第26話 命のやり取り

 飛野を部屋に入れた。


「どうして飛野が?」

「うん、ちょっと紡車くんのことが気になって」


 部屋の隅に移動させていた丸テーブルと椅子を引っ張てきて、向かい合うように座る。


「わたしたちと違って一人での訓練でしょ? 寂しくないかなと思って」

「いや、そういうのは特に……」


 寂しいとか思っている余裕なんてない。

 もしかしたらという、そんな恐怖しかなかった。


 ――飛野に相談すればいいんじゃないか?

 そんな考えが脳裏をよぎる。


「わたしたちもね、大まかな説明を受けた後、すぐに戦闘の指導を受けたの」

「え? あ、ああ」


 考えに意識が集中していて、飛野の言葉を聞き逃しそうになる。


「わたしたちがこれからやるのは、命の奪い合いなんだね」

「うん……」

「誰かを殺して、もしかしたら殺される。そんな世界なんだね」

「……うん」


 そうだ。魔王を倒す目的で召喚された俺たちは、つまりは魔族を殺さないといけないのだ。

 命のやり取りなんだ。

 本当に殺されるかも、なんて甘いことは言ってはいけない。


「紡車くんの方は、どうだったの?」

「俺の、ほうは―――――同じ感じだよ。すぐに基礎の訓練を始めたんだ」

「そうなんだ」


 同じだねと、飛野が笑う。

 言えない。言っていいわけがない。

 ここが俺たちのいま生きている現実なのだから。


「紡車くん、

「うん」


 そろそろ、と飛野が立ち上がり部屋を出ていこうとする。


「あ、そうだ」

「ん?」


 ドアノブに手をかけた飛野が、こちらへと振り向く。


「今度から、下の名前で呼んでいいかな。わたしのこともヒヨリでいいから」

「……わかった。俺はツムギだ」

「ツムギくん……おやすみ」

「おやすみ、ヒヨリ」


 少しだけ、心が温かくなって。

 だからこそ、本当に強くならないといけないと感じた。


***


 翌日、俺は最初に街のギルドへと行かされた。

 冒険者として登録し、スライムとゴブリンの討伐依頼を受けた。

 その後、三人の騎士に連れられ、都市外の森へと入った。


「スライムとゴブリンを見つけ次第、体内に含まれる魔石を残して狩れ」

「魔石……はい!」


 渡された短剣を手に、モンスターを倒していく。

 最初は失敗ばかりだった。アシッドスライムの酸を顔に受けたり、ゴブリンの投げた石が頭に当たったり。

 なんとか倒しても、モンスターの身体は四散し魔石が残らなかった。

 その度に、騎士たちに殴られ蹴られ罵られる。


 だからと言って挫けている場合ではなかった。

 俺にはキズナリストがない。だからこそモンスターを倒し、経験値を増やしていくしかない。

 のだから。












「気に食わねえな」

 

 そんな声が聞こえたような気がした。

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