第246話 模造武器と全力模擬戦

少しゆっくり話してバーバラさんも思うところはあったのだろう。

これまで以上に質問は増えたが、まぁ説明できるところは説明する。ついでに三角関数とか二次関数とか連立方程式とかをやらせてみたらパンクしていたが、まぁやる気はあるし大丈夫だろう。


それからヒノ工房の設計図通りにバルーンの加工をして貰う裁縫師を雇い、コゴロウと二人連れ立って強制レベル上げを敢行した。

とばりの杖は使っていない。捕まえてきた魔物を封魔弾で倒させるだけだ。

特に信用も無いので冒険者ギルドと一般職ギルドが立ち合いをするわけだが、結果的に封魔弾の発注が来ることに成る。調べりゃ分かるだろうが、生成方法はしばらく秘匿。そこはクロノスから輸入してくれ。


後はバッテリーの廃液再利用を検討したり、冷蔵庫に電池式ファンを取り付けたり。

自分で手を動かすのはスキルでどうにでもなるのだが、人に頼むと着手までには数日かかる。逆に数日あれば起動には乗るのだが、思いついた時点で動いてもなんだかんだと時間がかかる。

そんな分けで1月も後半に差し掛かるまでは、細々とした作業をしながら1日おきにギルドと交渉するくらいのスケジュールで動いた。


そんな事をやって居たら、バーバラさんに頼んだ修練用の武器が完成する。

さっそくギルドの修練場に繰り出して使用感を試してみる。


「はっ!」


ステータスに任せて超加速で踏み込み、腕を目一杯に伸ばして剣を振り下ろす。


「ぬっ!?」


コゴロウはそれを同じく剣で受けると、身体の軸をずらしながら受け流す。

そのまま横凪。振り下ろした剣を引き上げて受け止め。そこから更につばぜり合いに。


インファイト気味になった所で蹴り。バックステップで避けられると同時に剣を跳ね上げられる。

くっ、大勢が悪いっ!


姿勢を戻す間の踏み込みの突き。狙いは正確に喉元。その分よけやすい。

サイドステップで大きめにかわす。案の定、突きからすぐに横凪が来た。ギリギリで躱すと斬られていただろう。


剣を狙って打ち込むと火花が散る。強い衝撃を熱と光に変換して刀身を守る機能が働いた。

この感じだと完璧じゃないとは言っていたが、十分な効果はある気がする。

そのまま数度打ち合わせる。手数も力もこちらが上なので、2回攻撃、1回防御くらいの比率だが、コゴロウの方はまだ余裕がありそう。的確に捌かれてる。


……ステータスを全開で打ち合えるのは良いな。


しかし隙が無い。こちらも訓練をしてるとは言え、所詮半年ほどの焼付刃。この世界で生きていた彼と比べれば、地力の差は明らかだ。技では勝てない。

……アーニャはこれから一本取ったんだよな。油断があっただろうとは言え、恐ろしいセンスだ。


「っ!?」


気を抜くとヤバい一撃が飛んでくる。

大振りと見せかけた篭手狙い。踏み込みを狙った足払い。斬撃をそらしながらのフック。

技術の差はステータスとスタミナで補うしかない。


「このっ!」


力を入れた横凪。これも剣受けられると同時に、バックステップで威力を殺される。

なんの、距離が開いたら距離が空いたで!


「奥義、土龍閃!」


「なんと!?」


身をかがめたすくい上げの一撃が大地を削り、小石のつぶてを跳ね上げる。

ちぃ、すくえた礫が少ないか。ぶっちゃけこれでは防御力を抜けないので目くらましだ。


「龍槌閃!」


「ただの飛び込み面であろう!」


「もちろんっ!」


そのまま剣を叩きつけると、ステータスを活かして飛び上がる。

垂直飛びでも数メートル。コゴロウの頭の上を前転しながら超えるとともに、後頭部めがけてすくい上げの一撃を……。


「なんのぉっ!」


ちっ!逆手で受けられたか!

