第184話 アイドルおじさん

 三人で学院へ向かうと、正門前が何やら騒がしかった。

 人が集まって何かを囲んでいる。

 どこかで見たことあるような光景だ。こういう時はたいてい中心にいるのがアイドルとかそういうの。


「お、ぼっちじゃねえか」


 違った。囲まれていたのはおじさんだった。

 こちらに手を大振りしているが、目立っているので他人の振りをしよう。


「おいおい、待てって。聞こえてるだろ!?」


 通り過ぎると、おじさんに後ろから肩を掴まれた。


「不審者ですか事案ですよ憲兵呼びますよ」

「お前は何を言ってるんだ……。たった二日で顔忘れたとか言うんじゃねえだろうな」

「冗談だよ。何の用だ?」


 とふざけていると、周りからお怒りの声が聞こえてきた。


「貴様! その方が誰か知らないのか!

 伝説の弓使い、弓聖のヤコフ様だぞ!」

「Gクラスは物事を知らな過ぎる! 呼ばれたのはお前じゃない! 弓聖様の通る道を遮るなど無礼だ!」

「そんな口の聞き方が許されると思っているのか!」


 アイドルおじさんへの対応が悪かったらしく、大バッシングである。


「静かにしろ。俺がこいつに用があって来たんだ」


 おじさんが少し声を張る。

 しん、と生徒達は静まり返った。その顔は信じられないと言った様子。


「おじさん、とりあえず歩きながらでいいか?」

「もちろんだ」


 というわけで、四人で生徒会室を目指しながら用件を聞くことにした。


「ぼっち、俺は国への報告が終わったから、ソリーに戻ろうと思うんだが。

もう一度あの魔法を使って貰えねえか?」


 そいえば、ソリーで魔族と戦ったことについての報告はおじさんに任せっきりだったな。


「もちろん構わないが、たまには運動した方がいいんじゃないか?」

「そうしたいところだが、復興作業は少しでもはやく進めたいからな」

「なるほど、道理だ」


 リーと再契約したことで街にモンスターが入ることは無くなった。しかし強力な冒険者が減り、街にもダメージがある中、有名人がいないというのも不安を煽ってしまうものだろう。


「こっちにはマティヴァも残るし、お前には可愛いお嬢さんが二人もいるんだ。

 寂しがることねえよ」

「別に寂しがってないんだが……」


 と言っておきながら、送ることを思いとどまる。


「悪いが、おじさんを送るのは話し合いの後だ。

 急で申し訳ないが、参加してもらうぞ」

「俺がか? 学院にこんな年寄りが関わっても意味ないだろ」

「……魔族がこの街にも出た」

「なん、だと」


 おじさんの表情が険しいものになる。


「そりゃあ、聞いていかないわけにはいかないな」


 足を止める。

 生徒会室と書かれた札を確認し、目の前の大きな扉を開いた。


 部屋の中には、剣を抜いた生徒会長のレイミア・レルネー。

 杖を構えた王国魔法師団団長のカイロス・ネメア。


「やあ、待ってたぜ」


 そして、苔色髪の魔族――ライムサイザーが窓枠の上に座っていた。

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