第446話 ワタル・リターナー捜索会議

「……無茶苦茶言いますね」


 モーリス殿下とワン閣下を東へ送り届ける案をバーバラさんに説明した所、バーバラさんはあきれた口調で顔をしかめた。


「でも、出来るでしょう?」


「まぁ……できますよ?使い捨てと考えれば、むしろ構造的にはシンプルでしょう。圧縮式ジェットブースターを使い捨てにするのは良いんですか?」


「自壊陣で消失させればいいし、最悪技術はクロノス経由で売ればいいから。ベースは魔術無効化ディスペルの魔術回路だから表に出せる」


「……それを王国に報告するのは私なんですよね?」


「……まあまあ。単なる推進力発生装置だし、そんな大したことにならないと思うよ。多分」


「こっちの目を見て言ってください」


 使える物は使っていく方針なんだ。あきらめてくれ。


 基本設計とパーツだけを準備して、残りはバーバラさんに任せる。本格的な動作確認はコクーンで実施することになるだろうが、手伝っている時間的余裕がない。


 宿の中、交代で警戒しながら夜を明かし、人が動きに紛れる形で準備を始める。

 タリア、バーバラさん、コゴロウの3人は一足先に街の外へ。アーニャはダンジョン組と接触するため彼らの仕事場を回る。俺はと言えばネクロスの姿でギルドに顔を出し、その後は昨日報告を行った役所に向かう。


「おや?……ネクロス・ホワイト殿、いかががされましたか?」


 役所に行くと応接室に通され、来客対応の職員がやってきて首を傾げた。

 昨日対応をしてくれた男の一人だ。今日明日には出発すると伝えてあったから、再び来所するとは思わなかったのだろう。


「ああ……昨日、ギルドに顔を出した仲間から、手配書が出回ったと聞いてな。何か情報があれば聞いてから出ようと思い、顔を出させてもらった。誰か分かる者はいるか?」


「なるほど。少しお待ちください。その件の会議があるはずなので、同席可能か確認します」


 そう言うとすぐに許可を取ってくれる。朝の集会が終わり、これから臨時会議が始まる所だったらしい。

 応接室から学校の教室ぐらいの会議室に通され、後ろ側の席を指定された。すでに何人か席についており、中には魔物の姿も見える。

 案内してくれた役人が隣に腰を下ろした。一応幹部なので、顔つなぎとサポートをしてくれるらしい。


 あっという間に人と魔物が集まって、最後にライオンの頭をした魔物が入って来た。

 ……あれは強い。1万G級オーバーサウザンツでも高位、もしかしたら10万G級準ミリオンズに到達しているかもしれないな。


「む、見知らぬ顔もいるな」


「はっ、こちら街道への魔獣侵入を報告された聖騎士のネクロス・ホワイト殿です。ネプトゥーヌスへの旅中ではありますが、ギルドでの手配書を見てご足労いただけました」


 隣に座った役人が紹介をしてくれたので、邪教徒式の挨拶だけ返す。

 あくまで外様というスタイルで居れば問題無いはずだ。


「そうか、ご苦労。さて、必要なものは集まっているようだ。始めよう」


「はい、それでは警戒令が回った領内侵入者に付いてご報告いたします」


 取り仕切るのは演台に立った中年の男らしい。

 出回った手配書の情報を読み上げていく。板書のようなことはしないのか……薄い木版にメモを取っているものが多い。邪教徒側の方が識字率が高いんだっけか。


「報告者は”棺負い”のプルート殿となります。御仁は現在進行中の南北分断戦に置いて、最東端拠点の一つとなる予定であったフォレス皇国にて、ワタル・リターナーと矛を交えており、本国帰還後は会敵の経験から動向を調査する任に当たっておりました。クロノス王国の侵攻後の調査で、兵の一部が撤退に見せかけてクトニオスに侵入した痕跡を確認。現在はウーレアー周辺で捜索に当たっているとのことです」


 ……コゴロウの予測が当たったな。


「侵入者の数は分かって居るのか?」


「ワタル・リターナーは死霊術師を取得しており、生者は数人、それに死者を十数人単位で操っていると予測されております」


「む……奴は魔剣士だという話では無かったのか?」


「はい、先日まで魔剣士のレベルアップアナウンスがされておりました。魔剣士の到達レベルは現在75。何らかの方法で、戦闘用高速移動スキルの縮地まで定着させたものと思われます」


「二次職を複数とっていると?」


「その可能性は高いです。ワタル・リターナーの一党と思われる、タリア、アーニャ、バーバラ・カーティス、コゴロウ。この者たちが侵入していると考えるのが妥当と思われます。ワタル・リターナーの師と名前が上がる“竜殺し”のバノッサもメンバーの可能性があります」


「全員何かしら99レベルの天啓が出た者たちじゃないかっ!」


 その言葉に議場が一気にざわつく。

 アナウンスの所為でこっち側にも名前が売れているのは、やはりマイナスの影響がでかいな。


「そもそも、まずそ奴らが一党だというのは事実なのか?」


「はい。諜報を行っていた“惑わす悪夢”ルサールカ様から情報が展開されております」


 ルサールカにはあったことが無いが、情報源は恐らく伝染するパンデミック・ノーフェイスだろう。あいつはルサールカの部下と言っていたはずだ。


「目的は要人奪取と有ったが、確証は?ここが狙われる可能性もあるのだろう?」


「精霊による移動ルートの追跡結果から、拠点確保が目的でないと推察されています。破壊工作の可能性もありますが、今の所その兆候は見られていないとのことです。それに正面切って戦うには流石に戦力が少なすぎるでしょう」


 こちらの動きがバレたのは精霊の所為か。

 どの精霊にどういった問いかけをすれば判別できるのか、定まったものは集合知には無いな。魔素の精霊でも時間が経った魔術の痕跡を探すのは難しいはずだし……これはあちらの方が上手か?


