第349話 太陽の名を持つ精霊

「こ、光本!」


 校庭に移動させられていた他のクラスメイトたちが、安心した顔で光本たちへと駆け寄る。

 ひーふーみー。勇者候補はこれで全員回収完了みたいだ。


「紡車くん、また君に全てを任せてしまった。すまない。

 怪我をしていたみんなを手当していたんだ」

「それは理解している。それと、倒したのは俺じゃなくてクラビーたちだ」


 実際俺なんて捕まってただけだし。


「クラビーさん、もありがとう。

 本来なら魔族は僕達勇者候補が倒すべき相手なのに」

「礼を言われる筋合いなんてありません。

 クラビーはクラビーの意思で動いてるので」


 面倒くさそうな様子でぶっきらぼうに返す。クラビーとしては早く次に移りたいと言った様子だ。


「クラビー、この先何が起こるか分からない。味方は多い方がいい」

「何言ってるんですかツムギさん、足でまといの間違いじゃないですか?」

「なんだとっ」


 クラビーの言葉に反応したのは藤原だった。

 彼が詰め寄って来ようとするが、それを隣の生徒が腕を掴んで止める。


「だ、ダメだよ藤原くん、つ、紡車くんに逆らっちゃ」


 飛野か。あまりに雰囲気が違うから誰かと思った。

 殴られた顔は回復薬で元に戻ってるが、こちらを見てはビクビクとしている。完全にトラウマになってるじゃねーか。


「そっちは知りませんけどね、こっちはもう仲間を殺されてるんですよ!

 まともに戦えない勇者なんて必要ないんですお呼びじゃないんです」

「クラビー、ちょっと冷静になれ」


 クラビーの声が徐々に大きく苛烈になってきたので抑える。


「だってツムギさん! なんですか、僕達が倒すべき相手とか言って、何もしてない連中ですよ!

 本当に彼らが戦えるってなら、レイミアさんは」


 クラビーの声は徐々に悲しみを含んだものに変わっていく。

 俺はその頭をそっと撫でた。


「俺が救うべきだったんだ。だけど何も出来なかった。本当にすまない」

「だって、ツムギさんの大切な人を亡くしてるんですよ。なのに」

「俺たちにできるのは、進むことだけだ。

 倒すべき敵を倒して、レイミアの意思を引き継ごう」


 クラビーは俺の代わりに泣いてくれている。

 また期待を裏切らないためにも、俺は進むしかないのだろう。


「これ以上、この学院の生徒を巻き込むわけにも行かない。クラヴィアカツェンが消えても、操られた生徒たちがオウカを襲ってくる可能性はある。早々にこの状況を作っている精霊を倒す」

「せ、精霊……そういうのもいるのか」


 簡単に状況を説明したあと今後の方針を伝えると、クラスメイトたちは揃って息を呑んだ。

 というか精霊なら目の前にいる。


「それで精霊はどこだ」

「あちらです」


 リーに問うと、彼女はある方向を指差した。


「なるほど、最初に戻るというわけか」


 そこはエルの講演会場だった。


***


 会場内に入ると、光明石の明かりは消され、青白い陽の光がうっすらと入り込んでいるだけだった。


「三浦さん、明かりをお願いできるかな」

「うん、アビリティ!」


 クラスメイトの魔法によって会場内が一瞬で明るくなった。

 そして壇上の上の人影に、俺は目を細める。


「やっと初めましてだな、オールゼロ」

「視覚情報を絶対とする貴様でもないだろう、ツムギ?」


 黒いローブを身に纏い、脚がない代わりに浮遊する姿。フードの奥は漆黒。

 ステータスは……なるほど。


「これまでの魔族絡みの面倒、全部お前の仕業ってことでいいんだよな?」

「如何にも。そしてこれが、最後の面倒だ」


 俺たちの前に粒子が集まり出して、そして人の形を成していく。

 現れたのは白いローブの女だった。


「こいつが」

「はい、神に近き太陽の名を持つ精霊。

 ――ゾ・ルーです」


「――クフフ」


 リーの声を聞いて、女が口角を釣り上げた。

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