一本だと手数で押し切れない。せめて鞘が欲しい。

着地と共に前に飛び、逆立ちしながら体制を立て直す。一瞬前まで居た所を横凪が通り過ぎて行った。


「そう言うのなら某も持ち合わせているのである」


「霞構えとかまたレアな」


「天明流二の太刀、幻頭刃!」


「その技知ってる」


フェイントの突きで視線がそれた所で、太ももを狙って浅く放つ斬撃。

切っ先と手元の動きが違うから惑わされやすいけど、集合知で知って居ればステータスで対処可能。


「ぬぅ、ならば百裂突き」


「急に力業っ!?」


「力押しで行けるならそれもまた良しである」


「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるっ!」


しかし、なんちゃって剣技で対応するのは辛い。やはりスタミナ勝負に持ち込むしか……。


「長引くと不利であるな。少しリスクを取るしかないであるか」


コゴロウがさらに一歩踏み込んでくる。

互いに満足に剣を触れないインファイト状態っ!


「っ!」


近くにいると肘や膝が飛んでくる。

離れようとすると、斬撃が来ると同時に距離を詰めらられる。くそっ!攻撃の出所が見えない!

ステータスを活かして目視回避をしている俺は、視野が狭まるインファイトが苦手だ。

STRで殴り倒そうにも、相手の方が技術があるから綺麗に当たらない。


ええいっ!左ジャブからの膝!柄でフック。捻って斬撃!だめ、全部捌かれた。

その瞬間、足払いを受けてバランスを崩す。

咄嗟に袈裟切りを放つが、コゴロウは実を捻ってかわすと背面斬り。


「っ!」


全力で身をかがめるが、わずかに当たる。


「一本、それまでです」


バーバラさんがコゴロウの勝利を告げる。

あ~……まけた~……。

一本先取制。入った一撃は浅いので実戦なら鎧で防げるだろうが、それでも対処しきれなかった。


たたずまいを直して一礼。

やはりちゃんと訓練している武人に対して、ステータスと焼付刃の技だけで勝つのは中々難しい。


「衝撃吸収は十分そうであるな」


「ええ。刃が無い以上にダメージが抑えられてますね」


ちゃんと鎧来ているが、盾で受け止め切っているので傷一つない。


「勝ったほうが連戦なので、次は私のお相手をお願いしますね」


すぐにバーバラさん対コゴロウの模擬戦が始まる。

長物のコゴロウに対し、手甲のバーバラさんは若干不利……と思っていたが、甘いフェイントの切っ先を掴まれて武器を失い、蹴りを受けて転がった。

あ~……STRの関係でああいうことできるのか。体重以上に発揮できる力が強いから、重心が安定している状態で止められたらSTRで上回っていても力負けする。スキル無しだと自分の身体が浮いちゃうんだ。


次は俺とバーバラさん。

まともにやると負けるので、ひたすら狡い篭手狙いで逃げ回って何とか1本。卑怯と言うなかれ、これも戦術。


互いに一周したので、次は1次職のスキルのみ使っての模擬戦。

使えるのは威力の上がらない手数系と呼ばれる攻撃スキル、盾などの防御スキル、束縛糸バインドなどの妨害スキルの3種。ステータス強化は無し。


これはさすがに使えるスキルの数で俺が強い。

念動力や変成が妨害系に当たるかは不明だが、武士は不平不満は言わないのでヨシ。

4連勝したところで交代。

バーバラさんとコゴロウは互いに勝を取り合う一進一退の勝負になったが、最終的には体力勝負でバーバラさんが勝った。

この世界の人にありがちなスタミナ不足。俺たちのトレーニングメニューをこなしていた期間が長い彼女の方がスタミナがある。


ステータスはコゴロウの方が上だから、互いに万全な状態で1戦だけならコゴロウが勝つな。


ステータスを抑えながらの訓練も良いけど、ステータスを全開で動ける模擬戦も得るものが多い。模擬武器を作ったのは正解だ。タリアとアーニャの分も作って、訓練メニューに組み込もう。

大の字に寝ころぶコゴロウを見ながら、さらなるトレーニング内容を考えるのだった。

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