第247話 模擬戦の反省会
「スキルを制限されると、なかなかに勝手が違うであるな」
模擬戦をすれば検証も行う。
一通りのメニューを終えたので、休憩がてら3人で反省会だ。
「反作用軽減のありがたみをここまで感じたのは初めてである」
反作用軽減は武士の覚えるパッシブスキルで、物理限界を突破するスキル一つ。その名の通り反作用を軽減して、自分の力で身体が浮いたり、走る際に地面が吹き飛んだりするのを抑制する。
「侍の
「ワタル殿が常にあの状況なのは驚きである。ふわふわしていて、落ち着かないであろう?」
「それはいつもステータス全開だからですよ」
必要な時以外は魔力操作でステータスの影響を抑えている。なれてしまえば上手く力加減するより楽だ。
「私も力加減をするより魔力操作で抑える方が楽ですね。一気にレベルを上げて、慣れる間もなく二次職になったからかもしれませんが」
「ふむ。某、魔力操作は不得手である。妨害魔術にも対応が難しかったし、魔術師系職も取るべきであろうか?」
「選択肢としては有りですけど、咄嗟に使えるスキルの種類には限界がありますし、今以上に訓練がきつくなりますよ」
スキルが使えるのと、戦闘中スムーズに使えるのには大きな差がある。
いざという時に選択肢として思い浮かべられるのは数種類、反射で放てるのは決まった一つが良い所。
考えながらスキルを使う程度の戦況なら問題無いが、戦いが拮抗したり劣勢だと選択肢が狭まる。
俺が最近
「理解はしているのである。しかし、妨害スキルを使われると手も足も出なかったのは遺憾である。縮地が使えても厳しかろう?」
「俺を基準に考える必要は無いと思いますけど……」
「手近な目標の方が都合が良いのである。差し当たって、妨害系のスキルを潰せる
「
「武士で使うなら定着が必要なのでは?」
「魔導師が一番取得が早いですけど、まだ
「さすがにまたアナウンスを流しまくるのは気が引けるのである。錬金術師が良いのであるが……」
「
「む、それはそれで惜しい」
「アーニャが戻ったら、
「ああ、そっちのほうが良いかも」
アーニャは今、臨時パーティーを組んで首都を離れている。
立春には戻って来ると言っていたので、その後相談してみるのが良いだろう。
「そうであるな。……いや、むしろ某が自前で出来るようになれば良い話。やはり何事も鍛錬がであるな」
全員を俺と同じ万能タイプに育てるのが良いかわからんからなぁ。
この辺は試行錯誤が必要だ。
「そう言えば、奥義って何ですか?」
「……ノリと勢い」
そう言うのは覚えてなくていいんだよ。
「スキル無しで斬撃による遠距離攻撃は想像していなかったであるが……ワタル殿は何という流派であるか?」
「飛天、御つる……いやいや、アレは国の絵物語のまねっこですよ」
「ふむ。天明流の二の太刀も容易く避けられたであるし、練度はともかく、それなりに学は積んでいると思ったのであるが」
そこは集合知なので、すいませんね。
「……天明流というのは……なんでしょう?」
「ああ、クロノスではあんまり一般的じゃないか。えっと……効率的な鍛錬の仕方やスキル以外の技術の研鑽を行っている集団かな。先人から教えを受けることで強くなることを目指す人たちを、その技術の体系から流派と呼ぶ」
「レベルアップで覚える、格闘術知識などとは違うのですよね」
「違うね。アレはあくまで基礎知識と言うか……」
レベルアップで基本的な技、体運び、修練方法、フェイントなどの技術なのが知識として得られるものの、それらの効果的な組み合わせ、と言うのはそこに含まれない。
「基礎知識をどう組み合わせれば、どう効果的に攻撃を当てられるか、的なことを考えてるわけ。アース式治療術の武術版って感じかな」
職業システムが導入されてから、武術的な修練や技術は衰退した。
この手の技術をちゃんと継承しているのは、今は本当にわずかな人たちだけだ。
「クロノスだと、貴族の未成年者が習う剣術や槍術がそれかな。王国流剣術とか槍術とか、これが他の国だと違う分け」
「なるほど」
他の流派が無いのでわざわざ名前を付けないからな。
「某の天明流は、フォレスの主流派である」
「こういった話はワタルさん初めてですよね」
「魔物と戦うならレベル上げした方が速いからね」
スキル以外の技術は、磨くのに途方もない時間がかかる。
集合知があっても、それでうまい事指導できるわけじゃ無い。修練理解を併せて、我流でやって行くしかないのだが……。
「……邪教徒と戦うなら、どっかの流派で実用的な剣術やなんかを学んでおくべきかなぁ」
「そうであるな。某の天明流も人と戦うための流派であるし、考えても良いかもしれぬ」
「魔物と何か違うのですか?」
「人間相手の場合、敵にも封護官が居るかもしれないから」
