第272話 迷宮の罠と亡骸たち

フェイスレスに先行させ、守護兵ガーディアンが居たら石弾ストーン・バレットで吹き飛ばし、面倒な場合はワープ系スキルで部屋ごと飛ばす。

たまに魔物が出るが、通常攻撃だけでも十分に処理できる程度。罠に注意しながら1時間進んで15分休憩。2日目は8時間歩き、同じような安全地帯で休息をとる。

迷宮に入った地点から、中間地点までは四日から五日。俺達はかなり早いから、もう少し早く到達するだろうか。とりあえず、攻略自体は何とかなっている。


迷宮は思った以上にトラップが多い。

幸いほとんどフェイスレスが引っかかってくれるから何とかなってるけど、釣り天井とか迫って来る壁とか古典的だけどどうにもできないのは勘弁してほしい。


「……っと落とし穴」


足元の床が割れて、人形を浮遊感が包んだ。即座に魔結晶に込めた浮遊をを発動すると、落下が緩やかになり、すぐに浮遊へと戻る。

穴の深さは5メートル以上あるか。底を照らすと、殺意高めの槍が生えていた。


「この先に落とし穴があって、穴の中に先客が居た」


「……?………いやいや、それ死体よね!?」


「未来の仲間かもしれん。引き上げるから穴の手前で少し休憩にしよう」


落とし穴は通路を完全に寸断する形で開いていた。

勝手に閉じない様に手持ちの資材で楔を打ち込み、穴の中を確認すると、仏さんが何人か。

あの槍は守護兵ガーディアンの武器と同じ素材かな。そうだとするとちょっと除外が難しい。


「どうやって回収するんですか?」


「念動力で引き上げるよ。そっちお願いできるかな?白骨化してるっぽいから、注意して」


既に骨しか残っておらず、今にも崩れそう。頭蓋骨でも残っていれば操作は出来ると思うけど、どうか。

タリアも加わって、穴から死体を引き上げる。装備品は朽ちていて、武器などは残っていないようだ。頭蓋骨は3つ。一番新しい物も完全に骨だけとなっている。


「なんまんだぶ、なんまんだぶ」


コゴロウが両手を合わせて経を唱えているが……この世界仏教ってあったか?誤訳か?

拾えるものは拾ったけど、思いのほかパーツが少ない。大きな骨は残っているけど、小さな骨はそこを照らしても確認できない。全裸で迷宮に来たわけじゃないだろうから、服とかも残って居そうなのだけど、実際にはその一部がわずかに引っ張り上げられただけだ。


地面から生えた槍はやはり迷宮素材のようで、念動力で触れても持ち上げることが出来ない。触れると魔力が抜けてしまう。

底を調べたいが、下りられないだろうか。


多重詠唱マルチキャスト……石弾ストーン・バレット!」


落とし穴の中、影響のなさそうな片隅に向かって石礫を打ち込み破壊を試みると、当りどころが良かったのかいくつかの槍が吹き飛んだ。なんだ、一応破壊可能か。

折れた槍は砂に成って崩れ落ちたようだ。ほんとに守護兵ガーディアンと同じ物質で出来ているんだな。床や壁とは別のようだ。

遺留品も吹き飛ばす可能性があるけど、見た目大したものはない。破壊できるなら破壊してしまおう。


景気よく穴の中に石弾ストーン・バレットを打ち込み、出ている槍を一通り破壊。

安全そうなところにフェイスレスを降ろして地面を調べる。穴の内壁は迷宮の壁と同じようだ。地面は破壊された槍が変わった砂でおおわれている。

壁に沿ってぐるっと2週。特に変わった所は無い。石積み壁はみっちり詰まっていて隙間も……ん?