「……狙われているのは、我々が護送して来た王子か領主なのか?だとすれば道中、襲撃される可能性もあったということになるのだが」


 要人奪取の話が出たので、こちらからウェインについての探りを入れる。

 あまり注目を集めるのは得策ではないが、情報がつかめれば儲け物だ。


「そこに関して言及は有りませんでした。あの者たちの移送は我々からの依頼なので、少なくとも、襲撃を懸念して移送をお願いしたわけではありません」


 二人の輸送はテラ・マテルからの要請か。

 ネクロスたちがあらかじめ聞いていた通りだな。あのタイミングではバレていたわけでは無い様だ。

 ……だとすると、どうして見つかったのかが分からんな。日数から言って、ワープの痕跡を見つけられたとは思えない。


「基本的な対処方針ですが、クロノスでは極めし者マスターと呼ばれているレベル99到達者の実力が未知数でもあることから、この者たちについては積極的な干渉を避けよ、と命令が出ている事は御存じの方も居ると思います。ですので、対処としては発見・クトニオスからの撤退を促しつつ、こちらの被害は最小限に抑えることを第一優先目標と想定しております」


「懐の蟲を逃がすのは、いささか弱気ではないか?」


「アマノハラの戦いで“影に棲む”ボガート様が敗北を喫しております。“混沌”のプリニウス様が敗北された戦いにも関わっているとの事なので、捕縛や討伐を目的とした場合のこちらの損耗がどれほどになるか、予想が尽きません」


「……3次職がそろっているとなると、市民にも被害が出る可能性があるか」


「はい。市街地で大規模魔術を行使されれば大きな被害が出ます。また、農地を破壊されれば収穫に影響が出ます。目的が確定できない以上、発見、それから撤収するように圧力をかけるのが良いと考えられます」


 総戦力差では我々側が圧倒的に有利なため、撤退する芽が有れば誘導できる可能性が高いと男は語る。


「また、先ほど少し話に上がりましたが、ウーレアーからの街道は湿地にカエル共が陣取っており封鎖中です。ウーレアーから目立たずこちらへ来る場合には、確実に街道でカエルと衝突することになるでしょう。既にこちら側に居る可能性を想定して、周辺の捜索をしながら、湿地前後で奴らの移動方向を見極めるのがまず打てる手立てかと思われます」


「現在確保したモーリスとホクサンの人質はどうする?狙われている可能性があるのだろう?」


「予定を変更して、一度召喚に利用しようと考えております。この地では1万G級オーバーサウザンツに届かない可能性がありますが、精霊による捜索や、巫女に対する目くらましには成るかと」


 ……それはまずいな。

 1000G級だとそれなりに居るし、見分けがつかなくなる。救出する義理は無いのだが、約束を守るのも大事だ。


 それからいくつかの質問が続き、警戒に当たる担当者が指名された。

 俺の顔は分からないので、見慣れない者には証の確認をしていくのが基本方針らしい。


『タリア、状況は?』


『聞こえてるわ。周囲に目立った動きはないから、侵入がバレてるわけでは無いわね』


 タリアは俺に追従する形で天眼通・天耳通を使い、役所の人間や魔物の動きを逐次観測していた。


『会議室のメンバーの顔は覚えてる?』


『一通り記憶したから、想起リメンバーを使えば問題無いわよ』


『了解。こっちは会議が終わりそうだから、次に進もう』


 欲しい情報の半分くらいは手に入った。

 ウェインが居る街が聞ければよかったが、探りを入れようにも話の流れが不自然になる。化けてるとは気づかれないだろうが、ネクロスが怪しまれるのはそもそも良くない。


 立ち会ってくれた役人に礼を告げて役所を出た。

 そのまま裏路地に入って、歩きながら呪文を唱える。


「……小精霊召喚サモン・リトル


 多重詠唱マルチキャストで複数の小精霊を呼びだし、手分けして役所から出ていく者を空から離れて見守る様に指示を出す。

 今日は天気がいい。少し高度を取れば見つかることはそう無いだろう。

 一体だけは王子たちが収容されている建物に向かわせる。すぐに召喚を始めることは無いだろうけど、保険はかけておいた方が良い。


『アーニャ、そっちは?』


『3人と接触は出来たけど、受送陣を展開しても大丈夫そうなところがまた見つからないよ』


『タリア、空から分かる?』


『ちょっと見てみる。それぞれ指示を出すから確認してもらえる?』


『了解』


 タリアの案内を聞きながら、人目を避けてダンジョン組を送還するポイントを探す。

 二人で手分けして何カ所かを巡ると、小結界キャンプを展開すれば周囲から視覚になる路地を発見する事が出来た。

 彼らは今日、街中で輸送の仕事を任されている。集合地点を連絡すれば、後はタイミングを見計らって決行するだけだ。


『リターナー殿、少し良いでしょうか』


 そうして集合場所を伝えると、トニーさんから返答があった。


『私の訊ねた輸送先に、攫われてきた者たちが居る様なのです。力になってあげることはできませんか?』


 むぅ、また難しいお願いが飛んで来たな。


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