第445話 状況把握
「……結構面倒くさい状況ね」
外のうるさい
「ダンジョン組の回収が最優先で、その後は王子と領主の救助かしら。並行してテラ・マテルにウェイン君がいないかを調べたいのよね」
ダンジョン組というのは、デルバイ・ダンジョンをお世話している元奴隷たちをざっくり指す総称だ。
「ああ、そうだ。街に入る前に街道に魔獣を呼び寄せて封鎖させちゃったから、ダンジョン組がすぐに出発できない。街の外なら受送陣を使って回収するのも容易いんだけど、街から出れない」
「そもそもどうするつもりだったのよ?」
「警戒されてなきゃ、街中で受送陣を使って平気だからさ」
中級・上級の索敵魔術や、パッシブの索敵スキルを使って周囲を調べている奴なんてそうそういない。
警戒されてなければ、街中でひとり人が消えても問題無いのだが、あの手配書が出回った後だとリスクが大きい。魔物は魔力効率なんか無視してスキルを使ったりするから、警邏の魔物がそう言う探索をしている可能性は十分にある。
「逆に警戒されていると使えない……か」
一度捕捉されたら受送陣や
「こっちに帰って来る時、二人に外にも街の外に出てもらったから、戻る分には問題無いと思う。ただ、アーニャの索敵スキルは限定的だから確証はないかな」
アーニャの3次職・盗賊騎士は戦士系統の職なので、中級以上の索敵・感知系スキルは最低限だ。素の能力で感知は可能だが、遠方で使われたパッシブスキルを感知するのは難しい。
「こっちから向うに行ったら、即座に魔素の精霊に頼んで周辺の索敵状況を確認して、問題が無ければ次に天眼通・天耳通で街の状況調査ね」
「それもスキル感知をすり抜けてやらないといけない」
「コゴロウが
「思った以上に」
「私の神降ろしと同じ感じかしら。多用しない方が良いのは間違いなさそうね。……ちょっとその
「体表面に発生させた魔素の膜で光を操作して、見た目だけを変えているのね。光の精霊でも反射に異常は見えないけど、魔素の精霊から見ると膜が見えるそうよ。ただ、どんなスキルを使っているかは分からないわ」
「精霊でもわからないのか」
「魔素の精霊は魔術の専門家ではないから、魔素の観測や操作は出来ても、その結果どんな効果が発生するかについては基本的に専門外らしいわね」
それが分かるなら、魔素の精霊だけですべて事足りるそうだ。
試しに他のスキル、例えば体を覆うように効果が発生していると考えられる
「……うん、その状況ならわからないわね」
とりあえず
集合知には……明確に術による魔素の動きの見え方に言及した情報は無いな。スキルや魔術ごとの研究はされていないのだろう。魔物にはどう見えているかは分からない。あまり過信はしない方が良いかな。
「巫女のスキルは感知されないかしら?」
「わからない。そもそも魔物相手の諜報戦はあんまり想定されてないし、職によるスキルや魔術は、人類同士が使って争うのを考慮してないから」
魔物側が使う術には、巫女のスキルを感知する物が生み出されている可能性はあるけど……わからないモノを悩んでも仕方ない。あると分かって居る能力なら、察知される前提で動けばいいのだ。
「戻ろう。そろそろ向こうは日が暮れる」
向こうに残った二人と小型受送陣で連絡を取り、異常がない事を確認したうえで、まずタリアを送り込む。
精霊に頼んで周辺状況を調べ上げ、わかる範囲の監視が無い事を確認したうえでバーバラさんとテラ・マテルに戻る。頭数が足らない。他に連れていける生者が居ないのが辛い。
『このメンバーだけで行動するのも久しぶりですね』
最近、工房に籠りがちなバーバラさんがそう漏らした。
『コゴロウが追いかけて来た時は、まだそれほど自由に動けなかったのよね』
俺とタリアがヒンメルに出た後、ウェインを追ってアーニャと共に南下して、それにバーバラさんが特使付きとして付いてきた。ウォールの戦いの後に亡者たちが参加したけど、自由に動けるようになったのはしばらく後だ。
デルバイ・ダンジョンで
『この姿でそう言う話しても違和感しか無いぜ』
アーニャとコゴロウは化けたままだだから、ほんとにその通りだね。
『……性別まで変わると不思議な感じね』
『……なんでこっちを見て言うんですか?』
タリアが男の姿に偽装したバーバラさんを見て目を細めている。
