第274話 迷宮の深層と転送陣
叡智の間の奥、入ってきた入り口と反対側には、閉ざされた扉がある。
サイズは入り口とそう変わらない。材質不明のなめらかな板で、上部はアーチを描いている。ドアノブ、取っ手と言ったものは無く、ここが扉だと分かるのは装飾とレイアウトのおかげである。わざわざ気づいてもらうための装飾だ。罠かもしれないが、このルートを進めと神は言っているらしい。
「さて、ここに魔力を流せば開くはず」
扉にはちょうど手のひらサイズのプレートが張り付けてあり、事前情報ではここに魔力を流し込むと扉が開くとされている。触れただけではだめなので、最低でも魔力操作が使えないと奥へは進めない。
「あたしが分かる範囲でおかしなところはないぜ。逆にその辺の壁と違いが無さ過ぎて、扉だと分からないくらいだな」
「それじゃ、魔力を流してみようか」
代表してプレートに触れて魔力を流す。
魔鉄に魔力を注入している感覚に近い。なれないと結構なMPを持って行かれそうな雰囲気。
ゆっくり丁寧に魔力を流し込んでいくと、扉の表面に幾何学模様が浮かび上がる。
おお、なんかどっかで見た演出だな。淡い光を放つ紋様が扉一面に広がると、それが徐々に形を変える。なんかテレビの画面みたいだな。
「……手?」
つぶやいたのは誰だろう。
扉の一部にアニーメーションが浮かび上がっている。
「……すこし離れて? 上にせり上がります。挟まれると危険です?」
……電車の扉かな? 俺にはずいぶん慣れ親しんだピクトグラムに見える。
文字は時代によって変わるから絵で表現しているのだろうか。
暫く注意を促すアニメーションが流れると、少し軋んだ音を立てながら扉が上にせり上がっていく。
……アーチ形状の扉の意味あるかな?
この動き方なら、四角い扉でもいい気がするんだけど……わかりやすさ?
「……神の考えることは判んねぇな」
地球から人間を呼ぶぐらいだし、文化的な参照もあるのだろうけど、この遺跡は少なくとも1000年以上前に生み出されている。ゲーミングな電光掲示板は精々20世紀後半からだぞ。時間の経過が合わねぇ。
……もし地球に帰れても浦島太郎状態になってやしないだろうな?
「とりあえず、周囲に罠はなさそうだけどどうする?」
「いつも通りに人形を先行させるよ」
やることはそう変わらない。フェイスレスを先行させて、
しかし予想に反して10メートルも進むと行き止まりだ。少しだけ広い円形の部屋に、祭壇と思われるものがある。
「明らかに不信」
「その台の上、微妙に魔力の流れがおかしいぜ」
「こういうの、うちの国ではそこに乗ったら強制ワープさせられる罠なんだよね」
「ワタルの国とは」
「細かいことは良いんだよ。とりあえず、人形を乗せてみよう」
フェイスレスを祭壇の上に乗せるが、何かが起こるわけでもない。ふむ。重量センサーじゃないかな?
