第15話 スライム

「ご主人様、前方で何か蠢いています」


 オウカが森の奥を凝視する。


「そういえば、オウカは夜目を持っているんだな」

「はい……ってなんで知ってるんですか!?」


 そりゃアビリティで勝手にステータスを覗いたから……とは言えない。

 俺が持つアビリティ「異界の眼」は相手のステータスを勝手に覗くことができる。

 しかし、このアビリティを持つのは異世界から召喚された者だけだ。

 本来、この世界には他人のステータスを覗く能力は存在しない。

 唯一の方法は、ステータスを開いた本人の隣に立って覗くことくらいだ。


「契約の時にお前がステータスを開いて、俺が隣で覗いた」

「そんな! もうお嫁に行けない! 奴隷として生きていくしか!」

「1年だけな」


 適当なことを言ったら、オウカが勝手にのってくれたのでこのまま流そう。


「それで、なにが見えたんだ?」

「なにか……ぷるぷるしてます」

「うん、想定通り出てきたな」


 オウカを連れて、ぷるぷるの前までくる。

 アイテムボックスからカンテラを取り出して明かりをつけた。


「なんですか……この透明な物体は」


 オウカが気持ち悪そうな顔をして見つめるもの。

 半液状の物体が丸い形をしてぷるぷると揺れていた。

 その中央には黒い石のような鉱物がぷかぷかと浮いていて、まるでその物体の目のようだった。


「これはアシッドスライム。モンスターだ」

「これが……ですか?」


 オウカが地面に落ちていた木の棒を拾ってスライムをつつく。その小学生みたいな行為は似合わないからやめてほしい。


「てか、あんまつつくと――」

「ふひゃっ!?」


 瞬間、スライムの頭上から液体が噴射された。

 それは見事にオウカの顔面へと飛んでいき、


「ああああああああああ!!!!! あついいいいあああああ!!!」


 オウカが悲鳴を上げて地面に転がる。


「アシッドスライムだから酸を吐き出すんだけど……」

「回復魔法! カイフクマホウ! か゛い゛ふ゛く゛ま゛ほ゛お゛!」


 オウカが少女らしからぬ濁声だみごえで叫ぶと、その姿が緑色の光に包まれた。

 おお、これが噂に聞く回復魔法か。


 回復魔法を持つ者は少ない。教会で過酷な修行を受ける必要があると言われてるくらいだ。たぶん教会の商売道具なんだろう。

 それを低レベルの時点で持っているのは、彼女の一つの魅力と言えるだろう。

 いまは自分のために必死に使っているが……。


「はぁ、はぁ、大丈夫ですか? 私の顔、溶けてませんか?」

「ちゃんと元通り綺麗な顔だよ」

「やだ綺麗だなんて……ってこんな目にあったのご主人様のせいじゃないですか!」

「自業自得だろ!?」

「ぷくぅ」

 

 またもオウカの頬が膨らむ。

 やっぱこいつリスなのかもしれない……。

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