第317話 クラン・アース狂信兵団
少し新しい家が立ち並び始めた街を抜け、居住区のはずれにあるアース商会と商会が運営するクラン・アース狂信兵団の店舗を訪ねた。
2階建ての半店舗で、鍛冶が可能な作業場を併設し、部屋数も多いそれなりに大きな建物である。
商会としてはほぼライセンス商売しかしていないウォールの出張所にはふさわしくない大きさであるが、クランの拠点にもなるので思い切って借りた家だ。
クランとは複数の冒険者パーティーが集まって結成される企業に近い協同組合。
1つのパーティーでは維持するのが難しい拠点や、常時使うわけでは無い装備や各パーティーの知識を共有化、冒険者ギルトからの大口以来の受注などを行う、中間組織だ。
基本的にはある共通の目的に向かって活等する場合に結成され、それは安全なお金稼ぎだったりすることが多いわけだが、アース狂信兵団は数少ないレベルアップを目的にした、すなわち
アース狂信兵団に直接加入しているパーティーは12、総人数は200人を超える大所帯だ。これには非戦闘員であるサポーターも含まれる。冒険者以外にも元領兵や、亡者となった者たちの家族も含まれている。
50人も亡者を抱えることに成れば人数は増える。一人当たり4人ちょっとの関係者は少ない方だろう。
開きっぱなしになっている事務所の入り口から中に入ると、受付に居たのはトレミーさんだった。
「ワタルさん!お久しぶりです!」
彼はタラゼドさんの弟子で、以前会った時には測量士と呼ばれる、ちょっと珍しい斥候系職だった。測量士は有事の戦闘より、平時の情報収集や地形把握を得意とするタイプだ。
癖のある茶色い毛を短めに揃えていて、年齢より幼く見える17歳。無茶をするタラゼドさんに振り回される苦労人だ。
「お久しぶりです。トレミーさんはこちらにいたんですね」
彼も一応冒険者だから、クーロンの方に行っているのかと思っていたけど。
「事務手続きをする人がいないと、
応接用のテーブルを使わせてもらう。さすがに中途半端な時間なのか、受付で仕事をしていたトレミーさん以外はいないようだ。
「仕方なくといいつつ、ちゃんと出来るなら向いてると思いますよ」
「ははは、ありがとうございます」
冒険者として活躍しているほど、そう言う書類関係は苦手というかやる気が無かったりする。
ギルドが全部サポートしてくれるから、面倒毎は任せて自分は魔物に突っ込む、なんて脳筋が増えるのだ。
「タラゼドさんには会いましたか?」
「ええ。こう言っては何ですけど、変わらず元気ですね。むしろ生前より元気なくらいで」
「あはは、実力もレベルも高くなってますからね」
「その様ですね。今は『ちょっとMPを回復に魔物狩って来るぜ』とか言って外に出てきましたけど」
「その感じだと詳しくは聞いてないですかね」
「全然。他の人も結構勝手に動いてますよ。……でも、推測は尽きます。50レベルに成られたんですね?」
『仮初の命』について、集合知で分かっていたことを一通り話してある。
「ええ、だいぶかかりましたけど到達しました。今回ウォールに連れてきたのは12人ですけど、それ以外の皆もペローマのダンジョンに居ます」
「……皆喜びますね」
「ええ。ただ、まだMPも低くて日常生活を送るには厳しいという問題は無くなっていません」
「それは仕方ありませんね。……ワタルさんは3次職に?」
「ちょっと決めかねていて、今は
「魔剣士……何か行き詰まる事がありましたか?」
「ええ、ちゃんと連絡してなかった話がありまして」
アーニャの弟を追いかけてフォレス皇国に渡った後、邪教徒との戦いに発展したことを話す。
クトニオス攻略に狂信兵団の力を借りるかは決めていないが、話しておいた方が良いだろう。
「……リーダークラスには話しておいた方がいいですね。ほとんどの人はクーロンですが、今居るメンバーだけでも集まる様に召集をかけておきます」
「俺達もクーロンに行くつもりなので、分かってる滞在地を教えてもらえればこちらから話に行きますよ」
「ああ、騒ぎになっていた飛空艇ですか?」
「飛行船と呼んでいますが、それです」
「あれ、商売するんです?」
「その話を辺境伯閣下としてきたところですよ」
「あ~……ミッシマーさんが頭抱えそうですね。まぁ、僕が気にすることじゃないか」
「ミッシマー?」
「トレコーポさんがここの商会を管理するために連れてきた中間管理職の方です。まだお会いしていないなら呼びますよ。商人ギルドの方に詰めているはずなので」
