罪を背負って(宿)

第249話 長い一日

 マティヴァさんが目を覚ましたのは朝方になってからだった。


 驚いた様子で起き上がったマティヴァさんは、隣で椅子に座っていた俺を見るやいなや、目尻に涙を溜め込んで抱きついてきた。


「ツムギちゃん無事だったのね」

「俺より自分の心配してくださいよ」

「シーファは?」

「もう魔法も解けて無事ですよ」


 その後、今回の事件を一通り説明した。もちろん魔族の部分やマティヴァさんが第二王女だったという部分を除いてだ。


「なので今後あいつがマティヴァさんの前に現れることはありません」

「そっかぁ……。色々としてもらっちゃってなんか悪いな」

「みんなマティヴァさんが受付嬢をやってくれることを望んでます」

「ツムギちゃんもお?」

「もちろん」

「そっかあ……じゃあ、頑張らないとね。

 ありがと、ツムギちゃん!」


 翌日、マティヴァさんをギルドへ連れていくと、ギルド内は歓喜に包まれた。

 いつの間にか、マティヴァさんが戻ってきてたこととインギーに連れ去られたことが知られてしまっていたらしい。インギーとマティヴァさんがシーファの家から出るところを誰かが見てたらしい。

 無事だったことにアマゾネス姉貴も安堵したのか、涙を流しながらマティヴァさんに抱きついていた。

 そして、一度連れ去られてしまった俺の報酬は減額された。辛い。


「はぁ……」


 騒がしいまま宴を始めるギルド内の隅で、報酬額を確認しながらため息をつく。

 これでマティヴァさんの件は完全に終了だ。長い一日だった気がする。結局寝てないし。帰ったらゆっくりしたい――ところだが、そういうわけにもいかない。


「ツムギちゃん、参加しないのお?」


 ギルドを出ていこうとするとマティヴァさんに引き留められる。


「すみません、まだやることがあるので?」

「私のことで……?」

「いいえ、ここからは自分のことですよ」


***


「条件付きの婚約……?」


 レルネー家に戻り、レイミアに俺の気持ちを伝えた。

 合わせて、召喚された俺とクラスメイトが何をしなければいけないかを。


「魔王復活の阻止、か。あの話をしたあともあるから、にわかには信じがたい」

「俺自身も魔王なんてものは欠片も見たことない。だが魔族が復活に向けて動いているのは事実だし、前回のスライム男やドラゴン、今回のアンセロと魔族が実際に現れている」

「……なぜ、魔族はツムギくんの前にばかり現れるんだい?」


 当然の疑問だ。俺は自分の首元を指差す。


「俺は奴らの親玉であるオールゼロに狙われている。

 理由はキズナリストだ。奴らは何故か0という数字にこだわりがあるらしく、キズナリストを結んでいないぼっちを滅ぼしたいらしい」

「ふむ、私も一時的に奴隷を解除されているから今は0だが……なら私と結ぶというのは?」

「いや、レイミアはラセンさんと結ぶか、戻りたいなら奴隷に戻ればいい。

 俺は今後誰とも結ぶ気はない」

「囮になっていれば魔族からやってくるから、こちらは自然と魔王に近づきやすくなると。

 本当に君は厄災に愛されているね」

「それが、いま俺がこの世界にいる理由だ。

 このすべてが終わったあとでなら、婚約でも何でもしていい。それが条件だ」

「いいだろう、その条件付きの婚約を飲もうじゃないか。

 我がレルネー家も、未来の旦那様の為に尽力させていただくよ」


 こうして、俺はレイミアと婚約関係を結んだ。


「さっそくで悪いんだが、天級魔法は俺にも使えることができるのか?」

「ツムギくんの実力であれば、できないことはないと思うが……どうしてまた?」

「魔族と戦うにあたって、もう一つ面倒な奴らがいる」

「……邪視教かい?」

「ああ、奴らのことを知るために。そして、その中心にいる妖狐を知るために。

 ――その魔法をオウカに使いたい」

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