウェイの腕輪が緑色に光る。

 

「我が魔力を以て次元の狭間より顕現せよ!」


 床に魔法陣が展開され、そこから生えるように霊獣が現れた。


 一言で言えば、人型のライオン。

 体格は一般男性の倍はあるかないか。引き締められた肉体は見ただけで肉弾戦を拒みたくなるほど完成されている。

 首から上が茶色の鬣で覆われ、その顔はライオンそのものである。


◆アリヨク


 獅子が大きく口を開けて吠える。

 ゴウッと低音が肌を震わせた。

 同時に、観戦している女子たちが呑気な声援を送り始める。


「見るがいい! これが僕の霊獣アリヨクだ!

 霊獣なんて滅多に拝めるものじゃない。

 しっかりとその死んだ目に焼き付けることだ。

 アリヨク――死なない程度に嬲れッ」

「ちょっとツムギ! あなた本当に勝てるんでしょうね!?」

「さあ」


 場外にいるシオンが少しばかり慌てた様子で騒ぐが知らん相手に勝てるなんて見栄は張らない。


 霊獣は精霊と同じくステータスが読み取れない。

 個人的に思う理由は、この世界のシステムを受けていない。あるいはステータスとなる数値が霊獣たちには備わっていないか。

 どちらにせよ、これからステータスのでない類を相手にする時は気を付けないと、一撃必殺の技を食らう可能性だってあるわけだ。


 獅子が走り出し、俺に向かって巨大な拳を振りかざす。

 俺は咄嗟に右手を前に出して――その拳を受け止めた。


「……は、はぁ!?」


 ウェイの声が裏返る。

 意外になんとかなったな。


「強そうなのは見てくれだけ、かっ!」


 手を滑らせ手首を握り思い切り拗じる。

 アリヨクの身体が持ち上がったので、そのまま床へと叩きつけた。

 闘技場が微かに揺れる。


「ん? 終わりか?」


 ユニコーンもだが、霊獣って見てくればかりで弱すぎないか?


「貴様……一体どんなアビリティを……」


 ウェイが唇を震わせる。が、落ち着きを取り戻すように大きくひと呼吸すると、また前髪を持ち上げて煌めきフケを飛ばした。


「どうやら君のアビリティがたまたま? 運良く? 霊獣に効いたみたいだね」

「腕を捻っただけなんだが」

「だけど――霊獣の本領はここからさ」


 ピュゥイ、と指笛を吹いたウェイ。

 それが指示だったのか、アリヨクは飛び起きるとウェイの隣まで後退した。


「いくぞ。霊獣に与えられた星の力――アストロコード!」


 アリヨクが一瞬輝く――そして、粒子となった。

 それは空中に揺蕩い、しかしすぐにまた一箇所へと集まる。

 キズナ召喚の時に見た現象と酷似している。そもそも、次元召喚がキズナ召喚の研究途中で生まれたというのだから当然か。



 形を成して再び現れたアリヨク。

 その姿は先ほどまでとは全くの別物だった。


 黄金の獅子と呼ぶにふさわしいほど眩い金の鬣。

 背中にはコウモリのような羽が生えており、その模様は宇宙を閉じ込めたかのように美しかった。


「覚悟しろよ、Gクラスごときが調子に乗った罰だ!」


 唯一醜いのは召喚者である。

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