第143話 機械人形と精霊魔術
「さて、これで一通りの物は試したかな」
今回持ってきたギミックアイテムを一通り動かし終えると、日は高く昇る頃合に成っていた。
タリアとアーニャは、『よくもまぁここまで作ったわね』と言いたそうな顔をしながら、テーブルを出してお茶をたしなんでいる。お腹減ったな。
周囲を回っていた
「実際の所、その辺の人形ってどの程度強いの?」
ランチのサンドイッチを食べながら、タリアが
「INT量によるけど結構強い。人間に例えるなら、HPとVITは基本素材で決まり、MPは俺と共用、INTは概念が無くて、DEXは操作者依存。STRとAGIはVIT値を上限として、術者のINTから操作台数を引いた値くらいらしい。ただ、人形の構造による」
「ワタルのステータスはINTが高いから、その分STRやAGIは高くなるわね」
「そうだね。土人形はもろい土の塊だからVITも低いけど、金属素材なんかで作った人形のVIT値は、人間とは比べ物に成らないくらい高い。事実上、STRやAGIの上限はINTだね」
殆どが木製素材のビット以外は耐久度は十分だ。
欠点があるとするなら、HPが回復できないとか、VITはDEFでは無いので値の割には脆いとかそんな感じ。ここで言うHPはスキルの人形との回線の耐久度で、攻撃を受けるとこれが減る。魔術式が破損していく感じだ。
それとは別に人形が壊れると動かなくなったり、効率が落ちたりする。
「ワタルが自分で戦うのと、人形が戦うの、どっちが強いんだ?」
「……難しいな。人形ってスキルは使えるんだけど、詠唱魔術は無理なんだよね。逆に状態異常は受けない。俺とフェイスレスとが同じ装備なら、多分今はフェイスレスの方が強い。ただし、イレギュラーには対応しづらい」
事前準備した物でどうにかなればいいが、詠唱も交えて何とか、と言う戦いは出来ない。
また、これから2次職に成るとこの力関係は逆転する。2次職の魔術系スキルは詠唱必須のものが多いのだ。
「あと、
MPを使い続けているので総量は上がっているが、この辺のドールはとにかく重い。
「その人形操作?も、エンチャントで他の人が使えるようになるのか?」
「どうだろう。その辺はわからないな。やってみようか」
思い立ったら即実験。作りためてある魔鉄の腕輪を取り出して、人形操作を付与。対象を取る必要があるな。触れている対象でよいだろう。ついでに
「んじゃ、アーニャ試してみようか」
INT加算する魔力加算Iの腕輪を複数装備し、さらに人形操作と多重処理の腕輪も装備。
「じゃらじゃらして流石にうっとおしいな」
「そこは仕方ないね」
パッシブスキルのエンチャントは他の魔術と組み合わせられない。基本ステータスバフ系の魔術は、同じアイテムに同じ魔術を重ねられない。こういった制約があるせいで、腕輪だったり指輪だったりが増える。
「動かすのはビットにしてみようか。一つだけね」
「おう。……
アーニャがスキルを発動させる。
「……動かない」
ふむ。触れているのにスキルが発動しないと。と、いう事は
「貸して。もう一度付与してみる」
今度はビットと腕輪を紐づけるように
再びスキルを発動させると、テーブルの上のドローンがカタカタ揺れる。
「うわ、動いた!なんか不思議な感じ!んんっと?」
アーニャが操作しているのだろう。プロペラが無秩序にくるくる回り、機体が揺れる。
「動かせる個所は内部に4つ。それを回す感じで動かすと羽根が回るよ。羽根のほうのを動かそうとすると、回転数が足らなくて飛ばないから注意」
ふと湧いた邪念をとりあえず頭の隅に追いやって、操作方法を説明する。
「ええっと……こうか。ん?2つしか回らない」
「この対角線上にある羽根が同じ方向に回る。逆に隣り合ってるのは逆回転じゃないと回らない構造になってるから、時計回りと反時計回りで2個づつ回す感じ」
「……こうかな?やった!ちゃんと回る!」
4枚のプロペラがくるくると回り始める。
「そこからは1秒間の回転数を全部同じになる様に調整しながら、回転数を上げていく。INTは十分あるはずだから、落ち着いてやれば大丈夫なはず。一気に回転数を上げると危ないから注意して」
「うん……」
集中しているらしい。しばらくすると、ビットが一瞬、ふわっと浮き上がってから着地した。
「浮いた!」
「テーブルから浮いたら、回転数を上げると浮き続ける。前後左右に動かすときは、回転数を落とした羽根の付いている方に進むよ」
しばらくは浮き上がったり突然落ちたりしながらも、しばらくすると自在に動かせるようになった。
「すげぇ、視界が高い!」
テーブルの周りをビットが飛び回る。全く知らない技術のはずなのだが、慣れるのが早いな。
