第145話 移動用車両を準備してみた

人形遣いのスキルを取り終えて、死霊術師ネクロマンサーに転職してから数日。

その日は朝から庭で試作品の組み立てをしていた。


「ええっと、これは後ろに積めばいいのね?」


「はまる形にしてあるから、そのまま置いてもらえば大丈夫」


タリアが蛸の足オクトパス2号機を使って、パーツを運ぶ。現在作っているのは冬場の移動のための機械。平たく言うと、スキルで動かす自動車モドキである。


物を掴みやすいように改良した蛸の足オクトパスを、タリアは手足のように操って重い金属パーツを運ぶ。人形のテストをしていて、STRよりINTの高いタリアは、人形を使ったほうが力仕事が楽だという発想に至った。

魔術師がINTをSTRやAGIに変換できるなら、人形の腕輪もかなり有効な装備だ。多分、今は価値がやばいと思われる。広めるかどうかは悩みどころだな。


「溶接するから次をお願い」


錬金術師アルケミストのスキルである変成、化合、構造変化を使って金属パーツを結合する。

以前ロバートさんの武器を作った際に、魔鉄を練りこんだのと同じ方法だ。元から1枚板だったのとほぼ同等の強度が得られる。


想定通り、死霊術師ネクロマンサーには錬金術師アルケミスト人形遣いマリオネッターのスキルを継承して利用することが出来た。おかげで作業がはかどる。

死霊術師ネクロマンサーは生き物の死体をベースに、仮初の命を与えたり、仮初の肉体を与えたりして操る職業だ。肉人形フレッシュドールなども操れる人形遣いと同系統と言える。

錬金術師アルケミストとのシナジーは、おそらく錬金術師アルケミストの奥義である人造生命ホムンクルスに関する何か要因であろう。

人造生命ホムンクルスは1次職でしかない錬金術師アルケミストのスキル、錬金知識の中で触れられているが、今のところ生み出されたという記録は無い。集合知にほぼ手がかりが無い物なので、手を出すのは控えている。どれだけ時間がかかるか分からない。


「履帯だっけ?結合終わったぜ!」


車輪代わりの履帯を組み立てていたアーニャが手を上げる。


「ありがとう。タリア、幅を揃えて車輪を置いてくれ。そしたらフレームを乗っけよう」


現在作っているのは荒地走行に適した、無限軌道で走行する装軌車両である。素材は8割がエンチャントを施した木材。量産されている魔素含有量の多い樫の一種を使っており、すべてに耐久力向上と軽量化を施してある。

ジェネ―ルさんに取り次いでもらった商会経由で入出した物だ。すべて錬金術師アルケミストのスキルで均一に加工してあり、精錬の甘い金属などより高い強度を有している。


分割車輪を保持する仮置台と共に車軸のみが付いた車輪を履帯に載せ、その上にフレームを仮置き。

変成で地面を動かして幅を調整し、位置を決める。変成で作業用の穴を掘り、車軸とフレームを固定。この車両は搭乗部を別に作るので、サスペンション構造そっちに付けるつもりで今回は直結だ。軸受けにボールベアリングを採用しているので、サスペンションと合わせて構造を考えるのが面倒くさかったのが理由の大半を占める。元高校生に車両設計知識などない。


「アーニャ、履帯を上に回して輪になる様につなげてくれ。タリア、蒸気タービンと錬金窯を動かそう」


動力には循環式の蒸気タービンを採用しており、錬金窯で加熱ヒートを使って温めた水蒸気でタービンを動かし、それをギアを通じて推進力に変えるのがこの車両の基本構造だ。

人形操作ドール・マニュピレイトでも操作できるのだが、出力やMPを考慮すると、加熱ヒートを動力源にするのが一番効率が良い。錬金窯の効率向上効果をフルに利用すれば、自然回復に余裕を持たせて走行することができる。


タービンを乗せ、錬金窯を指定位置に配置し、循環機構をつなげて仮止め。さすがに総重量は1トンを超えると思うので、ここで組み立て切っても庭から外に出せない。今日は仮組だ。

