第215話 告白

「……?」

「もう一度言おうか。

 私と結婚し、旦那様に――つまり、レルネー家次期当主になる気はないかい?」

「は? やだよ何言ってんの」

「嫌なのか……」


 何言いだすんだこいつ。


「私も一人の女だ、そんな即答で拒否されれば少しは傷つくのだよ?」


 ほんとに何言いだしてるの?


「俺はそういう煩わしいことは御免だ」

「貴族になることが煩わしいとはね。

 地位と権限が与えられる。そのことを理解しているかい?」

「それ以上に面倒ごとが持ち込まれることもな」


 第一、貴族で順位つけてる時点でおかしいだろ。貴族同士で競争してるってことじゃないか。


「そうだレイミア・レルネー! いきなり何、をっ!?」


 カイロスが口を挟むが、急にふらついてその場に倒れた。

 後ろには、気絶しているエルをお姫様抱っこしたメイドが立っていた。いつの間に入ってきてたの? ていうか手刀ですか?

 あ、この話をエルとネメア家に聞かせないためか。いや、だからって王女気絶させたらまずいでしょ……。


「いきなりあれもこれも頼むつもりはない。次期当主と言っても、一度は私がならないと面目が立たないからね。

 しかし私も将来は相手を用意しなければならない。それはできるだけ早いほうがいい。第一子でもなく、男でもない私が当主をするというのは不利なんだ」

「将来的に俺が婿入りして当主になれば、そうした不利も解消できると?」

「君の力は本物だ。将来国を動かせるほどの存在になり得るだろう。それからでは遅いんだ。だから今、私は君が欲しい」


 とんだ告白プロポーズだ。

 というか、結婚なんて考えてもいなかった。マティヴァさんと少し話したくらいか。そういえばマティヴァさんどうしたんだろう。


「実務は私が引き受ける。君には名目上の当主と、強力な魔法アビリティ、あとは子種でもくれればいい。その代わり、必要なものは用意しよう。

 彼女……妖狐族について調べるのはそう簡単ではない。

 この一か月で君は十分に理解しているはずだ。妖狐族の情報というものはあらゆる分野で偏見されている。誰もがその存在を受け入れたりしない」

「そうまでして俺をレルネー家に取り込みたい理由がわからんな。

 俺よりも優れたやつならいくらでもいるし、ドラゴンを倒したからというなら、たぶん他の勇者候補にもできるぞ」

「確かに。しかし君でなければダメな理由が一つだけある」


 そう言って彼女は三つ編みを持ち上げる。

 0と刻まれたキズナリスト。

 

 彼女と互いの隠し事を話した時、彼女のステータスにはキズナリストが表示されなかった。それは誰とも契約していないからだ、と思っていた。

 しかしそれより前、彼女と初めて出会った時に一つ違和感があった。


 彼女の名前は ◆レイミア とだけ表示されていたのだ。


 貴族で家名があるのにも関わらず、ステータスには名前しか表示されない。

 ステータスがそういう仕様、と思っていたが、そうじゃなかった。

 クロノスと戦闘したとき、あいつのステータスは確かに ◆クロノス・ネメア だった。


 この情報の中、加えて俺が知っているのは、レルネー家が奴隷魔法を作ったということ。

 そこから導きだされる答えは単純。


「ツムギくんの朝の言葉で驚いたよ。まさかこの真実を見抜いていたとはね。

 君の考えている通りだ。

 私は、レルネー家の奴隷だよ」

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