第42話 ギルドカード

 マティヴァさんが、憂鬱そうに息を吐く。


「本来キズナリストの相手がここにいれば、生死に関しては確定するのよね」

「キズナリストで?」

「ネイクラさんが死んでいるなら、契約相手のキズナリストから消えてその人のステータスが下がるの。

 だけど、彼の知り合いがみんな遠出中なのよねえ」


 どっちにしろ、探さないとわからない状態じゃないか。


「とにかく、森の中を探し回ってみればいいんですね! それじゃ、お互い正々堂々と頑張りましょう!」

「よろしくお願いします」


 説明が一通り終わり、ネイクラの捜索が確定したところで、センとナナが勢いよく駆け出してギルドを出ていった。


「ご主人様、私たちも急ぎましょう!」

「慌てんな」


 続いて駆け出そうとするオウカの頭巾を掴んで止める。


「オウカはまずこっち」

「はい、オウカちゃん」


 マティヴァさんからトランプカードサイズの黒いプレートが渡される。

 表面にはオウカの名前とギルドランクであるEが刻まれている。

 裏側はこの街の象徴になっている妖精の模様が描かれていた。


「これって」

「あなたのギルドカードよ」

「私の……ありがとうございます!」


 オウカの背中がなにやらもぞもぞと動いているので、隠すように移動してから、マティヴァさんに気になったことを問う。


「マティヴァさん、どうしてネイクラさんが東の森に向かったと思われたんですか?」

「んー? 深い意味は無いよ? ただ、冒険者は東奔西走が基本だからねえ」

「探索は東からが冒険者の鉄則だって、マティヴァさんが教えてくれましたね……なるほど」


 得心がいったところでギルドを出た。


「ご主人様! 東はどちらですか! 私が先導します!」

「東はあっちだ。方角の目印は、西に見える塔を基準にしている」


 東を指差した後に、西を指差す。

 森のさらに遠く。この大陸の終わりにあるという黒い塔が、ここからも少しだけ見える。

 

「あれが王国の塔ですか?」

「んや、王国は北だな。あの塔はこの大陸に最初に現れたダンジョンらしい」

「最初に……すごいですね」

「なんでも10体のドラゴンを誕生させたんだとか」

「竜ですか! それでは、あの塔と真逆方面の森に入ればいいのですね」


 歩き出すオウカの頭巾を掴む。


「俺たちが向かうのは塔のある方面だ」

「西……ですか? でも、ネイクラさんは東の森に向かったと」

「まあ、歩きながら説明しよう」


 訝しげな表情を浮かべるオウカに対し、俺は軽く笑みを浮かべた。


***


 西の森に入ってしばらくしたところで、オウカの頭巾を外させてから説明を始めた。


「マティヴァさんは『たぶん東の森に向かったと思う』って言ったんだよ」

「だから東に……あれ? たぶん?」

「そう、情報が曖昧なんだ。なんでだと思う?」

「えーとえーと……どこに向かったかは知らされてない?」

「正解だ。少しずつ整理しよう。

 今回、ネイクラさんが探しに行ったのは地下型のダンジョンだ。

 マティヴァさんが説明した通り、地下型は非常に見つけにくい構造になっている」

「だから見つけ次第、ギルドに報告しないといけないんですよね」

「そうだ。だけど、おかしくないか?」

「なにがですか?」


 オウカが首を傾げる。


「ネイクラさんは、どうして地下型のダンジョンを探しに行こうとしたのか」

「……どこにあるかもわからないダンジョンを、無闇に探していた?」

「そんな面倒なことしたくないだろ?」

「それじゃあ、ネイクラさんはダンジョンの場所をある程度把握していた、ということですか?」

「そうだ。そしてそれは、冒険者だからこそ考える当たり前のことで、成果主義のギルドが気にしないで、曖昧にしている情報でもある」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る