第423話 新兵器の開発に着手した

コクーンの拠点□


アマノハラでの工房から3日。殿下たちの撤退を見送って戦場を離れた俺達は、受送陣を使ってコクーンに戻っていた。


撤退戦で取った戦法は比較的シンプルだ。

まず合流した亡者たちと一緒にひたすら広域の攻撃魔術を連打し、戦場を混乱させる。同時に大爆煙バースト・スモークや、対魔魔術に属するジャミング術で敵の目をくらませ、亡者を収納空間インベントリへ格納、または影渡しシャドウ・デリヴァーで退避させる。


収納空間インベントリを活用することで転送回数を減らし、3分とかからず全員を戦闘域から退避する事が出来た。転移を追跡するような術もあるが、そんな物使える能力の魔物は近くに居ない。ブースト込みでINTが2500を超えると、1次、2次職レベルの索敵を突破するのは容易い。


そうして敵の目をくらました後、移動に必要な最少人数だけを残してコクーンへ引き上げ。

地上班は山岳地帯を南へ、歩きでクトニオスを目指している。現在移動を指揮しているのは索敵担当のアーニャ。ダラセドさんが斥候職としての指導を併せてしてくれている。彼はほぼ出ずっぱりで、アーニャと入れ替わりでコゴロウが指揮を執っている時も休みなく働いてくれている。

ありがたい話だが……足を踏み入れる事の無い未開の地の探索にウッキウキなので、うっかりミスをしないかが一抹の不安で……大丈夫だと信じよう。


そんな感じで拠点へと引き上げた俺は、地上の移動を仲間に任せ、バーバラさんと二人、ひたすら錬金に精を出していた。


「……シャフトの耐久力は1.5倍程度……最高速は上がったけどコントロールが難しい。戦闘中、十全に動かすには人形操作ドール・マニュピレイト多重処理マルチタスクだけでは足らないか」


やらなければいけない事はいくつもあるが、今やっているのは破壊されたビットの改修と増産。

ボガードとの戦いで全てのビットを出し切って、生き残ったのは2機。

ステータスも上がっているので、それを活かして新しく強固なものを作っているが……コントロールするのは1次職のスキルであり、基本手動運転なので戦力の大幅増強には至らない。


「さらに火力を上げようにも、中級魔術の付与は重量の観点から無理と」


魔鉄で中級魔術を付与しようとすると、必要な重量が重すぎて飛ぶことが難しい。大きさを上げれば重くなって速度が落ち、飛ぶのが難しくなる。いっそのこと戦車タイプとかも考えつくが、それなら土人形クレイドールからの砲撃でも構わない。MPの削減メリットはあるが、収納空間インベントリに収納して最大MPを減らすだけの価値があるかは微妙だ。

そもそも防御力には限界がある。想定する10万G級準ミリオンズ、そして100万G級ミリオンズの攻撃を防ぎきるのが困難な以上、躱して狙撃のスタイルから脱却するのは難しい。


「ボガードのオートタレットの様な術にどう対処するか……そもそも狙いを定めて魔術を使われたら避けるのは困難だしなぁ」


ビットの最高速は恐らく時速100キロ以上出ると思うが、アーニャが高速移動を使った方が早い。

そして上級魔術はそれを迎撃できるほどに魔術は早いのだ。狙われない事、そして狙いのつけられない不規則な動きが必要になるが……プロペラでは難しい。


……ダメだな。基本性能は多少向上させられるが、コンセプトが行き詰ってる。いっそのこと別の構造にしてしまった方が良いのかも知れない。

改良案に行き詰まりを感じて天井を仰いだ時、ちょうど顔を上げたバーバラさんと目が合った。


「お願いされていた魔道具、調整が完了しましたよ」


「おっと、ありがとう。じゃあ、それを動かしてみよう。こっちは煮詰まってるんだ」


「わかりました。ただ危険なので外でやった方が良いかと」


「もちろん。湖に行こう」


バーバラさんが準備してくれた魔道具を持って、コクーンの湖へ。正面にはキメラネズミを管理するために作った人工島が見える。


バーバラさんに作ってもらったのはおわん型の金属製魔道具。お椀の中には小さな魔結晶が裏向きに固定されている。魔力を流す、つまりMPを消費すると、おわんの内側に向けて強風ラフ・ウィンドを発動し、縁に添って排気する仕組みだ。


強風ラフ・ウィンドの魔術回路をベースに、ステータス参照、出力調整の機能を付けています。出力は5段階に設定してみましたが、魔術回路には無かった機能なので未知数ですよ? 一応、試しては見ましたが……」


「まぁ、そこは使ってみてだね」


魔力の流し方は、操作の試練でやった者と同じ。弱い出力が最も魔力が流れやすく、出力を上げるたびに込める魔力を増やせばいい。

軽く魔力を流すと、強風ラフ・ウィンドが発動して結構な力で椀を押す。ステータス参照機能があるから、最小出力でもかなり強力な風が出る。


「よさげだね。本格的に使ってみるか」


靴を脱ぎ、あらかじめ準備していたサンダルに変成を使って魔道具を固定する。

脚に二門、手に二門。とりあえずこれでコントロールが出来るだろう。


「よし、機動!」


真下に向けてから魔力を流すとそれぞれの椀から風が吹き出し、それが身体を押し上げていく。強風ラフ・ウィンドを使った小型噴射装置、模擬スラスターと言っていいモノだ。

出力を上げると、4段階目で身体が浮き上がる。


「完全浮遊までには4段階か……結構強い力で押してるように感じるけど、それでも飛ぶには結構な魔力が必要か」


スラスターの数が足らないか?

