第44話 首のない死体

 肩より上には肉片が散らばり、身体の方は変色している。あんまり長く見ているのも失礼かもしれないが、確認しなければならない。

 軽装備に黒のマント。小太りな体格で、ネイクラさんの顔が当てはまりそうなものであはるが……。


「これだと、誰の死体なのかわかりません」

「ん? ああ」


 オウカが平気そうにしていることに驚きつつ、異界の眼を発動する。

 この世界の冒険者は、顔のない死体に対して装備品でしか誰か判別がつかないだろう。

 しかし召喚されてこの世界に来た俺は、アビリティでステータスを読み取ることができるから、目の前の死体が誰なのかを確実に知ることが出来る。


◆ネイクラ

 種族 :-

 ジョブ:-

 レベル:-

 HP :-

 MP :-

 攻撃力:-

 防御力:-

 敏捷性:-

 運命力:-


 この死体はネイクラさんので間違いない。

 ネクロマンサーではないが……。というか、名前以外のステータスは消えている。死んだせいだろうか。

 オウカは俺が名付けてから名前がついていたから、個人の意識でステータスが動くものかと思っていたのだが。

 本人関係なしに名前が残るなら、オウカは名前を付けられず生きてきた、ということになる。

 と、考えが逸れてしまった。


 死体から状況を推察する。

 肉片と血痕が散乱しているのは当然として、首元をよく見れば、剣で切られたという傷口ではない。何かで引っ掻かれたとか、千切られたような粗さが見てとれる。


「モンスターにやられた……というところか」

「マティヴァさんが言っていた武器も見当たりませんね」


 死体には何も装備されていない。

 仕方なく死体のポケットを確認すると、ギルドカードが出てきた。


「あ、ネイクラって書いてありますね。この死体はネイクラさんで間違いないみたいです」


 ギルドカードにはネイクラという名前と、Dランクが刻まれている。異界の眼いらなかったな……。


「死者を操る武器ってのも気になっていたんだが、最優先は死んでいたという報告だ。死体を持っていくのも面倒だし、このギルドカードだけでいいだろう」


 とりあえず、この試験は俺たちが――


「――っ!?」


 対象選択殺意を感知して咄嗟に振り向くが――

 直後、全身に電撃が迸った。


「あああああっ!?」

「ご主人様!?」


 感知はんのうが遅れた。

 この世界の魔法は対象を選んだとき、選ばれた相手はその気配を察知することができる。

 しかし、どれくらい察知できるかは相手とのステータス差次第だ。


 カンテラが音を立てて落ちる。

 動かない身体が倒れそうになるのを、オウカが全身で支えてくれた。

 が、オウカでは俺が重すぎたのか、ゆっくりと地面に触れた。


「案内、ありがとうございました」


 木の陰から誰かが出てくる。

 持っていたカンテラに照らされて、その姿がはっきりとした。

 銀色のプレートアーマーに、兜を被った少年。


「――セン!?」

「後をつけて正解でしたね」


 少年は、剣を抜いていた。

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