第35話 ヘンタイ!
「何であなたが驚くのよ!?」
オウカの叫び声にシオンも驚く。
「オウカは自分に関する記憶がないんだ。どうして奴隷になったのかもわかっていない」
「……そう、だったの」
シオンの目が優しくなる。というか少し潤んでいる。
そのままオウカの前で膝をつくと、彼女の頭を優しく撫でた。
「そうとは知らず、ごめんなさいね。大変だったわね。こんな根暗野郎の奴隷にされて弄ばれ凌辱されて……時が来たらすぐに私が買い直してメイドとして雇ってあげるわ」
「え、あの」
「おいおい適当なことを言い出すんじゃない」
「よく見ると可愛らしい子じゃない。瞳だって青くないし、邪視に関わるってのは噂に過ぎなかったのね」
俺の発言を無視して、シオンがオウカの耳を撫でる。
裸の妖狐と女奴隷商。絵面がひどい。
「へくち」
オウカがくしゃみをした。ずっと全裸で座らされていたからな。ここは窓もないしさすがに寒いだろう。
「ちょっと! オウカちゃんに服くらい着させないさいよ!」
「お前がその余裕を与えなかったんだが!?」
シオンに指摘されたのは癪だが、実際、裸のままはいろいろと問題だ。
とりあえず何か着せようとアイテムボックスを開いて――
「あ、服は昨日溶かしたんだった」
「ヘンタイ!」
シオンの蹴りが俺の腹にさく裂した。そんなに力がないから痛くはないが。
「仕方ないわね。ちょっと待ってなさい」
そういうと、彼女は部屋を出て行く。
と、思ったら顔だけを覗かせて、
「お風呂、入ったほうがいいわよ」
とだけ言い残していった。
***
浴室は一階にしかなく、俺たちの部屋は二階である。
というわけで、ベトベトの上着をオウカに被せ、他の人に見つからないよう浴室へと向かった。ありがたいことに、この宿は町の中心からそこそこ離れた場所にあるため冒険者はあまり泊まっていないのと、お昼すぎということもあり人はほとんどいなかった。
唯一遭遇した宿主はオウカの状態を一瞥すると「はいはい、さくおたさくおた」と言って去っていった。一般契約奴隷だと説明してあるはずなんだが……。
衣服は水魔法で水洗い。風魔法で乾燥していく。魔法って素晴らしい。
オウカを座らせて頭から水を掛ける。
「冷たくて気持ちいいでぶぶくぶ」
「水かぶってる時に喋るんじゃありません」
年の離れた妹か子供の世話をしている気分になる。
この世界の洗剤を使って頭と尾っぽをわしゃわしゃ。身体は自分で洗わせた。
「次は私が洗いますね!」
オウカの無邪気さが、子供っぽさを助長させている気もする。
「……気にならないのか?」
「何がです?」
「妖狐が敵対種族って話」
頭を洗ってもらいながら、オウカに問いかける。
「自身の記憶もないまま、自分の種族がみんなに嫌われてるって聞いて……辛いなら辛いって言っていいんだぞ?」
しかし、オウカの答えは――
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