第390話 転生者

「やっぱり、届いていたのか」


 大きな穴を見つめながら、無意識に呟いたことに言葉を終えてから気づいた。

 オールゼロとの戦い。最後に俺は絆喰らいを発動させた。

 目の前の人形ではなく、本物のオールゼロを喰らうために、人形に繋がっている魔力を経由しようとした。

 いま考えれば到底無理な屁理屈的な攻撃だったのだが、絆喰らいは俺の想いに応えてくれたのかオールゼロに一瞬でも届いてくれた。


「そうだ。これが、君に与えられた傷だ。

 捕食者の中でも君の力は特に強い。この傷も魔法では癒すことが出来なかった」

 

 オールゼロがゆっくりと、息だけ漏らしたような声で言葉をつなぐ。


「まさか本体に到達するとは思っていなかったよ。

 やはり、君はバグだ。この世界を滅ぼす害だ。

 いままで、こんなことは無かった。

 我は君を認めるわけにはいかない」

「そんな口が叩ける余裕はあるのか。

 俺だって望んでこの世界に来たわけじゃない。

 もし俺がバグだっていうなら、それは召喚に巻き込んだ奴に文句を言え。

 それよりも、やはりお前は……」

「……ほぼ、正解だ。

 違うのは、君たちは勇者候補として召喚された。

 我は……生前の記憶を持っただけの――ただの転生者だ」


 異世界召喚と異世界転生。

 似たようで全く異なる。

 特にこの世界では、召喚者のステータスは互いに見えることはできない。

 しかし現地の人類やモンスターのステータスは簡単に見れてしまう。

 そうだ、この世界で生まれたもののステータスは異界の眼で覗ける。

 それは転生者も、例外ではなかった。


◆レイ・ハーニガルバッド ♂

 種族 :人間

 クラス:賢者

 レベル:2464

 HP :230/274080

 MP :0/571000

 攻撃力:277680

 防御力:277680

 敏捷性:207552

 運命力:2464


「それが、お前の本当のステータスか。

 王族だったんだな」

「国を作ったのは、弟だがな。

 我は旅を続けていた」

「エルには」

「言う必要……ないだろう」


 そう言ってオールゼロは震えるように、大きく呼吸をした。


「脳喰らいの能力は、自身のステータスを人形に割り振ることができる」

「それで、すべてのステータスを魔族に与え、自身は0という無敵状態を作り出したわけか」

「保険をかけて、自身すらも人形として生成し、王都に送ったのだがな。

 まさか精神の結合が君の攻撃を通すことになるとは思わなかった」


 俺は一番近くの長椅子に腰かける。

 僅かな沈黙。

 もうこの男は俺を殺すこともできない。

 思考を巡らせ、結局聞きたいことを素直に聞くことにした。


「お前は、魔王を復活させて、どうしたかったんだ」

「……我は」


 オールゼロは、静かに、想いを馳せるような声で告げた。


「我は、もう一度、この世界の物語を始めたかったのだ」


 小さく、短い呼吸を繰り返す。


「我は、彼女と――ミトラスと共に旅をしていた」

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