第3話 ゲームのような世界だった
現状俺は攻略本だけ持たされて異世界に放り出されたような状態だ。
攻略本ってのは、神様に頭の中にぶち込まれた知識の事。これはこの世界の人間が見つけた知識の集大成みたいなもので、町の子供も知っている常識から、絶海の孤島に隠居する賢者の知識まで、今生きている人達がもつすべての知識が手の中にある状態だ。
ただし知識だけ。
俺の肉体自体は地球で暮らしていたころと何一つ変わっちゃいないから、この知識だけじゃその辺のゴブリンに殺されるのがおちだ。
……命がけで低レベルクリアなんかしたくない。
「ステータス、オープン」
キーワードを口にすると、目の前にステータスウィンドウとしか言えないものが現れる。
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名前:ワタル・リターナー
状態:健康(18)
職業:
レベル:1
HP:10
MP:10
STR:10
VIT:10
INT:10
DEX:10
AGI:10
ATK:10
DEF:1
素質:全職種適正(適性),全技術適正(適性)、全魔術適正(適性)
スキル:なし
魔術:なし
加護:集合知(クロノス王国歴290年版)、
異能:
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ん~……見事に初期値。
これはこの世界に魔王が生まれた時に生み出された対抗策の1つ。
今から1000年ほど前に金の魔王という存在が生まれ、この世界が滅びに向かい始めたあと、この世界の神々は様々な対策を打った。
ステータスによる能力の可視化、職業によるスキルの継承、レベルによる肉体の強化。これらは地球をはじめとした他の世界を参考に設計され、適用された。
今の形になったのは800年ほど前らしい。そこからは一進一退。それがここ最近は劣勢に傾き始め、打開策として俺が呼ばれたと。
ちなみに俺が失敗した場合、次の手はVRMMOとしてこの世界と同じシステムの仮想世界を適当な異世界に公開して適正(適性)者を募り、リモートか拉致かは知らんが大量入植させて打開する予定だとか。
新たな入植者が脅威になる可能性が高いから、あまりやりたくは無いっぽいな。
帰りたい俺を選んで送り込んだのも、うまくいった後の影響を抑えるためだろう。
「適性はあるが……自分で鍛えろってか?……なんだろう?この異能っての」
この世界の知識に、こんな項目は無い。特別オプションか何か?
集合知ってのは詰め込まれた知識のことかな。
「……今って、クロノス王国歴何年ですか?」
「今年は303年になります」
……10年以上も前かよ。あぶねー、確かめておいてよかった。
情報伝達がまだまだ発展してない世界だから、大きく変わってることは無いだろうけど、油断はできんな。
「
これは俺があったこの世界そのものの方じゃなくて、その下で働く神様の方っぽいな。
使いすぎると加護を失うこともあるっぽいけど……説明書とか、ヒントみたいなものか。困った時と、向こうから用がある時しか答えてくれないもよう。
……やっぱ異能が分からんな。
「聞いてみるか。女神像は活きてますか?」
「ええ、活きておりますよ。この地にワタル様が降り立たれるために、ここだけは整備しておりました」
それならもうちょっと綺麗にと思うが……無理な話か。アンカー村が廃村になったのは15年ほど前のようだ。
勇者の降臨先は極秘情報。彼女一人でここを整備するのは簡単にできる話ではない。
「あー……神様、神様、聞こえていますか? ステータス欄にある異能という項目と、『
女神像に簡単な祈りをささげる。
街の教会だと結構荘厳なやり方をするようだけど、実はそんな必要は無いらしい。この辺もこの世界の教会でも一部の人しか知らない秘密だ。
『異能。今はまだこの世界に存在しない力。貴方が受け取り、持ち込んだもの。
……よくわからんな。腕立てでもすればステータスが上昇するんだろうか。
そして
スキル取得とかレベルアップとか転職とかの時に流れるメッセージが神の声だ、なんて知れたら、ありがたみも何もあったもんじゃない。
「とりあえず、状況確認は良し。何にもできないことが分かった」
セオリーだと初心者状態でレベルを10まで上げて、それから転職。職業は……大雑把なくくりか。剣士だの魔術師だのといった戦闘向きのものから、大工や鍛冶といった一般職まで様々。それぞれに神様がいて、転職してレベルを上げるとその恩恵によってスキルが使えるようになると。
他の職業に転職することもできるけど、そうすると基本的に前職のスキルは使えなくなる。ただしスキルレベルが一定まで達していれば問題なく使えるのか。
後は、職業に関係なく習得したスキルや魔術はそのまま使えるか。習得方法は……教えてもらうか、自分で編み出すか。……編み出す方は無理だな。恐ろしいレベルの反復が必要だ。
「シスター・グース。レベル1の初心者でも使える魔術を教えてもらっていいですか?」
俺には全魔術適性があるし、なくても簡単な魔術なら覚えられるはずだ。
「ええ、もちろんです。ですが、まずはここから村へ戻りましょうか。これを」
渡されたのは古びた鉄の剣。
長さは刃が70センチほど。いわゆるロングソードにあたる物だろう。切れ味はいま一つっぽい。
『古びた剣:打ち捨てられたロングソードを修理して作られた剣。切れ味にかけるが、木の棒よりはだいぶマシ。ATK+20』
おっと、集合知が鑑定みたいな仕事をしたな。
重いけど振り回せないほどじゃない。無いよりはマシいだろう。
「ありがとうございます。お借りします」
「私にはもう扱えないものですから。勇者様にお渡しするにはみすぼらしいものですが、良いものが手に入るまでお使いください。それでは参りましょう」
こうして俺は異世界での第一歩を踏み出した。
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