第315話 飛行船の旅
ふと気づくと、自分が眠り込んでいたことを理解する。
ええっと、ここはどこだ? 薄目を開けた先、見慣れる視界に一種戸惑い、流れる雲を見て飛行船の中だと思い出す。ああ、そうだ。
「目が覚めましたか?」
隣を見るとバーバラさんがこちらを見ていた。手にはキューブがある。魔力制御の練習をしていたらしい。
「……うん、かなりスッキリした」
ゆっくりと起き上がると、こわばった身体を伸ばす。鎧を着たまま寝ると体がいてぇや。
「今はどのあたり?」
外を見ると、遥か遠方に山脈が見える。下界は森か。葉の茂り方から、それなりに南下しているように思えるが……。
「タリアさんが言うには、もう肉眼でウォールが見えてきているそうですよ。寝ていたのは2時間ほどでしょうか」
「結構ぐっすりだったのか。魔物は?」
「幸い対応できています。一匹だけ出た
「仕方ないね。ちょっと前に言ってくる」
「たまに揺れます。気を付けて」
狭い扉を抜けてコックピットに出て、壁に据え付けられた補助席に座る。
コックピットから見た視界の先では、森が途切れ農地らしき平地が広がり始めていた。
まだ豆粒サイズだが、
視界の先遠くでは、森が途切れ開けた平地へと変わる。
豆粒ほどの大きさだが街も見える。この距離から城壁が分かるって事は、それなりに大きい街だ。あれがウォールだろうか。
「おはよ。今見えてるのがウィールの街よ」
「ありがと。あとどのくらいの見立て?」
「まっすぐ向かって40分から45分って所かしら。今の速度は8割くらいね」
「着陸場所はどうする?」
「今それを考えてた。いきなり街の中に着陸するのはまずいから、ウォールと国境砦の間の平地に卸したい。あんまり近づくと街から攻撃が飛んでくるかもしれないから、後20分飛んだら迂回する用にルートを変えよう」
「了解」
「そんないきなり攻撃してくる?」
「バルーンに商会の紋章が書かれてはいるけど、冷静に観察してくれるかは分からないし。タリア、余裕があったら街の様子を千里眼で見て置いて」
「わかったわ」
飛行船での移動をウォール辺境伯宛に打診はしているが、見てくれているかは五分五分だろう。そして見ていたとしても末端の兵まで連絡が行っているとは思えない。
あまり近づくと領主のスキル無しでも矢や魔術が届くようになってしまう。一応警戒はしておこう。
そんな推測通り、15分ほど飛んだところで街の様子が慌ただしくなったとタリアから報告。
少し早めにルートを外れ、砦の方に進路を帰る。近づき過ぎなけりゃ先制攻撃を受けることも無かろう。
「ある程度街に近づけば念話で連絡取れるんじゃない?」
「そこまで近づくと迎撃が怖い。俺なら遠距離攻撃可能な斥候部隊を出して威力偵察を行う。指揮官が優秀ならなおさらね」
ウォールは内陸の街だし、明らかに国内から来ている。国のお偉いさんなら絶対連絡が来るので、魔物がらみの何かだと思われる可能性の方が高い。
いざという時はすぐに防壁を展開できるように良いしつつ、徐々に高度を下げならが街から離れた平地への着陸準備を行う。
街の近くは数キロに渡って農地に成っているのでそこを回避して着陸可能な場所を探す。
狙いは街の南5キロほど砦側に下った辺り。南側は砦に何かあった時のため、防衛陣地を引きやすいように農地がまばらになっている。
「街から兵が出てるわね。砦の方も」
「さっさと着陸しちゃおう。見知った顔が居たら教えて。念話で呼びかけるから」
「わかったわ」
『それじゃあ、着陸シークエンスに入るぜ。加熱低減、バブル展開。アンカー準備よろしく』
アーニャの掛け声に合わせて地面が近づいて来る。
高度が一定まで下がった所で、銃座にいる狙撃手が地面に向けて4本のアンカーを打ち込む。そこからはゆっくりとロープを巻取りながら、地面に近づいていく。
……着陸はいつも緊張するな。特に今回は着陸場を作ってないから実質荒地だ。
『……浮遊起動』
拡張スロットで追加した浮遊を発動して効果速度を減速する。
最終的に着陸は、この浮遊のこまめなオン・オフの繰り返しによる減速が安定した。いざとなれば
『左後ろ接地。少し斜めになるから衝撃注意!』
ガタガタを機体が滑ながらも、なんとか地面に降り立つことが出来た。
……ふぅ。何もしてないけど緊張した。
『機体の停止を確認。ワタル、バーバラ姉さん、固定をお願い。後は、なんか人が集まって来てるっぽい』
『了解。サクッとやっちゃう』
変成を使って地面の一部を石に変え、着陸した足を飲み込むようにして固定すれば作業は完了。
着陸したのはまだ未開拓で荒地となっている部分。もう少ししたら背の高い草が茂っていただろうか。この季節で良かった。
さて、こっちに向かって来ている領兵団に見知った顔は……いないかな。
「全員動くな!キサマら、何者だ!?」
「アース商会のワタル・リターナーです!すでに送った信書の通り、ウォール辺境伯殿に面会を求めます!」
貰った国王特使の記章を掲げると、遠巻きにこちらを見ていた領兵が驚いた顔をする。
出てきてるのは……あの旗だと2番中隊か? こちらを見たことがある人もいるかもしれないな。
数十メートルは離れているが、おそらく視力を強化する能力持ちが確認しているだろう。
『……ワタル・リターナー殿、間違いないか? こちらは中隊長のラーク・ライムだ』
これだけでも、名乗った名前が少なくともステータスと同じ名前であることが確認できる。
『はい、間違いありません。ライム隊長殿、先の防衛戦の時にお見かけしたことがありますが、直接お話したことはありませんでしたね』
『!……ああ、すまない。今、閣下に確認の者を送ろう。申し訳ないが真偽官が来るまでしばしこちらでお待ちいただきたい』
『問題ありません』
どうせすぐに入れるとは思っていない。
ただ時間は勿体ないので、先にこちらの要求を伝えさせてもらうか。
『二度手間に成って申し訳ないのですが、幾つかお願いがあります。我々が乗ってきたこの空飛ぶ船、アース商会がボラケ皇国と共同で開発した飛行機械に成りますが、ここに野ざらしで止めておくのは少々問題があります。街の側、もしくは中への移動許可もらえないか、あらかじめ問い合わせてもらえますか』
『わかった!合わせて確認をする。こちらからも確認したい!そちらは何名か?』
『人間三人、獣人一人、ドワーフ一人。それに亡者が12名です!』
『……ぉぅ』
何とも言えない感情が漏れてますよ?
そう言えば、一人ウォールの領兵出身者がいるな。二番隊では無かったはずだから、知り合いは居ないかな?
30分ほど待ったところで真偽官がやってきて、こちらの身分証明が完了する。辺境伯への取次も行ってくれているとのこと。飛行船を南門前まで移動する許可も貰えた。
ペローマからウォールまで推定1か月の道程を、無事1日半で移動することに成功した。
さて、狂信兵団のみんなは元気にしているだろうか。
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昨日5話を公開したスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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