第183話 特訓
「それで、これは一体どういう状況なの?」
制服に着替えたシオンが宿の庭にくるや否や、そんな疑問を口にした。
「特訓だが」
「オウカちゃんを吐かせるのが?」
目の前では制服に着替えたオウカがゲロゲロと大惨事を撒き散らしている。
「慣れるまではこんな感じが続くだろうから仕方ない」
「も、もう一度お願いします」
オウカは肩で息をしながらも立ち上がり、手に握っていた木剣を俺に向ける。
「よし、ちゃんと剣で受け止めろよ」
「はい!」
俺が自身の木剣を振り上げる。
「え、ツムギ遅すぎない?」
動きはスローモーション。オウカの頭めがけてゆっくりと振り下ろす。
シオンの反応も当然で、傍から見れば受け止めるなんて赤ん坊でもできそうな光景なのだが。
オウカは動かない。
額に脂汗を滲ませ、目は少し血走っている。
手が震えだし、まるで鉛できた剣とでもいいたげな動きで頭上へと持ち上げようとするが。
胸元まで運んだところで、俺の木剣が頭にぶつかった。
「どういうことなの?」
「目に見えない攻撃をしているのさ」
「目に見えない……あっ」
シオンも思い出したらしい。
「
ドラゴンが相手だからこそ対応しないといけない」
オウカは現在、俺の
攻撃よりも先に己を守れるようにすることが大事である。
なので竜威を受けながらでも動けるような訓練を始めた。
蛇に睨まれながら動ける蛙になれというわけだ。
「とりあえずはこれを完璧に防げるように。
それができたら、普通の攻撃をかわす特訓だ」
「は、はい。ありがとうございました」
朝はここまで。木剣をアイテムボックスにしまう。
オウカはその場に仰向けで倒れた。
完璧に、なんて言ったが、竜威はコツを掴めばあまり気にならなくなるのだが……それに気付けるかだな。
「オウカちゃん、昨日の――」
「お姉様」
シオンが口を開いたとき、倒れていたはずのオウカがいつの間にかシオンの前に来てその口を塞いでいた。
そして何かを耳打ちする。
「……いいのね?」
「はい」
何がだ。
「で、オウカが何なんだ?」
「乙女の秘密よ」
教えてくれないらしい。
まあ、重要なことでなければいいか。
「昨日と言えば、学院に行く前に、二人から話を聞かなきゃな」
***
「なるほど」
まとめると。
三人組が魔法でシオンを攫った。目的は俺を昇格試験に出さないため? らしい。
しかしそのうちの一人がライムサイザー、つまり魔族で、内の一人を使ってドラゴンのベリルを誕生させた。
ライムサイザーの目的は妖狐族だったが、シオンとオウカが知らないふりをしたので、俺に話を聞くためその場をベリルに任せて去ったと。
ベリルがシオンに手を出そうとしたためオウカが戦ったが敗北。というところで俺が来たらしい。
「
ベリルのレベルが低かったのは生まれたてだったのか。
しかし、長年生きたような言動があったから、前世の記憶があるのか、もしくは封印が解かれたという考え方の方がしっくりくる。
ベリルは生まれてしまったのだし仕方ないとして。
「ライムサイザーの目的が妖狐族というのは……」
そういえば、そんな質問をされたような気がする。
魔族だってことに気を取られて、まともな返事せず攻撃しちゃったよ……。
「魔族がオウカのことを探しているということになるか……?」
「でも、私は最初魔族に売られたのですよね」
そうなんだよな。オウカを売ったのは魔族であるアンセロだった。
「でも、あの後アンセロも襲ってきた。
俺にオウカを売ることが目的だった……?
ならなぜそのことをライムサイザーは知らない」
どうも、魔族の行動に統一感がないな……。
「とりあえず……このあと生徒会長たちと話し合うことになってるが、話すのはドラゴンのことだけにしてくれ。
妖狐族については、もう少し隠そう」
これも、バレるのは時間の問題だろうか。
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