第四章 音の奏では闇の嗤い
喧囂の豚(レルネー家)
第218話 豚が歩いてくる
「此度の学院昇格試験において、貴様が犯した失態は理解しているな?
愚かなるレイミアよ」
王都貴族区域。
その一角にある大きな屋敷はレルネー家のものである。
一室に呼ばれたレイミアは、眼前に座るレルネー家現当主の前で、膝をつき頭を垂れていた。
「承知しております」
「竜による乱入。そして魔族か。
王女から話は聞いておるが、いまでも眉唾物にしか思えぬな」
「信憑性に関しては、弓聖やネメア家次期当主の証言もありますので、保証できるものでございます」
「なるほど、ネメア家も絡んでいるなら、まあ信じるとしよう。
さて、貴様はその渦中において生徒を4人も亡くしたそうだな?」
「おっしゃるとおりでございます」
「生徒会長でありながらの失態、レルネー家に恥をかかせたいのか?」
「いえ、決してそのようなことはありません。
魔族と竜の戦闘において、すべて私の不徳の致すところです」
「では、わかっておるな?」
「はい。私は生徒会長を辞任いたします。
今後はレルネー家のため、研究に尽力したいと思っております」
「うむ、貴様は愚かな息子よりも賢い。自分の成すべきことが理解できておる。
今回の件は不問とする。今後に期待するぞ――我がレルネー家の奴隷よ」
「は!」
「そういえば」
レイミアが立ち上がり部屋を出ようとしたところを、当主に止められる。
「此度の件で活躍したと王女が話した男……名は何と言ったか」
「ツムギですか?」
「本物か?」
「私の代わりに当主を担えるくらいには……。
王女の召喚した勇者候補でありながら単独で行動し、しかしながら王女のお墨付きです。
また、竜と魔族を葬ったのも、すべて彼でございます」
「そうか……ケリュネイア家には先を越されているからな。
ここでいいカードが手に入るなら婿養子として迎え入れるのも構わん。
貴様の全てを駆使して我が物にしろ。それから連れてくるといい」
「御意」
部屋から出ると、レイミアのメイドが待っていた。
「いくぞ」
メイドを連れて廊下を進むと、
「はんっ! 汚らしい奴隷がどうして廊下を歩いている!」
向かいから大きな足音を立てて豚と調教師が歩いてくるように、レイミアには見えた。
すぐに瞬きを二度して現実を見る。その姿はどうしても最初だけは豚に見えて仕方ないのだ。
レルネー家の長男と、彼に付き従っている水色の髪の小さなメイドが歩いてきた。
社交辞令として頭を軽く下げる。
「兄上、お元気そうで何よりです」
言った瞬間、レイミアの頬に衝撃が走った。
目の前の男に叩かれたのだ。
しかしレイミアは何事もなかったかのように改めて頭を下げる。
「ぶふぅ! 相変わらずすました顔をしやがって。
貴様が失敗した話は戻ってきてすぐに聞いたぞ。無様だな」
「そういえば、兄上は長く屋敷に居られなかったそうで」
鼻の詰まったような音とくだらない罵倒を無視し、話題を逸らす。
この男は自分語りさせておけば満足することをレイミアはよく知っていた。
「ぶひ、南の街のギルマスが死んだと聞いてな。
我が姫を取り戻しに向かったのだ」
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