第388話 街道を整備した
「これは……新型の装軌車両ですか!」
「メルカバーMk-3です。初号機より洗練されているでしょう」
俺が作った装軌車両の初号機・メルカバーは今は飛行船の一部になってしまっていて、バルーンを取り外せば何とか地面を走れる、程度の状況になっている。
そこで予備パーツを基にバーバラさんが設計・開発したのが新たな陸路移動用の装軌車両、このメルカバーMk-3である。
「試運転の時から更に改良してありますよ。トレコーポさんが乗ってきた試作車輛の機構も少しだけ取り込ませてもらいました。出力が上がっていて、最高速度は約650メートル毎分。飛行モードの浮遊にはプロペラでは無く、飛行船にも使われているワタルさんの
バーバラさんが胸を張る。
「実用試作車の解析しながら弄ってる暇ありましたっけ?」
「パーツは元々分割可能な設計にしてありましたから、弄れるところだけ弄っています。主にタービン周りの構造なので出力は上がっています。ただ、耐久試験は終わっていません」
「……吹き飛ばないですよね?」
「ワタルさんの防壁を抜けるほどの威力は出ないと思いますよ」
……タービンに耐久力向上をかけておこうかな。
ジェネ―ルさんがひきつった笑みを浮かべているが、まぁ試作機何てそんなもんか。幸い人間の耐久力が高いから、防御力低めの乗客を動力部から離れた場所に乗せておけば平気だろう。
一抹の不安を抱えながらも、装軌車両は発進する。
運転手はバーバラさん、助手席はタリア。乗客は俺とジェネ―ルさんのほかに、昨日までレベル上げをしていた錬金術師、人形遣いの村人が一人づづと、ジェネ―ルさんのサポートをしているマーティンさんという商人が一人。後は色々な物資が旅客部まで占有している。
それだけ重いという事なのだが、Mk-3は快調に進む。たまに商人や冒険者の一団を追い越して驚いた眼で見られるものの、大きなトラブルも無い。
『素晴らしい乗り心地ですな。どのような方法で揺れを抑えているので?』
『油圧サスペンションです。この機体の目玉機能ですね』
『製造の際に必要な精度が高すぎて、量産適用は当分難しいと思いますよ』
俺とバーバラさんが二人係で製造方法を検討して、1セット作るのに没品を二桁出した。ステータスが高いだけじゃどうにもならない事もある。
『貴族の方向けのものだけにでも採用したいのですが、何とかなりませんかね?』
『構造は教えられますから、後は生産の当てを付けてください。自分たちで作った物が貴族に蒔かれるとか面倒すぎます』
製造責任なんて負いたくないのヨ。
そんな話をしながら進んでいると、開拓村への街道に入り、道幅が狭く、切り立った崖が増えていく。
『ここから先は道幅が狭くて斜度もきついわ。この車体じゃ難しそうよ』
『飛行形態で進みますか?』
『どうせだから道を広げちゃおう。外で作業するよ』
『踊るの?』
『踊らない』
皆を残してメルカバーの外に出る。
この先の道幅は2メートルを切る程度。小さな荷馬車がギリギリ通れる幅はあるが、それが限界。
地面からは木の根が飛び出し、傾いた幹がメルカバーの屋根に引っかかる。さらに50メートルも進めば片側が崖のようになっていき、反対側の壁も切り立った山となっていく。
『道幅を広げて、足りない部分は上から持ってくる』
まずは
今回は
「さて……
地面が競り上がり、複数の巨大なゴーレムたちが体を起こす。
その影響で山頂部に生えていた木々は根をさらけ出して傾いていく。
しかしデカいなぁ。INTのおかげで最大高さは10メートルを超す。
こいつらを要所要所に転送して道幅を補強しながら地面を広げる。わざわざ山頂に来たのは土砂崩れを回避するためだ。
「さて行ってこい。
20体を越える土人形、岩人形を街道沿いに転送した。後は開拓村で塀を作った時の要領で道幅が確保できない所に盛土を行う。これを
「さって~……むき出しになった木も使うか。睦月、枝狩りで申し訳ないけど頼むよ」
『まかせとき』
最近ずいぶん意識がはっきりしてきた付喪神化した陽刀・石斬りを抜刀し、枝や根を打ち払って丸太を作っていく。高さ20メートル級が10本以上……こうして綺麗に片づけると、頂上ががっつりえぐられたのが良く分かるな。
枝打ちを行い、丸太になった木々に
残った木の根や枝は一旦乾燥させた後、範囲を絞った
『ただいま』
街道に戻ると既に道の拡張が始まっていた。へこんでいる所を土人形が自らの身を使って埋め、その上を岩人形が踏み固めていく。
パワーのあるゴーレムたちに丸太を担がせる、どんどん奥へと進めていく。
……ふむ。踏み固めは自動でもいいかな?
人形遣いのスキルには簡単な作業を自動化するスキルもあるが、
『それじゃあ、ゆっくり進みましょう』
街道に飛び出してきている草木は、
大きな障害物はゴーレムで動かすなり、念動力で運ぶなり。
山頂から持ってきた丸太を食いにして斜度がキツイ部分を補強しながら、メルカバーはゆっくりと街道を進んでいった。
『引退後は街道整備をするだけでも儲けられそうですな』
『3次職レベルなら誰でもできるんじゃないですかね。まぁ、こんなお金に成らない仕事を国が3次職にやらせるとは思えませんが』
よくわからない異能のおかげで俺のステータスは普通の3次職より高いけど、こういった作業をするだけならあんまり差はない。多少効率が良いのと、魔術に加えてSTRに任せた力業が取れるくらいしか利点が無い。
MPが足らなくなったのでMPタンクとポーションと野良の魔物からのドレインで繋ぎながら、そんな感じの補強処理を2回ほどくりかえし、村の近くまでやってきたのは日が傾きだした頃。
『ここを越えれば村側から開拓済みの街道に出るけど』
『斜度がきついなぁ』
ここは戦闘職が荷馬車を後ろから押し上げて何とか登れるくらい。装軌車両を突っ込ませて平気かどうか……落ちだしたら止まれないぞ。
『私の精霊魔術で均そうか?』
『いや、今回はザースまでの悪路走行のテストも兼ねてるから』
わざわざ装軌車両で帰ってきているのはそう言う事。
『斜度があるって事は山になっているんだから、余分な土をはぎ取れば上までの斜度は抑えられるはず。ついでに変成と圧縮で地盤を強化。これで行こう』
さらに人形を歩かせて押し固め、錬金術師のスキル圧縮で密度を上げて変成で硬度固める。
『下がりだしたら人形で止めるから、一気に駆け上がって』
『わかりました。出発します!』
メルカバーが駆動音を高鳴らせ、速度を上げて傾斜を上る。……地面が凄いえぐれているけど、幸いにして信仰不能になる事は無さそうだ。
そのまま一気に最後の難所を登り切った。
『おっけー!ちょっと道を補強してから戻る!』
ボホールを出てから約7時間。装軌車両が通れる道を開通させて、開拓村へと戻ることが出来たのだった。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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