「ああ、話がややこしくなりそうだから、明日以降にしましょう。短くてもニ、三日は滞在しますから」
それに商人ギルドには顔を出さなければいけないから、どうせそっちで会う。
「そうですか?」
「ええ。それよりクランやクーロンの状況を教えてください。ああ、あと名前の出所とか」
「あはは……名前はまぁ……悪乗りですね。あきらめてください」
目をそらしながら言われた。
「それでクランの状況ですが……」
現在の所、ウォールの街で活動しているのは約100人。その内30人ぐらいが魔物と戦う実働班で、残り70人が裏方のサポーター。サポーターは封魔弾を始めとした魔道具や、武器防具などの開発、魔物の出現情報などの収集、場合によっては荷物の輸送なども行う。
実働班30人のうち20人強はもともと冒険者では無かったメンバー。レベルが低いので2次職のリーダーの元で実戦経験を積みながら、ウォール周辺の魔物を狩っているらしい。
2次職は4人。普通に比べれば圧倒的に速い速度で成長しているものの、近くの魔物は数が減り始めていて伸び悩みもしているとのことだ。
残り100名ほどの実働班は、クーロンでの戦いに参戦している。
そちらは最新情報は分からないが、最低でも2次職か1次職の2職目を終えるくらいの実力者。おそらく今はそれ以上に成長しているだろう。
素質と前提職をクリアして、彼らの目的である
「それからお師匠様が見えられてますよ?」
「……お師匠様?」
……誰だろう。そう呼ばれてる人に心当たりが無いのだが。
「……?竜殺しの……」
「ああ、バノッサさん!」
手紙をもらった時、会いたいならウォールに居てくださいと返したが、ちゃんと受け取ってたのか。
3次職、炎の賢者のバノッサさん。
中央大陸で魔獣である氷竜を倒した竜殺しの英雄で、アインスで俺に詠唱魔術を教えてくれた元ストーカーだ。
当時は氷竜に封印されたパーティーの仲間を抄うため、大賢者の資質を持つものを探していた。
集合知で封印を解くためには時の賢者に成ればいい事、転職の方法として素質の獲得方法と転職方法を伝えて別れたが……。
その後も詠唱魔術を手軽に教える復唱法だったり、集合知からレアな知識を引っ張り出した時に、英雄の弟子だからと理由付けして名前を使わせてもらっていた。
「待ってる間は暇だからと、クランのメンバーの育成に手を貸してくれています」
「おお、ありがたい」
賢者は使える魔術の数がめちゃくちゃ多いからな。それに戦闘向きで無いのも覚える。
今は時の賢者に成ってレベルが下がっているだろうけど、それでも賢者系3次職が居るのは心強い。
しかし……捕まると何言われるか分からないリスクもあるな。
復唱法の件で
「いつ戻るか分かりますか?」
「いつも日帰りですよ」
レベル上げ組も体力づくりも兼ねて、
朝一で出発して、2~30キロ移動して魔物と戦い、日が落ちる頃に街まで戻って来るのを数日に1回は行うとのこと。俺のトレーニングメニューより過酷じゃねぇか?
まぁ、その感じだと絶対捕捉されるな。言い訳は考えておこう。
「手紙で伝えられていない話はそれくらいですかね」
「ありがとう。今日は上使える?」
「問題ありません。今、タリアさんとアーニャちゃんが準備しているはずです。……ああ、そう言えば聞きたかった事が」
「ん、なに?」
「先日、すごい勢いで
「ああ……」
ああ、レベル上げの件か。
そう言えば辺境伯には聞かれなかったな。全く知らないという事は無いだろうから、飛行船のインパクトで忘れたかな?
……こちらからつつく理由は無い。そして知らないほうが良い事もある。ダンジョンでレベル上げが出来るとは言え、とばりの杖の事はまだ話せない。
「まあ、そんなこともあるだろうさ。それじゃあ、ちょっと上を見て来るよ」
「……わかりました」
それで通じたのだろう。トレミーさんがさらに掘り返してくる事は無かった。
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明日の更新はお休み、次回は12/19(月)の夜になると思われます。
先日5話を公開したスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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