第16話 倒し方

「こんなモンスター、どうやって倒すんですか」


 MPポーションを飲み干したオウカ。

 ぷるぷると揺れるスライムを見つめながら、自身もぷるぷると震えていた。


「お前が先走った行動するからだ。いいか、よく聞けよ」


 俺はスライムの上部、先ほど酸を噴出させた部分を指差す。


「アシッドスライムの頭には、見えづらいが尻の穴みたいなのがある」

「尻の穴」

「そうそう、皺の多い少しねじれた感じの、って形状はどうでもいい。スライムは基本攻撃してこないが、刺激を受けると反射的にこの穴から体液を吹き出す」

「そんな……それじゃあ武器も溶けちゃうじゃないですか」

「と、思うだろ?」


 俺はアイテムボックスからダガーを取り出す。

 そしてスライムを思いきり切りつけた。


「ひゃっ!? って、あれ……?」


 裂けたスライムが四散し、体液と体内にあった石の破片が飛び散る。

 それらが俺やオウカにかかるが、熱いなんてことはなく、皮膚が爛れることもない。もちろん、ダガーも溶けてはいなかった。


「ご主人様、これは一体どういうことですか?」

「スライムの体液が酸になるのは、上部の穴から噴出されたときのみだ。だから普通に切り裂く分には問題ない」


 歩みを進めてさらに森へと入っていく。


「しかし、この倒し方はダメだ」

「ダメなんですか?」

「今見た通り、スライムの体液が飛び散ってしまう。スライムの体液を求めるクエストだったらアウトだ」


 スライムがもう一体現れた。


「じゃあどこを狙えばいいと思う?」

「狙う、ですか……狙うとしたら黒い石しかないのでは」

「正解だ。よくできました」


 オウカの頭を撫でる。「やったぁ」とオウカは両手を上げる。

 俺はその手にダガーを持たせた。


「じゃあやってみようか」

「え、あ、はい」


 オウカがスライムに少しずつ近づく。

 一歩、一歩、一歩。


「遅いよ!?」

「だってぇ、また飛ばされたりしたらぁ」

「それが嫌なら一発で仕留めろ」


 嫌そうな顔をするオウカの背中を押す。


「うー、えいっ!」


 オウカが慣れない手つきでダガーを振り下ろす。

 なんとかスライムの体内にある黒い石に突き刺さった。


 スライムの揺れが完全に止まる。


「これで……?」 

「その石はスライムの弱点だ。

 。それを覚えておけば、他のモンスターだって、倒し方が見えてくるさ」

「はい! 肝に銘じておきます!」

「さて、あとは抜いたところから体液を取り出すだけだが、今回はこっち」


 スライムからダガーを引き抜かせ、潰れたスライムの死骸から黒い石を拾い上げる。


「この石がスライムを倒した証になる。ある程度集めてギルドに持ち込めば、お小遣いくらいにはなるぞ」

「だから倒し方に拘るんですね」


 なるほどなるほど、とオウカが何度も頷く。


「冒険者としてクエストを受ける以上、顧客の細かな希望に応える必要がある。皮は傷つけるなとか、質のいいものだけを集めろとかな」

「冒険者って大変なんですね……」

「まあ、結局ただの万屋だからな。冒険はおまけだ」


 生きるためには働かなければならない。呑気に冒険を楽しむ余裕などこの世界にはないのだ。

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