第273話 迷宮中間点と【炉と金属】の神
迷宮に侵入して4日目の昼前、俺達は早くも迷宮の中間地点とされる広場まで到着していた。
この部屋は迷宮の中で明らかに雰囲気が違う。
まず地面はこれまで通りの石畳だが、壁は切れ目のない天然石なのか、それとも金属なのかよくわからない材質で出来ており、ドーム状の天井は高い。広さも体育館などより広く、その中に円を描くように高さ2メートル、幅1.5メートルほどのモノリスが中央から円形に並んでいる。
「ここが技術迷宮の中間地点」
「通称、叡智の間だね」
ここのモノリスには、金属や炉、熱、燃焼、ガスなどと言った物の特性や、金属加工の技術が記されている。一般的な金属加工技術はもとより、魔力素材に関する碑文もあり発見当時は貴重な物だった。
一部の職に就くことで得ることでも出来るようになった知識が殆どで、さらに持ち替えられた写しが普及したため、今はココに訪れる者も少ない。
「真ん中にやけに芸術的なオブジェがあるわね」
「序文を記したモニュメント。古い文字で書かれていて、今は読むのも一苦労だよ」
たしか、書かれているのはこんな感じ。
『炎より
この一文が技術迷宮の名前の由来。
街の名前でもあるデルバイは、今は神様の一柱の名前として語られている。
「すげぇピカピカだけど、いつごろからあるんだ?」
「さあねぇ……俺が知っている限り、魔王が生まれるより前からあるらしい。モノリスも迷宮壁と同じ素材で出来ているから劣化しないみたい。奥に進まなきゃ安全なはずだから、ぐるっと見てきてもいいよ」
さて、俺は中央のオブジェに行ってみよう。
迷宮の中間地点には、転職神殿のオブジェと同じよう、神からの啓示を受けるための祭壇がある。後付けらしいが、ごく限られた職では条件を満たせば転職も可能。
ただ時間迷宮のように、珍しい職に転職できるかは不明だ。時の賢者の情報は魔術師ギルドが記録していたようだけど、技術迷宮で転職できるのは技師や鍛冶師など職であって、その先の情報が無い。
天啓様は教えてくれるだろうか。
『もしもし、天啓様、聞こえていますか?』
『……おんやぁ?ずいぶんと珍しい所から祈りが届いてるね』
ん?……いつもと口調が違う?声は変わらない気が……これは認識の問題か。
『ああ、最近話題の勇者君か。ここは専用回線だから君のサポート直通ではないんだけど、ちょっと待ってぇな変わるから』
『あ、ちょっと、待って。いつもとは別の神様なんですよね』
こんな機会逃がす手はないだろう。
『ん、ああ。こっち側に興味があるのか。つっても話せる内容は変わらないからねぇ。君の担当に聞いても変わらないよ?』
『いえ、別の神様と話せるというだけでも重要な情報なので』
『それも聞けば応えてくれるけど……まぁ、考えに至らないか。与太話してっとリソースの無駄使いって怒られっから、後はいつものに聞いてくれ。いっちゃん奥まで行けたらまた会おう』
『あっ』
プッと通信が途切れる感覚があり、再度通信が繋がる。
『……おまたせいたしました』
『さっきのは?』
『今いる迷宮を管理する一柱。気にしないでいただきたい』
『別人格のように思えましたが?』
『あなたにはなじみ深い概念。教会の教えにある通り、唯一神ではない』
たしかに。教会のあがめる神にはそれぞれ名前が付いているな。
前に、復唱法を広め始めた時に呼び出しがどうのこうの言っていた気もするし、そう言う物なのだろう。
『別に代わってくれなくてもよかったんですが』
『一応あなたは特別』
特別ねぇ。それなら魔王の攻略法とかを教えて欲しい。
『人類が全員で力を併せて中央大陸を攻めれば倒せる』
『それが出来たら苦労しない。後、心を読むのは出来ると分かっていても感心しないですよ』
『いまさら』
……そうぶっちゃけられても。
『……要件を聞こうか』
『……時の迷宮のように、ここで願い事で転職できる上位職は有りますか? あと、地球の漫画の読んでます?』
『是。ただ、条件を満たしていない為詳細は回答できない。また、異世界の文化についても回答不可』
『俺の母国なんだけど』
『例外は無い』
……まぁ良いか。そっちは与太話。
上位職は有るけど条件を満たしてないか。
『うちのパーティーで上位職の条件を満たしている人は居ますか?また、過去にその上位職になった人は居ますか?』
『現時点で居ない。過去には上位職になった者は存在。……迷宮で得られる力は、人の言葉でいうなら3次職以上』
3次職以上って事は、最低でも2次職を50まで修めて置ないとダメって事か。
『迷宮について、教えられることを教えてもらえますか?』
『迷宮は人類を助け、次に導くための施設。そこは中間。最奥を目指せばおのずと分かる。それ以上は回答不能』
やはり情報が無い一番奥には何かがあるのか。
『壁や床が破壊不能なのですが、これはどう言った技術ですか?』
『人類が言うところの魔術的保護。破壊は可能。現在の人類の能力では困難』
『……今、この迷宮は魔物に取り込まれつつあります。魔物には破壊が可能という事ですか?』
『正しくは否。魔物の力は人類を越えない。されどリソース不足により、浸食は確認』
『そのリソースっていうのは?』
『回答不可』
『人も魔物と同じように、迷宮に対して浸食は可能ですか?』
『……否。魔物は周囲に負荷をかけ、リソース不足で迷宮の機能を失った部分に侵食している。今の人は迷宮に負荷をかけることは不可能。ただし、魔物の負荷により迷宮の機能を失った部分なら破壊可能。しかしそれは迷宮ではない。迷宮が機能を失った状態は……あなたの
『
なるほど。あの迷宮壁は
『迷宮壁、使い道有りますか?』
『回答不可。可能であれば返却を求む』
『返却って、どうすれば』
『最奥に至れば自明』
『……この先に何があるんですか?』
『回答不能』
『出現する
『回答不能』
『迷宮攻略のためにアドバイスは?』
『あなたが知る以上の事は無い』
人類の次の存在が関わって居るからだろうか。天啓からの情報は余り得られそうにない。
この奥にエルダー・ドワーフが居るのか聞いても無駄だろう。基本的に天啓はあまり情報をくれない。
自分の目で確かめろと言う事か。
『……じゃあ、最後に。さっき俺が話した神の名は?』
『デルバイ。炉と金属を司る一柱』
『ちなみに。貴方の名は?』
『……ヒミツ』
それで回線が切れたのを感じた。
あんまり有益な情報は得られなかったな。やっぱり奥まで行かないとダメか。
『おっけー、こっちは終わったよ~』
ホールを見て回っていた四人に声をかける。
ぐるっと見ていたらしいが、特に変わったものは見つからない……というか変わった物しか無くて上げる者が無いとか。
モノリスに書かれている碑文も読めないので、俺達にはぶっちゃけ無用の長物だなぁ。
「とりあえず、はらへったから昼飯にしようぜ」
アーニャの提案で、少し早めの昼食がてら休憩を取った。
この先は全く情報の無いエリアだ。しっかり備えて行こう。
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先日4話公開目を公開しました!アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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