第286話 夜闇石
「でも、どうせすぐに気付かれる」
「だろうな」
便利な魔道具ではあるが一時しのぎでしかない。
相手はドラゴンで変に知識のある奴だ。
「気付かれたら、今度はクラスメイトが襲われる」
「何人か覗いてたからな。異常事態だってのは他の奴らも気付いただろうし、王城にはエル王女も騎士団もいる。王城が大騒ぎになるな」
「紡車、あれを止めて」
「敵か味方か聞いといてよく言うよ」
「少なくとも私を助けようとしてくれた。それを信用する。
それに……誰かが止めないと、ヒヨリが悲しむ」
そう言われてもな……。
一度戦った時は影に逃げられて倒せなかったし。
「いや、まてよ。影……か?」
「何かある?」
「ちょっと待ってくれ」
考えを巡らす。
前回は光明石で光を強くして影を遠のかせた。
なら逆に全てが影であればどうなる?
「カイロスの所に行ってみよう。
あと、お前に頼みがある」
***
中庭は阿吽絶叫だった。
『ふははは! 愚かなる人類よ、我輩の前に泣きわめくことしかできぬとは!』
俺と両木、そしてカイロス筆頭の魔法師団が到着した時には、クラスメイトがほぼ集まりマスグレイブと戦っている最中であった。
全員頑張って魔法を放ってはいるが腰が引けている。
マスグレイブは月明かりや魔法の光で生まれた影から影へと移動してその攻撃全てを避けていた。
「あれも、竜だというのか」
カイロスが慄く。ベリルとはまた違ったタイプだし、イメージが崩れていくのも仕方が無い。
しかし、不幸中の幸いか、死傷者は見当たらない。
いや、マスグレイブはわざと攻撃していないのか。
楽しんでいる、というよりは弄んでいると言ったところか。
「時間が無い、頼むぞ」
「本当に上手くいくのか?」
「他に策があるならそっちをやってくれてもいいが」
「……いや、貴様の考えに従おう」
相手の特性もわかってない人に無理を言った。あれこれ文句ばかり言われていても仕方ないしな。
当たって砕けるしかない。
「マスグレイブ!」
『出てきたか捕食者よ!
小癪な真似をしてくれたものだな。見事に騙されたぞ!』
「そりゃどーも。
もうお前のこと討伐するしかないことは分かってるよな?」
『討伐?
ふははは! 誰がだ? こいつらか?
腰抜けの集まりではないか。こんなもので我ら十の竜や魔王を倒せると思うか!』
「んなことはわかってんだよ。
だから――俺が相手だ」
アイテムボックスから剣を取り出した。
「紡車くん、無茶だ!」
「黙って見てろ」
止めようと声を張り上げた光本を振り切って風のごとく駆ける。
マスグレイブは笑い声を上げながら姿を俺へと変え、影から同じ様な剣を作り出した。
二つの剣がぶつかり合い風を巻き起こす。
「まさに光と影! 表裏一体!
しかして一方は光を浴び、もう一方が影に潜まなければならない!」
「そんなことはない。二人一緒に影へ沈もうぜ」
『む?』
「カイロス!」
俺が叫ぶと、周辺に石が投げられる。
俺の姿をしたマスグレイブがそれを確かめるように目を細めた。
『その黒い石……
瞬間、石が破裂し視界全てが闇に覆われる。
光を生む石があるなら、闇を生む石もあるかもしれないとカイロスを訪ねた。
そして目論見通り、夜を吸いこみ闇を生み出す石が存在した。
「で、光なき闇の世界はお前にとって平地も同然。
よお影喰らい、喰らわれる覚悟はできているか?」
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