第248話 開発は順次滞りなく
1月も終盤に差し掛かるころには購入品の8割がそろい、ヒノ工房に頼んでいた設計は完了。
今はバルーンは持ち運び用に分割した状態で縫製が住んでいる。設計図の7割近くまで進んでおり、新春のお祭り期間が明けたころには完成するだろう。
バルーンの下につるす搭乗部の製造は半分強が完了。
基本的にはメルカバ―をベースにして有り、サイズは幅5メートル、長さ9メートル。その後方に3メートルほどの動力部スペースが確保されているので、トータルは12メートルの長さ。
取り外し可能な専用無限軌道を接続すれば、メルカバ―同様に自走が可能。ただし、搭乗のフレームには浮遊がエンチャントされているので、プロペラを回せば短時間ならこれだけで飛べるので、合体機構はあくまでロマンだ。
推進力として現在考えているのは電動。さらに人形操作のでも動かせる形にする予定。人形操作だけでも良いのだが、それだとMPを節約しづらい。今のところ不足する事態は無いのだが、効率は良い方がいいだろう。
電動の理由は、それが一番軽くて丈夫だからである。蒸気機関は重いし、動力の一部はバルーンの最後尾に着けたい事を考えると、動力の伝達が難しい。動力伝達をシャフトでやると、それの重さがシャレに成らない。
油圧による動力伝達も考えたが、どうしてもオイル漏れを起こす。俺が植物油から作ったなんちゃってゴムモドキでは耐久力が無さ過ぎて、油圧シリンダーが作れないのだ。前にグローブさんがゴムのような材質のスリングを使っていたのを思い出して調べたが、あれは動物の腸を加工した者だった。弾力はあるが硬さが足りない。
エンジンのような内燃機関は、残念ながら知識がない。そもそも俺は単なる高校生である。
電動式の問題点はモーターの出力だったが、これは素材の改良で及第点まで持っていけた。
磁石が一番の問題だったが、素材特性強化で磁力を強化できたのが大きい。ただ限界は在りそうなので、今は様々な金属の合金を磁化させて、出力が上げられる素材を探っている。
記憶を探るとネオジム磁石とか出て来るんだが、原料はネオジウムとかいう元素か?どこで取れるんだろうね。
そんな事をやって居たら、クロノスから手紙の第3陣が来ていた。
「えっと、ボホール伯爵は新規の保養地開拓には乗り気みたい。是非にと言ってる。宰相殿も推進派で動き出したもよう。アインス男爵が子爵からめっちゃクレームをもらったから何とかしてくれだって」
「それ、私に言われても困るわよ。バーバラ、フォロー出来ない?」
「無理ですね。定期報告は行ってますが子爵のご機嫌を伺がえるような話は無いです。そもそも、私が錬金術師の
「あれ?隠してるんだ」
「手紙での報告は、途中で誰かが目にする可能性がありますからね。私が持ってる印璽は騎士団の一番一般的な奴ですから、偽装される可能性は有りますし、それに確認するのは男爵じゃなくて騎士団の担当です。いくらなんでもわが身を爆弾として投下する気は無いです」
「まぁ、然るべき人に後ろ盾になってもらってからのほうがってのは正しい判断だね」
バーバラさんは王国と定期報告を行っている。
「あ、でもアース義兵団は動けないって。どうもモーリス周辺での魔物討伐を行った後、クーロンの戦況を見ながら加勢するつもりらしい」
アルタイルさんあてにも手紙が来ているので、
アース義兵団は、俺が連れている亡者たちの仲間や家族からなる冒険者集団。いわゆるクランと呼ばれる共同体だ。一応、商会の下部組織に当たる。勝手に作って登録しただけだから、ジェネールさんが管理を始めてまだ日が浅い。
彼らの目的は死霊術師になって俺から仲間を譲り受けることだったり、その先のスキルを自分たちで体得することだったりする。
幸いなことに封魔弾のおかげで、クロノスで死霊術師への転職が制限される前に数人が転職を追えたようだ。ここから先のレベル上げが長いが、頑張ってほしい所。
「……あまり危険な事はしてほしくないのですが」
