第144話 精霊の言い分を又聞きした

事の発端は、同時に複数の精霊を呼んで皆で話せると気づいたことらしい。


「昼の間、ワタルは出かけていたけど、私は家で家事をしつつ精霊と話してるのが殆どだったじゃない」


「それについてはすいません」


タリアが精霊魔術で高さ7メートルの土塊をぶち抜いた後、その場を片付けて逃げ出し、わざわざ王都の別の入り口を抜けて自宅まで戻ってきた。

何とか一息ついて、何が起こったのかを確認したところ、タリアから発せられたのが、同時に複数の精霊に力を借りられる、と言う話だった。


「精霊たちは暇なのか何なのか知らないけど、素直だし話好きよ。呼びかけると答えてくれるのよ。それに精霊どうしも話をするの。精霊は普段、割とぼんやりとした思考と意志の疎通しかしないらしいんだけど、人とコミュニケーションする際は意識がはっきりするらしいわ」


「……大丈夫?それ、集合知にも無い情報なんだけど、ほんとに知ってて平気?」


「そう言うのは私じゃなくて神様にでも聞いて。それで、精霊同士にも仲の良し悪しと言うか、相性があることが分かったのよ。火と風は仲が良いけど、風と大地はいまいちとか、そんな感じ。それで、光の精霊さんと話しているときに、精霊同士って協力して魔術を使えないか聞いたの。そうしたら、出来るって」


1次職の精霊魔術でも、複数の精霊を同時に使うことが出来るのかよ。これ、大事件じゃないですか。


「相性が良くないと協調出来ないけど、相性が良くてその分魔力がもらえれば、同時に呼んでも大丈夫って言われて」


「ああ、つまり二つの種類の違う魔術を同時に詠唱しているような感じなのか」


タリアのやっているのは、魔術師が使う多重詠唱マルチキャストに近いな。複数の魔術を同時に発動したり、同じ魔術を複数回同時発動したりするスキル。ブギーマンが影矢シャドウ・アローを同時に複数放っていたのがこのスキルと思われる。


「それで、幾つか試して、相性の良かった光と熱の精霊に力を借りる魔術を作ったわ。MPの使い方も、光を放つより周囲から集める方が効率よかったから収集だけに特化して、熱も熱を上げるより発生した熱が逃げないように操作するほうが効率よかったから特化して……最初は少ないMPで試したの」


通常、魔術は決められたMPを消費して発動する。しかし自分で効果を作成できる精霊魔術は、作成時に決めず、使用時に調整する何てことも出来るらしい。


雷撃弾サンダー・バレットなんかと違って、焼き切れるだけだったからどれくらい威力があるか分からなかったけど」


「薪木が焼き切れたらそれはヤバい」


「作ってみたら、光の精霊さんや風の精霊さんが、危険じゃないか?って騒ぎだしてね。確かにちょっと熱かったから、自分に熱や光が来ないように調整したりとかはしたんだけど……」


「精霊は止めなかったのか」


「割と軽い感じで、これなら大丈夫~って言ってたわ。大気の精霊さんは大丈夫じゃないとぼやいていたけど」


「あれは大気がプラズマ化してたんだと思う。大気は大丈夫じゃなかっただろう」


「そのプラズマ?ってのは良く分からないけど」


「精霊は加減と言うものを知らぬのか」


あの威力は上級魔術に収まらない気がする。MPの消費はでかいし、晴れた日の昼じゃないと威力も落ちるが、まさかの3次職相当魔術か。

……しかし、それよりなにより精霊、ずいぶん色々教えてくれるんだな。


「精霊って、そんな人間にフレンドリーなんだっけ?」


「昔は会話できる人とは仲良く話してたらしいわよ? 神様がスキルを作って、話せる人が増えたのに、耳の長いどっかのお爺さんが『精霊は敬わねばならぬ。親しげに話すなどもってのほか』とか言い出して、話してくれる人が居なくなったって、風の精霊さんがさみしそうに言っていたわ」


「……エルフの爺さんかな」


色々とツッコミどころが多いが、そんなことも教えてくれるのか。

もしかしたら魔王やこの千年の人間たちの動きについても聞けるかもしれないが……まぁ、タリアに任せるか。


「とりあえず、複数の精霊に頼んた魔術は危険そうだから、街中で試さない事。攻撃魔術を作る際は、アイデアを整理して要相談としよう。あれ、うっかりここで全力で打ってたらシャレに成らん」


「仕方ないわね。今日試してない魔術もいくつかあるんだけど」


「それもほどほどに」


あの閃光は王都でも確認されている可能性が高い。

ギルドに原因調査の依頼も出るかもしれん。ちょっとバレると洒落に成らなそうな事案なので、しばらく精霊魔術の実験は控えるべきだろう。

これ以上王都に拘束されても困る。


「でも、あの威力は魅力だよなぁ。あたしも成人したら精霊魔術士に成ろうかな」


おやつを摘まみながら話を聴いていたアーニャが、そんなことをのたまう。


「試すのは有りだけど、素質を活かした方が良いと思う。単なる火力は、3次職、4次職では意味がなくなる」


「4次職って偉人だろ?」


「その程度は軽くこなせないと、魔王は倒せない。あと、広域探索とかは精霊魔術士の系統より斥候系の盗賊の方が得意だよ」


「……やっぱ盗賊かな」


アーニャの目的は攫われた弟分を探す事だから、余りより道をしても仕方ない。


「明日俺は2次職に転職してくるけど、2~3日は街中で活動かな。南に向かう準備をしよう」


「いよいよ王都を出る準備を始めるのね」


「あたしは着いて行って問題ないのか?まだ成人してないんだけど」


「冒険者ギルドにパーティー登録して、見習いって事で手を回すよ。男爵とコーウェンさん、それにギルド長の許可があれば行ける」


孤児なので真偽官の調査が入るかもしれないが、おそらく問題無いだろう。


「さて、もうすぐ日が落ちるし、その前に健康増進軒の様子を見に行こうか」


今日も食事の提供と、子供たちの学習教室はやっているはずだ。


冒険者ギルドに手続きをするのは3日後にする。それくらい経てば、謎の光の調査も出払って触れられることも無かろう。アーニャの見習い申請はちょっと時間がかかるだろうけど、後2週間もすれば商会の件と合わせて、すべて俺の手を離れるはず。

そのころには冬の気温に成り始めているはずなので、移動の方法も考えないとね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る