タービンとギアを繋げば、動作機構はほぼ完成。そこに操作系の機構を接続する。こちらも搭乗部が来ていないので仮組だが、とりあえず動かしてみたい。ついでに錬金窯操作のための回線も引いておく。魔鉄ベースで操縦席に回線を引いておけば、操縦者がボイラーを操作できる。


ちなみに、ギアの操作はパワーアシストなどないSTR依存の力任せである。歯車式では無く、円錐型の接触式変速機を使用していて、走行中に変速機を腕力で動かす脳筋仕様だ。この関係で、車軸や動力シャフト、軸受けやボイラー機構のほかに、操作系が金属製となっている。逆に車輪や履帯、フレームは木製である。耐久力向上が効果を発揮してくれないと困ったことに成りそうだ。


しばらく微調整をして、とりあえずは予定の結合は完成。


「こっちの天井部分と尾翼?の組み立ては?」


「そっちはジェネ―ルさんが搭乗部を持ってきてからかな」


ジェネ―ルさんにはお願いして、屋根付きの馬車を1台探してきてもらっている。今日来る予定に成っているから組み立てを始めたのだが……まぁ、待つか。

履帯を巻き終え、ベースが完了。幅約3メートル、奥行き6メートル、後部に動力機関を備えた前後両輪駆動型の装軌車両である。


「お疲れ様。早速動力入れてみようか」


朝から作業していて、城の大時計塔は12時を回っている。そろそろお昼の時間だが、作ったら動かしたくなるのが男の子。


「これがほんとに動くならすっげぇな!」


「動きはするんじゃない?模型は動いてたし」


「……姉さん、それはそうだけど、そうじゃなくてさ」


「はいはい、ちょっと危ないから少し離れてていて」


仮設の運転席に立ち、ボイラー兼タンクに魔力を送る。錬金窯には加熱ヒートをエンチャントした魔鉄が設置してあるので、それによって窯が加熱される。錬金窯は加熱ヒートなど錬金術師のスキル効率を向上させるように作られており、加熱ヒートの倍率はおよそ10倍。

INT1につき最高温度1度上昇するため、俺のINTだと錬金窯は6000度を超える加熱を可能とする。この効果も凄いが、それで溶けない釜も凄い。


まぁ、そんな高効率の錬金窯のおかげで、MPを節約した高速移動が可能なわけだ。

釜の温度がぐらぐらと上がっていく。しまったな、圧力計なんて無いから、内圧がどこまで高まってるか分からん。この辺も改良が必要か。


バルブを開いて蒸気タービンに蒸気を送る。上記の吹き出す高周波音と共に、タービンの回転は始まった。うん、予定通り回りはする。

さて、操作レバーを両輪ロックして、前身にギアを押し込む。タービンの回転数はあらかじめ実験済みなので、最大回転数に達していても速度は微々たるもののはず。どうだ?


ギアがかみ合う接触位置までレバーを押し込むと、ギアがこすれる音、シャフトの回転音と共に、ゆっくりと車体が前に動き出す。よし!成功!

庭は狭いため即座にギアを解放、止まった後、リバースに入れると、今度はゆっくりと後ろに動く。

回転数最大の時の最低速度は、想定で秒速30センチほど。うん、問題なさそうだ。


「すごい音がしたから何かと思いましたが、またすごい物を作られましたな」


車両から降りるとジュネールさんが来ていた。どうやら音を聴きつけて裏に回ってきたらしい。


「所望された馬車をお持ちしましたが……もしかしてこれに乗っけるので?」


「ご明察です。じゃあ、お昼にして、午後はその作業をしましょう」


必要なパーツは作ってあるし、明日は王都外で走行試験が出来るかな。


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□あとがきと言う名の解説

MPでエネルギーを生み出す効率は、変換がシンプルなほど効率が良いです。またINTが高い方が効率が上がります。

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