スキル範囲内のすべての人類のステータス恩恵を打ち消し、スキルを使用不能、効果無効にする封護官。
4次職すら完全に抑え込む彼らは、真偽官や調査官と同じ、神の力を悪用する人類を制圧するための最終兵器だ。
封護官がスキルを使うと、敵も味方も
マジックアイテム系もすべて無効化されるので、必然的に数が多い方が圧倒的に優位となる。
この世界でまじめに武術をやっているのは、封護官のスキル影響下で犯罪者を相手にすることを想定した人たちだ。つまり、同心をやっていたコゴロウである。
「時間がかかるから、科学の力で何とかできるなら何とかしたいけどね」
封魔弾は効果を発揮しないだろうが、通常の物理的、化学的反応が抑制されるわけじゃ無い。
ぶっちゃけ、拳銃の一つも作っておけば対抗策になるかな。ただ……対封護官用の武器とか、危険すぎておいそれと作れない。
「バーバラさんも騎士としての配属先が近衛騎士団や治安部隊系だったら学んでいたと思うよ。逆に、それ以外だと学ぶことは少ないかな」
封護官は高レベルの人類に対する切り札だ。
そう言った人たちが、神の加護の影響が無くても戦える武力を有していたら目も当てられない。そう言った理由から、安全のためにあまり積極的に普及させていない。
「……ワタルさんが無手の時に使っているのは、アース流拳闘術でしょうか?」
「ん?俺……ああ、ボクシングか交じりの怪しげなやつね。国のスポーツの見様見真似」
たまに無手での模擬戦もするけど、打撃はテレビや動画で見た格闘術の模倣が基本になっている。
投げ技系は中学の授業でやった柔道。どちらも見様見真似でしょぼいのだが、修練理解が反応してくれるので、最近はギリギリ技術として成り立っている。
「真似してみても良いですか?ちょっと興味があります」
「……そう言う話なら、折を見て技術としてまとめてみます」
最近めっちゃ使ってるし、むしろこれが無かったら立ちいかなかったものがすげぇ多い。
「そう言えば、スキル在りではワタル殿がバーバラ殿を圧倒しておられたが、使っていたスキルは同じように見受けた。決め手は何であったか?」
「あれは単純に練度の差です。私はまだ念動力を上手く扱えませんから」
「俺の方が長く錬金術師をやっていたからたまものですね」
俺とバーバラさんがスキル在りで戦うと、互いにひたすら
手数系の攻撃スキルはステータスの差が打ち消しの差に成らないから、後はもう練度勝負。結局念動力の慣れが決め手となった。
「継続発動するような自由度の高いスキルはその分練習が必要です。武士のような前衛職だと、アクティブステータス強化系のスキルですかね。強化した状態で動くのは、慣れないと感覚のずれがきついでしょう?そう言うところも勝敗を分けます。錬金術師のスキルは戦闘向きでは無いのでなおさらですね」
「なるほど。……こうして振り返るのは重要であるな。侍集団の模擬戦は同職でやることが多いが、気の違う職業持ちと一対一で戦うことで気づきも多いようである」
「軍は数で攻めるが基本ですから」
役割分担して自分の得意なところを伸ばすのが、集団戦の基本スタイルだ。そしてそちらの方が集団としての強度は増す。
「まあ、俺たちは冒険者ですし、器用貧乏っぽくなっても助けがない状況で生き残るだけの力が必要ですから。知識と経験は共有していく方向でお願いします」
うちのパーティーは誰一人生活のために冒険者をやってないのも大きい。
ノウハウの共有は推奨されているけど、それはそれとして、自分だけの技や知識は飯のタネだからね。普通はこうはいかない。
……アーニャは大丈夫かな。うまくやれているだろうか。
「せっかくなので、他にも伺いたいことが有るのである」
そうしてしばらく疑問点を潰した後、再度訓練を再開した。
何度も模擬戦を行ったが、模造武器は問題無く耐えてくれた。バーバラさんの腕前は確かだな。
次は錬金窯を作ってもらおうかな。
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□雑記
錬金術にはポーションなどの薬品を作成したり、ステータス参照武器を始めとする高度なマジックアイテムを作るためのスキルとして「魔素特性強化」「素材特性強化」のような特性強化スキルが有ります。
以前さわりだけ語られていましたが、このスキルの強化度合いはINTに、精度は魔力操作に影響を受けるため、INTが魔力操作の適応量を超えているワタルは、二つともうまく扱うことが出来ません。
自前でポーションやマジックアイテムを量産しない(出来ない)のはこのためです。
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