『あたしなんて身長も違うぜ』
アーニャは成長期でまだ小さい。出会った時と比べると少し身長が伸びているが、邪教徒の一団には彼女と同じ体格のやつはいなかった。
『当たり判定は変わらないのである。巨人族にでも化ければ、戦いでも有効活用できそうであるな』
『バレるのでやめてくださいね』
出来なくはないだろうけど、
足早に宿に戻り、
「トニーさん達に連絡を取りましょう。まだ2倍がいい所ですが念話を遠心化する魔道具を作ったので、ワタルさんなら届くはずです」
「おお、ついにそこまで行ったんですね」
アインスで使った時から欲しかったが、魔術回路の作成難易度が高く作れていなかったのだ。
『誰か聞こえますか?』
『あ、はい。アリッサです。聞こえています!』
最初に反応があったのはアリッサ・ミュラーさん。ダンジョン組の一人だ。続いて他の二人からも反応がある。聞くと異常は無く、街道の魔獣の駆逐が終わるまでは街中で輸送を補助することになったらしい。
『ただ、余り時間がかかるようなら飛竜を飛ばすと言っていました』
『了解です。……まだ見つかってはいませんが、俺達のクトニオス侵入がバレました。明日、合流して
『殿下、閣下、聞こえておりますか?』
続けてモーリス殿下とワン領主に念話を飛ばす。
『おお、ようやくか!待ちかねたぞ!』
『こちらは無事で、二人で小部屋に押し込められています。どうやらすぐに魔物の核にされるという事は無いようです』
予想通り、二人とも無事のようだ。
彼らには無理を言って再度捕虜になってもらったのだ。何とかして救助しておきたい。
『我々の侵入が魔物側にバレたようです。ちょっと強硬策に成りますが、明日中に再救出します。今の場所から動くようなことがあれば、念話で連絡をお願いします』
これで連絡は完了。
救出は……まとめる必要がある。ただ一晩はウェインの情報収集に充てたいとなると、明日の夜が妥当なところか。
『この後はどうするであるか?』
『タリアが合流できたので、まずは天眼通・天耳通で敵の陣を調べてもらいます。その上で、明日、相手を絞って使役のクリスタルを埋めましょう』
ウーレアーでは適当に侵入して、目についた相手にスキルを使うしかできなかった。タリアの天眼通・天耳通で情報を集めれば、事前に重要施設にアクセスできる邪教徒を選別できる。
『その上で殿下たちを助けるために夜襲をかけましょう。こちらの侵入がバレている以上、見つからない事に神経を使うよりずいぶん楽です。防衛拠点が不十分で、二人の場所も分かって居て不意打ちの短期決戦ならこちらに分があります』
ダンジョン組救出だけならこっそりいけるが、王子と領主は無理。後々彼らの口から俺たちの動きが漏れる可能性は捨てきれないので、確実に救助しておきたい。
『助けた後は……東にお帰り願いましょうか』
予測通りネプトゥーヌスにウェインが居た場合、彼らを連れて行くのは無理がある。
ただ、受送陣を使って送るわけにはいかない。
取れる手段は多くなかったが……こっちの存在がバレて良いなら手はある。
『ちょっとアイデアがあるので、昼間はそれを準備しましょう。バーバラさん、サポートお願いします。日が落ちるのと同時に救助を決行します。こっちの存在がバレているので、派手に行きましょう』
『ようやく某も働けるであるな』
『あたしは……どうすればいい?』
『……アーニャは周辺監視。魔力の動きを見てくれ。多分、一番上手い。時間に成ったら襲撃だけど……多分、二人の救助をお願いすることになると思うから、MPに気を配りながら準備をよろしく』
魔素の精霊の干渉を除けば、魔力視による監視が一番信頼できるのはアーニャなのだ。タリアが情報収集で天眼通・天耳通を使っている間、警戒はアーニャに比重が置かれることになるだろう。
そして救出。二人が監禁されている施設は、ワープ系高速移動スキルを常時妨害している可能性が極めて高い。そうなると救出にはアーニャの高速移動・自在飛翔で抱えて走ってもらうのが一番早い。ウェイン奪還の予行演習にもなる。
『ここからはスピード勝負。24時間で状況を打開するよ』
俺の宣言に、四人がうなづいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます