第229話 覚えのある気配

 話をまとめると、貴族のパーティーに参加したマティヴァさんは、そこで初めてインギー・レルネーと出会ったわけだ。

 運命的、というものでもなく、普通にあちらから鼻息を荒くして話しかけてきたらしい。当時からだいぶふくよかな体型だったみたいで。

 あと、レイミアがその頃から貴族として立ち振る舞っているなら、その時に兄は既に次期当主として諦められているわけだ。本人が知っているかは別として。


「とても興奮気味に話しかけてきたんだけどねえ、その時はぎぃちゃんが止めにはいっちゃって」


 喧嘩になったらしいのだが、ギルマスが勝ってしまったらしい。

 それから彼はネメア家に気に入られ、後にギルマスの幹部として昇りつめていくことに……ってあいつのサクセスストーリーはいいんだ。

 特別な魔法の才能があるわけでもなく、ごく平凡、いやそれ以下のインギーは屈辱的だっただろう。貴族が一般庶民に負けたとかよくある考えで。


「あの後から、インギーさんはよく私の前に現れるようになったんだけど。

 いつも「我のものにする」ってすごい剣幕で。その度にぎぃちゃんが止めてくれてたんだけどね。

 どんどんエスカレートして、今度は勝手に婚約宣言したの。それが丁度ツムギちゃんが冒険者始めた頃ね」


 それで手に負えないと判断したギルマスが動き、ギルドを盾にしつつソリーに逃げたわけだ。


 話を聞いている限り、インギーの片思いが暴走しただけなのだが、それよりも気になるのが貴族のパーティーとしか思えない最初の部分だ。

 元々そのパーティーがなければ出会うこともなかったのだが、両親が勧めたとなると、両親が貴族絡みということか?


「お父さんが貴族と関わりがあったりします?」

「お父さんは……たしか王国の料理人として働いてたことがあるって。

 私が物心ついたときにはもうやめていたよお」

「元料理長とか?」

「うーん、聞いたことないよお」


 なんか怪しいな。

 インギーが15年も執着する理由もいまいちわからない。勘違いしてるっぽい?


「次はマティヴァさんの口からはっきりと断らないとダメかもしれませんね」


 呟いて、反応がない。

 見ると、マティヴァさんは眠りについていた。

 俺は立ち上がって安全エリアを抜け出す。


 3階を歩き回り、一応4階への階段も見つける。

 と、その隣になにやら魔法陣らしきものを発見した。

 青白く光る魔法陣が階段を避けるように設置してある。人為的なモノだろうか。


「――っ!?」


 魔法陣を注視していると、背中に異様な気配を感じて振り返る。

 何も、いない。

 しかし、確かに覚えのある気配だった。


「……ドラ、ゴン?」


 まさかこんな浅い場所に……いるのか?

 どうする。

 探しに行くべきか。

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