第69話 竜威
「な、なんで攻撃をやめちゃうのぉ?」
マティヴァさんが疑問の声を上げる。
それに答えたのは、肩で息をするギルマスだった。
「攻撃していたら……殺されていた」
「ころ……そんなわけ」
「ああ、たぶんない。本人にもそんな気はなかっただろう。
だが俺がそう感じてしまった。
だから……後ろに逃げた」
ギルマスが唇を噛む。
「このプレッシャーは熟練者だからこそ気付けるものか。強者だからこそ格上を見定められる、そんな能力。俺とお嬢さんが気づけて、マティヴァが気づけない理由だ」
マティヴァさんがオウカを見る。
オウカの毛は元に戻っているものの、口を震わせて――
「す、すごいですツムギ様!」
「おぅ?」
オウカの歓声に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ツムギ様の強さはこの二日で見てきましたが、この威圧感、まさに竜に至るものですよ!」
「竜……か」
二人が感じている威圧感がどんなものか……たぶん、俺が竜と遭遇した時の絶望感に近いのだろう。
このアビリティ……竜威は名前からしてドラゴンのものっぽいし。
なんで俺が持っていて使えるのか。
いや、答えは出ているんだ。
――絆喰らい。
あのアビリティはドラゴンを喰らっていた。単純に幻覚魔法を解くものだと思っていたのだが。
もしかすると――。
「……負けだ」
ギルマスが木剣を投げ捨てる。
「死ぬとわかってる戦いをするほど矜持は凝り固まっていないんでね」
「それじゃあ」
「とりあえずは、まあCランクだ」
あっさりとランクが昇格してしまった。
ギルマスが言葉を続ける。
「スカルヘッド・ゴブリンを倒し、ダンジョンを制覇し、この力……なるほど、俺は見誤っていたようだな。
お前ならすぐにでもAランクになるだろう。
もしかしたら、キズナリストが0のままでな」
「それは……」
「久々に楽しいギルドになりそうだ」
ギルマスがくつくつと笑う。
見た目30代くらいのおじさんだけど……実年齢いくつなんだ。
「いいことを思いついた」
ギルマスが顔をにやつかせたまま、こちらを向く。
「Cランクと一緒に特務Aランクを与えよう」
「特務……Aランク?」
「ぎぃちゃん、それは」
マティヴァさんが口をはさむ。
「特務はいくらなんでも……ツムギちゃんだってまだ冒険者経験は浅いし」
「いや、俺はこいつの実力をさらに測りたい。そのためには特務クラスがいいだろう」
「あの……特務ってなんですか?」
「通常のクエストとは別の特別なクエストだ。表に出しづらい内容や機密に関わるものを高額で担当してもらう」
「はあ……まあ、稼げるなら」
話を聞く限り、難易度が高いとかではなく、情報を漏らすなとかそういう話だろう。
要は内密に行うクエスト。それならぼっちにもってこいじゃなかろうか。
「正式なギルドカードは後で発行する。
それと……」
ギルマスがオウカを見る。
オウカが「あっ」と今更ながら頭巾を被り直した。
「お嬢さんのことは……まあ黙っておくよ。死にたくないからな」
そういって演習場を出て行った。
あれ? あの人負けたはずなのに、なんで去り方かっこいいの……? イケメン許せんな?
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