第256話 初飛行
飛行船が離陸して10分ほどは、船は順調に海へと向けて飛行をづづけていた。
思ったの横揺れは無い。搭乗部を含めて出来る限り全方向から流線型になる様に作ったのが良かったのだろう。しかし予想通り速度も出ていない。時速に換算すると20キロから30キロほどだろうか。やはりプロペラの出力が足りないか。
「旦那、だいぶ風に流されるぜ。それに高度が怪しい」
「落ちてます?」
「むしろ想定より上がってる気がする。気圧計だっけか?分解能が足らな過ぎて、高さを見るには不安だぜ」
……高度計なんて上等なものは準備できなかった。
上に行けば気圧が変わるから、それを測るための機能が申し訳程度についているだけだ。気圧計の分解能を上げて、高さに置き換えられるようにしないとダメかな。
「落ちなきゃとりあえずは。向かい風に対抗できるかが確認したいので、風向きに注意しながら飛んでっ!」
その瞬間、機体がグヮンと揺れて横に傾く。
「っ!大丈夫ですか!?」
客室からアルタイルさんの慌てた声。さすがに自分で飛ぶのと違って落ち着かないらしい。俺もだよ。
「高度が上がって、風が強くなってるみたいだ。予想より浮遊の燃費がいいな!加熱は1段下げたのに、まだ上がってる気がするぜ!」
「バルーンの断熱効果が利き過ぎている感じがありますね。高さはこっちで教えますから、維持に努めてください」
バルーン内の加熱機構をもっと細かくしないと厳しいかも知れない。
そう思いながらビットを放出し、地面すれすれに飛ばして距離を測る。高度は200メートルほど。この高さでも風が結構きついか。
並走させているビットは、気を抜くとあおりを受けてどっかに飛んでいきそうだ。
浮遊で浮く分には上下に風の影響を受けないのだが、こいつはきついな。気負抜くと酔いそうだ。
そして船体はいまだに上昇を続けている。
「高度は200を超えて、まだ上昇中です。もう一段加熱を緩めましょう。上空は風が読めません」
「あいよ」
加熱機構を細かく分割して操作できるようにしておいてよかった。
今日の天候だと加熱出力7割でも200メートル程度の高度には収まらないか。
高度230メートルで停止。地形の起伏に影響を受けて正確な高さが把握できないが上昇は止まったもよう。ゆっくり下降に入ってくれると良いんだけど。
「っ!」
風にあおられて船体が揺れる。
こいつは厳しいな。飛空艇はどうやってこの風を……なるほど、
「こりゃ改良が必要だな」
詠唱魔術で最大サイズの
「おっと、安定したぜ。こいつは良いや!」
「あんまり長くは持ちませんけど、直風はこれで耐えられますね」
風に押されて若干流され気味になるが、揺れはだいぶマシになった。推進力は……大丈夫、影響はほぼない。盾系の魔術は弱い力は素通しする。プロペラで送り出した空気は、盾に阻まれる前に霧散しているのだろう。
現在使われている飛空艇にも、この
……もう少しこっちの技術を参考にするんだった。
「
こんなものでフヨフヨ浮いてたら、そりゃまぁ格好の餌食だわな。
「地上からは見えていますかね?」
「斥候組がスキルを使ってみていると思いますよ」
「んじゃ、ビットを出して迎撃しましょう。面舵いっぱい!初飛行は30分もすれば十分!本艦は魔物を迎撃後に発着場に降りる!」
風の影響をどうにかしなきゃ、とてもじゃないが海の上なんか飛べない事が分かった。これだけでも儲けもんだ。
「アルタイルさん、感覚共有お願いします!」
「ええ、
俺のサーチは範囲が広すぎて魔物も呼んでしまう可能性があるため、
「いけ、ジャベリン・ビット!」
サーチで反応している魔物はおよそ50。結構多い。その内30くらいは弱い虫の魔物だな。数百Gクラスが3体、100G級が21体、後は雑魚だ。
「空対空戦は初めてだな……行けっ!」
一度上空へ飛び上がったビットが、急降下しながら魔物へと襲い掛かる。
正面を見据えて……