「冒険者なんて危険な職業でしょう?」
「生きるために危険を冒すのと、それ以外は違いますよ。あまり度が過ぎて命をかけられてもうれしくありません。我々と違って、彼らは生きているのですから」
「……一応、俺からも無茶はしない様に釘を刺しておきましょう」
「お願いします。……そう言えば、アース義兵団の名称を変えると言っていますね」
「はい?」
「モーリスやクーロンで義勇兵を募っているらしく、紛らわしいからアース狂信兵団を名乗ると言っています」
「何その狂ったクラン名」
「アース教信兵団と迷ったらしいですが、教会が五月蠅そうなのでやめたと」
「ジェイスンさんはともかく、トレミーさんも同意って事は沸いてんな……」
アース教信兵団のリーダーは、守護騎士という3次職のジェイスンさん。関係者の中で唯一の3次職で、クラン立ち上げの際にリーダーを引き受けてくれた。落ち着いた良い人なのだが、前衛にありがちなおおざっぱで細かいことは気にしない性格だ。
トレミーさんは斥候系1次職の一つである測量士で、タラゼドさんの弟子である。タラゼドさんの下で雑用をこなしていた関係で、いろんな手続きに詳しく、事務方の副団長をして貰っている。
「がっはっは、いいじゃねぇか。ある意味ピッタリだろ」
同じく手紙をもらっていたタラゼドさんは笑っているが、悪名にしか聞こえない。
死霊術師の一般印章はただでさえ良くないのに、さらに悪化しそうだ。……俺が気にする必要は無いか?
ワタル教とかリターナー教とか名乗りださなかっただけ良しとしよう。
「他に進展は無いの?」
「……レベル上げ可能な修練場は用地策定が始まったっぽい。それからザースへの山越えルートは冒険者ギルドへ依頼を出す形で切り開くことに成ったもよう」
「ああ、ワタルが頼んでいた奴ね」
「それから、暖房機絡みの利権で、ジェネ―ルさんがウォールに行っているみたい。装軌車両の2台目以降がロールアウトしたっぽい。それの確認も兼ねてだって」
どうも賢者を雇って付与魔術師と錬金術師を取らせたらしい。
確かにその方法なら錬金術スキルのエンチャントも可能だし、他の魔術のエンチャントも幅広く出来て楽だろうな。
図面も改良して、出力もそれなりに向上しているらしい。
「また売り上げが大変なことに成ったりしない?」
「王国がしばらくは所有者を縛るってさ。商会は一部の貴族への贈答品として使うから、そっちはしばらく赤字だってさ」
まぁ、メルカバ―は材料費はそこまでかからないので商会の財布は大丈夫だろう。
「今作ってるものが知れたら大事ですね」
「そうなんだよね。……最近家の周りをちょろちょろしているのも要るっぽいし、気を付けないと」
ボラケの冒険者ギルドや商業ギルドとの関係が深くなりつつあるので、どうも面白く思ってない集団がいるらしい。
家の周りは俺が定期的にスキルで調査していたり、亡者にも警戒に当たってもらっているのだが、どうも微妙な動きをしている奴らが居る。
「家の借用をひと月伸ばしたから、すぐにどうこうってことは無いと思うけど、一応注意だね」
一番絡まれやすそうなアーニャが王都に居ないので、そこは安心だ。
アーニャは成人したばかっかりで、外見も雰囲気もあまり実力者には見えない。相手もそれなりの冒険者集団ってのは分かってるだろうから、狙うならそこになる。
そして何が一番心配かって、うっかり力加減をミスって
「まあ、幸いギルドはどこも協力的だし、ソウエンさんとこもヒノさんとこも順調だから、開発はこのままサクサクっと進めちゃうよ」
どうせ失敗しても構わない。ボラケに来た理由は武器の作成であって、飛行船を作る事じゃないんだ。
いざとなったら全部焼き払っても問題ない。それくらいの心づもりで進めよう。
その日は他にも手紙が来ていた亡者の皆さんに渡したり代読したり、返信を書いたり代筆したりしながら丸一日を潰すことに成った。
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