「タリア、あそこの壁に、数ミリだけど隙間があるっぽい。千里眼で奥をみえない?」


「やってみるわ」


迷宮の壁は魔術を阻害するので、タリアの千里眼でも壁を越えて探索をすることは出来ない。

でも隙間があれば奥を確認することが出来るはずで、何か分かるかも知れない。


「……奥まで続いているわね。難しい。壁に当たるとスキルが切れちゃうわ」


「見える所まで進んでみて」


「うん、やってる。結構隙間が複雑で……あ……明かりは無いけど……通路に出たわ」


「通路?」


「真っ暗だけど、暗視の効果で分かる。幅は1メートル、高さは3メートルくらいかしら。多分、その落とし穴の向こう。通路が伸びてる。……こっち側から鍵がかかってるみたい。あっ」


「どうした?」


「鍵も魔術妨害が施されてたみたい。千里眼の起点が消えちゃったからもう一度やり直しね」


「……扉があるか、こっちから調べてみる。タリアはちょっと奥まで調べてもらえる?」


「わかった、行ってみる」


フェイスレスを使って通路があると言われた壁を調べてみるが……分からない。


石弾ストーン・バレットを打ち込んでみるか」


「それなら、私たちもやりますよ」


バーバラさん、アーニャ、コゴロウも加わって、壁に向かって石弾ストーン・バレットを放つ。

これは単なる物理攻撃だから、迷宮壁より脆い素材なら壊せるかもしれないけど……ダメか。

壁自体はびくともしない。


「この通路、結構複雑よ。階段もある。所々に鍵のかかった扉も見えるわね。なんていうか、罠のメンテナンス通路って気がするわ」


「その考えは間違っていないだろうね。迷宮の罠は守護兵ガーディアンが修理しているはずだし。ただ、修理用の通路が裏に走ってるなら、そこを通れるなら、深部まで楽に探索できるかもしれない」


「といっても、通れそうな場所は無いわよ。ワタルのワープは?」


「……ダメっぽい。壁の向こうに空間があるか把握できないし、指定も出来ない」


「私の千里眼は行けるのに?」


「多分、術を通すための魔術回路のサイズが違うんだ」


スキルや魔術は、目には見えないけど身体から出た魔力で構成された回路によって繋がっている。

この回路が通らない場所に魔術を発動させることが出来ない。


タリアの千里眼は透視能力がある位なので、おそらくこの魔力回路のサイズがきわめて細い。原子分子レベルで見ると、物質はスカスカだからな。回路が壁の隙間より細ければ、通過することが出来るのだろう。

ワープ系のスキルは魔力回路がそこまで細くないらしく、壁の隙間を通すことが出来そうにない。

壁の素材が迷宮壁のような対魔効果を持っていなければ、たぶん影渡りシャドウ・トリップで行けるんだけど。


「……同じような景色で迷いそうだわ。今の所ひたすら通路が続いてて……あ……曲がり角で何かにぶつかったのか消えちゃった」


「壁じゃ無ければ、通路にも巡回してる守護兵ガーディアンが居るのかも」


「どうする?もう少し奥を目指してみる?」


「……いや、気にはなるけど今の所そっちに行く方法が無いから良いかな。今後はもう少し大きな穴が開いてないか、少し注意してみよう」


「わかったわ」


さて、次は遺体か。


「とりあえず並べてみましたけど」


「ありがとう。素材がもったいないから肉体の再生はせず、とりあえずステータスを見てみるよ」


屍体操作コープス・マニュピレイトで操作すると、ステータスは確認できた。

頭蓋骨3つとも男性。戦闘系の2次職で、おそらく冒険者だと思われる。

人格再填リ・ロードは……だめだ、効果が無い。時間が経ちすぎているのか、それとも別の要因があるのか。ウォールで亡くなった人でも、人格再填リ・ロードで呼び戻せなかった人が何人かいた。このスキルも、まだ俺の知らない制限があるのだろう。


「呼び戻せないようなので、包んで持ち帰りましょう」


遺骨は近くにあった骨をまとめて布で包み、収納空間インベントリに放り込んでおく。

名前は確認できたから、地上に出たら冒険者ギルドに持って行こう。何か情報が残っているかもしれない。

落とし穴が閉じない様に固定していた楔を回収し、俺達はさらに奥を目指して進行を再開した。

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先日4話公開目を公開しました!アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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