「……こいつは良い。ワタル殿のINTをそのまま使えるのは、魔物にって脅威以外の何物でもないでしょうな」
アルタイルさんのコントロールするするビットも
一回の交錯で敵が半分に減った。1発のジャベリンで固まってる魔物を何体か巻き込んだな。
ステータス効果か、コレだけ3次元的に飛び回っても各機方向感覚を喪失することも無い。ビットは空中戦でこそ本領を発揮する。
「クケェェェェッ!」
一番大物の鳥が大きく鳴く。猛禽類系の姿で、翼を広げた姿は3メートルを優に超える。
ボラケでは目撃情報も少なく珍しい。隠れていたな。
「落ちろっ!」
敵が上昇に変わろうとした瞬間、アルタイルさんのビットの砲撃が魔物を貫いた。
大物持ってかれてしまった。ちょっと悔しい。
「……この戦い方だと、ドロップ品を回収できませんね」
「大物は回収に何機か向かわせてみますよ」
細かいのはもう諦めるしかないな。
飛行する魔物との空中戦は5分もかからず圧勝で終わった。ドロップの回収は今一だが、下は森なので致し方ない。幸い、落下物に巻き込まれる人は居なそうなので良しとしよう。
「旋回OK。だがこのまま着陸シークエンス?に入って大丈夫か?」
「周囲は問題なさそうですけど、地上に確認します」
ただ高度が100メートルを切る辺りで盾が地面に接してしまう。それ以降は
『こちら試作機1号。着陸態勢に入りたい。見学者の誘導をお願いする』
『管制、了解よ』
『タリア、風の正確な向きが分かる?流されない様に
『えっと……向かって左後ろから吹いてるわ』
『ありがとう。アルタイルさん、重力操作でゆっくり下に引っ張ってください。バブル崩壊後に地上2メートル目標で浮遊発動!』
『了解』『了解です』
タラゼドさんが過熱を操作し、送風用ファンを動かすと徐々に高度が下がり始める。
予定では緊急時のみのつもりだったが、一気に落ちすぎると危ないので降下はアルタイルさんに手伝ってもらってしまおう。
高度100メートルを切ったタイミングでバブルがはじけ、機体が大きく揺れる。
「っ!
機体の後方に青白い壁が発生して、風の勢いを弱めてくれる。よし、安定。
『浮遊、発動します』
『思った以上に下がらないけど大丈夫か?』
『着陸難しいですね。着陸地点から前にはみ出して森にぶつかりかねません。後部プロペラを止めて、側部をリバースに』
『あいよ!』
微調整が難しい中、タラゼドさんがゆっくりと、だけど確実に機体を降ろしていく。
『あと10メートル……3……2……1……浮遊着底』
あと2メートル。浮力が抜けて負荷が大きくなり、浮遊の上昇力を振り切ってゆっくり地面に降りていき……。
『……着底しました!』
外で見ていたバーバラさんが着底を確認する。
『重石接続!加熱一段上げて!浮遊解除!』
『重石接続完了。係留ロープ繋ぎます!』
機体の周りでアーニャ操作のフェイスレスが係留ロープを繋いでいくのが見える。
……ふぅ。何とか着陸までこなすことが出来た。外からは大きな歓声が聞こえる。
「お疲れ様です」
「いやぁ、まさか空飛ぶ船を運転できるとは思わなかった。人生死んだもんじゃねぇな」
……後ろの奴らも頷いてるけど、そんな言い回しは無いぞ?
しかし気持ちはわかる。課題は山積みだが、難易度が高かった分、メルカバ―で飛んだ時以上に達成感がやばい。
次はどんな改良をしようかと想いを馳せ、思わず笑みがこぼれるのだった。
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仕事の都合で明日は更新が厳しい見込みです。次回更新は9/29(木)の夜になると思われます。
お時間いただきますが、よろしくお願いいたします。
現在2話公開、スピンオフ側もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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