第444話 タリアの帰還
「タリア!」
受送陣を起動してもらって
「ワタル!早いじゃない、大丈夫だったの?」
「ああ、一応……おかえり。……ちょっと髪伸びたな」
「うん、ただいま。……切ってる暇は無かったからね」
久々に会うタリアは、以前と変わらず金色の髪を指に絡めてそう微笑んだ。
「同郷は見つかったのか?」
「……うん。ミリアムだった。……ずいぶん年上になったってたけどね。一応元気で、息子娘と孫も居たわ。あんまり時間が無かったからゆっくり話せたのは一日だけだけど……会えてよかった」
「そりゃ……送り出したかいがあるってもんだ。……でも、そんなに大変だったのか。精霊の力を借りれば、二週間もあれば南大陸の横断くらいできそうなもんなのに」
そう言うとタリアは突然顔をひきつらせて。
「そうよ聞いてっ!あの脳筋賢者が森の中で火属性魔術なんか乱用するから、大樹海の奥で精霊にへそ曲げられて大変だったのよ!」
未発見の迷宮を抜け、たどり着いたのは予測通りエルフの国。人の入らぬ大樹海の奥地だったらしい。
そこには古の時代より生きる魔獣たちがいまだに生息しており、迷宮から出るや否や襲撃を受けた。
魔獣は難敵だ。カトプレパスほどではないにしろ、全ての魔獣が魔力層による防御能力を有しており、
そしてその肉体は野生動物そのものであり、重量とパワーの比は、レベルを考慮しても人間とは比べ物にならない。魔物と違って魔力量で能力を予測する事も出来ず、出来れば穏便に済ませたい相手である。
「猿らしき魔物と、大型の猫の魔物に襲われたんだけど、こっちのスキルは当たらない、当ってもほとんど効果が無い。それで脳筋が切れて森ごと焼き払おうとしたの」
バノッサさんが良く使う魔術は起爆型だからな。相性が悪い。
一緒に行ったアルタイルさんやアル・シャインさん、戦斧兵のベルさん
「一応それでおっぱらって、山火事になるとまずいからちゃんと消火もしたんだけどね。森の精霊が大激怒よ。道を開いてもらおうとしても完全拒否。大地の精霊に頼んでもダメ。というか、大地の精霊が動くと上の森の精霊の管理分野に影響があるから、単独では手を貸せないとか言われて、結局道なき道を三週間っ!それも四六時中魔獣に襲われるしっ!」
どうやら思った以上に大変だったようだ。
「森を抜けたらエルフの神域で、そっからはあっちの警備隊にずっと追っかけ回されるし、脳筋が昔の仲間に取り次いでもらってようやく落ち着いたと思ったら、今度は要監視対象よ。……まぁ、それは私が精霊魔術士の
ああ、エルフの国は精霊使いのおひざ元というか、エルフの為に作られたような職業らしいからなぁ。
「夜逃げするみたいにエルフの国から逃げ出してゴールドバレーに向かったのに、超しつこって!ミリアムに会った翌日には追手の一団が来るし、ドワーフの国側の警備隊と小競り合いになったから、脳筋を差し出したうえで私とリンメイだけ逃げてきたわ」
「……バノッサさん……差し出されたのか」
「エルフって長命なのに何であんなしつこいのかしら」
それを俺に聞かれても……いや、あっちの感覚だと人間族が短命すぎてすぐ死ぬとか思ってる過激派が一定数居るなんて情報は要らない。集合知、仕事をすんじゃねぇ。
「あ~……大体事情は分かった。お疲れ様。……よかったな。とりあえず会えて」
「……うん」
「……急ぎ戻っちゃってよかったのか?」
クロノスの温泉村は、タリアの同胞を迎えて暮らす事を考えて整備を始めた拠点でもある。向うの状況によっては連れて帰ってくることも考えていたのだけど……つけ狙われていると受送陣は使えないしなぁ。
「それは大丈夫。あっちに残ったアルタイルさんが、ゴールドバレーの鉱山奥地で進入禁止に成ってるエリアに、今拠点を作成中」
「進入禁止って?」
「ドワーフでも倒れる毒ガス地帯の奥だって」
「……自覚の在る死者は嫌だねぇ」
ドワーフは洞窟での生活に適合した種族だ。背が低く、筋力が多く、他の人類なら命を落とすような低酸素・気体毒に生まれながらの耐性がある。そのドワーフが倒れるって、生身の人間じゃスキル使う前にお陀仏だろう。
アルタイルさんたちは錬金術師の
そしてそんなところに拠点を作られたところで、行った瞬間死ぬ。ガスはともかく低酸素は無理だ。どうしろというのか。
「それを置いてもミリアムは奴隷じゃなかったし、結婚して旦那さんも子供、孫もいて、生活も安定してるみたいだったからね。一安心よ。南大陸に拠点が置ければ、あっちでの情報も集めやすくなるわ」
「……ポジティブだなぁ」
ようやく見つけた同郷は30年以上前に解放されていて、浦島太郎状態だろうに、タリアは気にした様子がない。
「私は落ち込んで居られないわよ。まだ一人。それにミリアムは、私と違って30年以上、同胞に再開することが出来なかったんだから」
そう返すタリアの瞳には、強い火がともっているように思えた。最後に自らの力で再開にこぎつけたのも良かったのだろう。
出会った時に抱えていたのは、強い焦りと絶望だった。
それが飢えと渇きに変わり、今、手の届く物へと変わったのだろう。
再会は思いをさらに大きく、激しく燃やす。
「……どうしたのよ」
「んにゃ。それじゃあ、まだまだ頑張らんとな」
俺の方は、ちゃんと魔王に近づいて居るのだろうか。
「……また小難しい事考えてるわね。なんか皆も撤収して来てるみたいだし、ウェインくんの捜索、うまく行ってない?」
「あ~……ちょっとだけ。敵に俺が侵入している事がバレて、手配書が出回ってる。後、死霊術師が相手に居る可能性があって、亡者の皆さんに動いてもらうとごまかしがきかないかも。そうだ、それも説明しとかないと」
とりあえずバレたことと撤収を指示しただけで、詳細を話せていなかった。
「……バレてまずいって事は、ウェインくんの居場所は見つかってないって事ね。それなら私も力になれそうね」
「ああ、もちろん。むしろいつも居てくれると助かるよ」
「……そういう時は、いつもう一緒に居たいっていうものよ」
「……それは意味が違くないか?」
「違うかしら?」
「違うの?」
「……いや、べつに違うとは……」
「……あの~」
俺がしどろもどろしていると、助け舟が……。
「イチャついて居るのも良いのですが、外に皆さんお帰りですよ」
別に助け舟では無かった。
空気に成っていたリンメイさんの視線が痛い。というか、外がうるさい。タリアの名を呼ぶ声が聞こえる。
「……はぉ。仕方ないわね。お馬鹿共に説明して、先に仕事を方しましょうか」
「……そうだね。アーニャとコゴロウをクトニオスに置いたまま、こっちで長話しているのも申し訳ない」
緊急連絡は来ていないけど、急ぐに越したことは無い。
さっさと状況立て直して、捜索を再開しないと。
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