「魔力感知系かなぁ。
ワープ系だとそのまま行方不明になりかねないのがちょっと怖い。
「単に魔力反応なら、祭壇の下からつついてみればよいのでは?マジックアイテムに回路を引く感じで魔力が流せると思いますよ」
「なるほど、それで行こう」
魔鉄片に飛行船作成に使った魔蚕の糸を巻き付けて、フェイスレスと一緒に祭壇の上に設置する。
糸越しに魔力操作で魔鉄まで魔力を流す。そこから更に地面へと魔力を注入すると、すぐに反応があった。祭壇が淡い光を放ち始め魔方陣が浮かび上がる。そしてそれがひときわ大きく輝くと、フェイスレスが消えた。
「ふむ。やはりワープ系か」
何処に飛ばされたか分からないが、
糸の先で結んだ魔鉄片も無い。糸は切れていないから、効果範囲内からはみ出した物は転送されないらしい。効果範囲の境界で切断される、なんてことが無いのは安全でいいが、さてどうしたものか。
「……行った先に戻りのルートがあるか不明だからなぁ」
天啓様は最奥に行けと言っていたし、ワープしたら即死するようなトラップは無いと思うけど、一応安全策は取っておくか。
亡者の中でも命知らずの冒険家、タラゼドさんを筆頭に数人でパーティーを組んでもらい、送り込むことに使用。
「迷宮の奥に挑むのは初めてだな。何があるか楽しみだぜ」
乗り気なのはこの人しかいない。
「俺からの魔力供給が途切れたら、自分のMPが0になった時点で死体に逆戻りです。転送後速やかに視界を確保し、人数を確認。その後再度地面に向かって魔力を流してください。双方向の転送なら、それで戻れると思います。もしかしたら複数の場所を循環するかもしれないので、再起動でここに戻れなかった場合、同じことを続けてください」
「あいよ。任せろ」
「それから、転送先に人形があるかを確認してください。なければ最初に行った人形と別の所に転送されている可能性があります。全員がバラバラに転送される可能性もありますが、とにかく焦らず、帰れないかを模索してください」
彼らが俺のスキル範囲外に出て活動できるのは長くて数分なはずだ。
MP回復ポーションを持たせたが焼け石に水だろう。戻ってこれることを期待するしかない。
「おう、それじゃあ行ってくる!」
総勢6人の亡者たちが、魔法陣を起動する。不安ではあるがこればっかりは致し方ない。
個の奥に行って帰ってきた冒険者もいるはずなのだ。大丈夫であることを願う。
そんな事を思っていたら、30秒ほどで再度魔方陣が輝き、6人全員が戻ってきた。
「なんてこたぁねぇ。こっちと同じような部屋があるだけだったぜ。先に行った人形もあった。温度も、空気も、スキルで分かる範囲では問題ない。奥は見てねぇが、行ってみるしかねえな」
「ありがとうございます」
「MP足りてんなら先行するぜ。迷宮の奥の探索なんざすることになると思ってなかったが、いい機会だ」
「それじゃあお願いします」
この先どんな危険が待ち構えているか分からないからな。注意はした方がいい。
11人で転送の祭壇の上に立つとちょっと狭い。そしてこれだけの人数で乗ると、魔力を注がなくても起動するのか。足元が淡い光を放し始めた。
一瞬、スキルを使った時のような暗転。
その次の瞬間には別の場所に転送されている。ここが別の場所だと分かるのは、内装が違うからだ。
「ご丁寧に番号が振ってある」
壁には大きく、一番目を意味する古代文字が書かれている。
やはり単なる双方向ゲートのようだ。
「普通に空気があるし精霊もいるけど、どうなってるのかしら?」
祭壇から降りて明かりを灯し始めたタリアが、周囲を確認しながら首をかしげる。
正面には中間地点のホールと同じ扉構造が見えるけど……確かに空気が出入りするような場所が見当たらない。
「精霊は何て?」
「大気の精霊に聞いたら、循環してるって言っているわ。これまでの迷宮も同じ事を言ってた」
「んじゃ、俺達には見えないように偽装されているのか」
迷宮で空気がよどまないのも同じ理由なのだろう。
気にはなるが、解明するのもそう容易くはないだろうから今はスルー。既定のルートで先に進もう。
扉を開けると同じように通路が続いている。ただ、奥の方が明るくなっているのが見えた。
「んじゃ、先行するぜ」
フェイスレスとタラゼドさん達6人が先行。光が差し込んでいるところまでは20メートルと言った所だが、様子見は必要だ。俺はフェイスレスで視界を共有してるから、先の光景が見える。
光がともっているのは、中間地点と同じホールのようだ。見える範囲でもかなり広い。なんかボスでも出そうな空間、と言えばイメージ湧くだろうか。
トラップのようなものは見当たらない。強力な
そう思いながらその部屋に足を踏み入れたその瞬間……フェイスレスとの回線が切れた。
「うげ!?」
「どうしたの?」
「正面の部屋、外からの魔術干渉を阻害してる!タラゼドさん、いったん戻って!」
「言われるまでもねぇ」
突然俺との回線が切れて慌てたタラゼドさん達が引き返してきた。
入り口で様子をうかがうんだった。
「んで、悲報だ。でっけぇのが待ち構えてるぜ」
入り口から中をのぞくと、身の丈5メートルを超える
どうやらほんとにボス戦みたい。アレを相手にするのはちょっとしんどそうだ。
また動き出さないそれを見ながら、思わずため息をついた。
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先日4話公開目を公開しました!アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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