風圧だと面積が力に影響するっぽいから、大型スラスターを用意して、主力をそれにすればあるいは……まぁ、それは後で考えよう。

集中しないとバランスを崩してすっころぶ。


『そもそも一次職のスキルで飛ぼうというのが!』


風音が声をかき消すからか、念話が飛んでくる。


『初級スキルが弱いわけじゃないし!最大出力いくよ』


『気を付けてください!』


四つのスラスターに魔力を注ぐと、一気の身体が加速して宙に飛び上がる。

っ!これは……コントロールが!


飛び上がったまでは良かったが、湖の上へ出ると同時に身体が傾く。そのまま回転をはじめ、制御を失って水の中に突っ込んだ。


……ずぶぬれだよ。


「ワタルさん、大丈夫ですか!?」


「着水の時に切ったから問題無いけど、冷たい」


鎧を着て居なくて良かったと思いながら、加熱ヒート乾燥ドライを駆使して身体を乾かす。


原因は地面からの反作用が変わったのと、各スラスターで微妙に出力が違う事かな。

同じ設定のはずだけど、わずかにばらつきがある様に感じられる。やはり手作業で同じものを量産するのは難しいか。


「とりあえず飛べることは分かったけどコントロールは難しいね。別の使い方も試してみよう」


土人形クレイドールを使って人型の素体を作り、その背中と足にスラスターを固定する。脚は動かせるけど、背中は向き固定だ。

強風ラフ・ウィンドを使ったスラスターの目的は疑似的高速移動。ボガードとの戦いで分かったが、俺の剣の技術では太刀打ちできない相手がいるし、技術は簡単には上がらない。なら、睦月の特性を生かして、速度を上げてヒット&アウェイで戦えないかと考えた。


縮地は着地のタイミングで速度が0になる。影渡りシャドウ・トリップは入りも出も遅い。高速移動を定着させるのは難しいから、術者系の職で行くなら別の方法で速度を必要がある。その案の一つが魔道具による加速だ。


「今度は最初っから最大出力で行くよ」


「あの角度で浮力は足りますか?」


「足側と合わせれば何とか。3,2,1、GO!」


人形操作ドール・マニュピレイトと共にスラスターに一気に魔力を供給する。

噴出された空気が人形を押し、バランスを崩して頭から湖に突っ込んだ。


「……重心が悪かったかな」


「発動した時点でバランスを崩していたように見えましたが」


「うん。……地球じゃあれで飛んでたんだけど、所詮アニメだな」


重心をうまく調整すれば行けるかもしれないけど、姿勢によっては簡単にひっくり返る。スラスター型にしないで、背面から全身を押した方がマシそう。強風ラフ・ウィンドの初郎空間は円筒形にしかならないから、身体に当たらない所も強風が吹き荒れるし、効率を考えると大の字になって飛ぶことになるからそれはそれで嫌なんだけどな。


「ところで、こういうものも作ってみたのですが……」


そう言ってバーバラさんは少し大きめのスラスターを取り出した。

……金属部分が結構厚くて重い。


「それは?」


「瞬発力を高めてみました。ずっと風を噴出するのではなく、こう、爆発することで加速します」


「……嫌な予感しかしないけど試してみるか」


湖から這い出してきた人形の背中にとりつける。角度はちょっと下向き。

発想的には動きの止まらない縮地だけど、速度が足れば十分なので試すだけ試してみよう。


「魔力は……段階無し?」


「試作品ですから。一気に込めてもらって大丈夫です」


バーバラさんに促されて、人形から魔道具に魔力を通す。

するとボンッ!と爆音がして土人形が爆ぜた。スラスターが遠くの湖面に着水する。


「……吹き飛んだんだけど」


「吹き飛びましたね。人形の強度がらたなかったのでしょうか」


「……いや、土人形だけどさ。人体でも吹き飛びそうだぞ」


詳しく聞くと、発動するのは縮爆風バースト・エアだそうだ。

風属性の攻撃魔術で、発生する衝撃エネルギーは火炎球ファイアーボールより強力な奴だ。耐久力向上をかけた金属スラスターは大丈夫だったが、受ける身体はそうはいかない。


「ワタルさんが魔弾マナ・バレットで加速していたので、行けるかと思ったのですけど」


「あれ、むっちゃ痛いしいけないからね」


俺のステータスを参照して使ったら、身体がはじけるわ。HPを削りながら移動するのは避けたい。

とりあえず、縮爆風バースト・エアはお蔵入り。他の方法を考えよう。


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