元々操作方法をイメージしてた俺よりもセンスがあるかも知れん。
そんな事を思っていると、突然羽根の回転が止まって地面に墜落する。
「あ」
慌てて拾いに行く。
「MP切れかな」
「良かった!壊れてない!」
耐久力を上げているので、落下した程度では壊れはしない。それにあらかじめ落下試験くらいはしている。
アーニャはビットが気に入ったらしい。ラジコン飛行機みたいなものんだからな。攻撃機能が無ければおもちゃだ。
タリアも操作してみたが、こちらは操作に慣れるのにだいぶ時間がかかっていた。
口には出さないけど、子供の方が慣れるのに早いとかあるかも。……この二人、2歳も変わらないはずだけど。
小一時間の休憩を挟んだ後、全員で少し体を動かして、寄ってきた魔物を狩る。
全力で戦ったらアーニャ以外訓練はならない相手が殆どなので、武器を使わなかったり、捕縛系の魔術を使わなかったりしてちょっと難易度を上げる。
うん、素手で戦うと緊張感があるな。
そんな感じで更に1時間。おそらく時間は2時から3時の間位だろう。
本日最後のイベントは、タリアの作った新たな精霊魔術のお披露目だ。
「さて、どんな感じかな?」
「私も全力で使うのは初めてだけど、きっとすごい威力よ。ワタルのランスを超えるつもりで作ったからね」
ふふんっと胸を張る。
ほう。3次職相当のINTの魔術に勝とうと。言うね。
「ほうほう。じゃあ、ターゲットもそれなりのものを作らないとね。
INTを全力反映して、土人形を作成する。
地面が大きく盛り上がり、巨大な影が伸びる。高さ7メートル弱、エリュマントスのさらに1.5倍ある巨大デコイだ。造形は手抜きなので、岩の塊のように見える。
「でっかっ!」
「今の俺なら
「……他の人に見られたら騒ぎになりそうね」
……そうでしたね。
まぁ、チャチャっと試して、チャチャっと片付けよう。
「さあ、自慢の魔術見せてもらおうか?」
「分かったわよ。危ないらしいから、必ず私の後ろに居てね?」
「らしい?」
「光の精霊さんとか、大気の精霊さんとか、木の精霊さんとかが言ってた」
……ちょっと離れておこうかな。
タリアのMPやINTじゃそう大きな魔術は発動しないはずなのだけど、精霊が言うと怖い。
「えっと、立ち位置はこの辺。王都は逆方向よね?一応木々の合間も抜けるはず。大地の精霊さんには後で誤らないとだめかもしれないわね。さて」
ブツブツとつぶやきながら、立ち位置を調整する。何だろう、ちょっと嫌な予感がしなくもない。
「地に降り注ぐ陽光と、大地より返す光の精霊さん、光をその血肉とかえ、時に地を焼く熱の精霊さん、二つの力を集めて線と成し、指し示す先に導いて!」
その瞬間、周囲が明らかに暗くなるとともに温度が下がる。
まて、嫌な予感しかしない!
「
タリアが対象を指さした瞬間、目を開けていられないほどの光と熱の濁流が生まれ、土人形に突き刺さった。
その光線は人形を易々と貫き、周囲の空気をプラズマ化させながら遥か彼方へと延びる。
そして彼女の操作によって、最後は空に向けて放たれて消えた。
「……やり過ぎたかしら?」
ターゲットの土人形は高さ2メートルくらいの所か頭部に掛けて、おおよそ手のひら程度のかつて穴だったもの貫通している。その周囲は溶けて赤くただれ、一部はガラス化していた。
周囲の明るさは戻ったが、背中の寒さは戻らない。なのに正面からの熱気は収まらない。
「……なにあれ?」
「俺に聞かんでくれ」
原理的には
ライトモドキで光の反射については説明したし、最近虫眼鏡も作ったから、タリアの光に関する知識は格段に増えている。実際、光を集めて対象を焼く
「だからってこの威力はありえねぇ」
ぶっちゃけこの威力だと、防御してないエリュマントスなら一撃で吹き飛ぶだろう。
「これ、何をどうしたら?消費MPはどうなってるのさ?」
「今は120ほど込めたわ。この魔術はとにかく光を集めて一方行に照射するのを光の精霊さんにお願いして、更に周囲の熱を集めた上で、光が当たることで生まれた熱を逃がさないようにすることを熱の精霊さんにお願いしてるの。いつもはMP6~7くらいで、薪木を貫けたから……」
……今、俺が使えるスキルや魔術の中で一番消費が大きいのが、
その4倍のMPを光と熱の収集と、その発散防止にだけつぎ込んだのか。焼かれて溶けた破壊はあくまで副産物であり、本質的に懐中電灯や断熱材などと変わらない。
……いや、怖いわ。どうしてここまでになったか後で訊くとして……。
「まずは撤収!人が来るっ!」
土人形は土に還し、機械人形たちを回収して慌ててその場を離れるのであった。
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