第389話 不在中の雑務を片付けた

「ここが新たに開拓している温泉地ですか……だだっ広いですね」


塀の中の森を抜けると、その先に旧村部の塀が見えるのみ。

数日程度開けただけでは開拓村は相変わらずで、ジェネールさんは首を傾げた。まぁ、この外壁を僅か数分で作ったとは思うまい。


飛行船場の片隅にメルカバーMk-3を停車し、積み荷を商会兼クランの建物に運び込めば仕事は完了。

村も大きく変わった様子はなく平和そのもの……と言えたらよかったんだけど。


「たのむ~助けてくれ~!」


村の広場で冒険者が一人、逆さ吊りにされていた。

ステータスが高いのか、だけで腹筋でエビみたいに丸まってるけど、顔には殴られたあざが見える。


「……何があったんですか」


「酔って共同浴場で嘔吐もどした糞野郎です。集会での意見では縛り首が妥当との意見が出ましたが、一応皆さんの意見も聞こうと思い待っておりました」


「……はぁ。下ろしてやりなさい」


浴場が出来て以来、温泉は村一番の娯楽に成っているからそれを汚した奴に厳罰を!となったらしい。

便所掃除1週間の社会貢献くらいが妥当だろう。こんなことで村を血で汚したくはない。


村長はしぶしぶと言った感じで冒険者を解放するように指示していた。

……この民度の低さが怖いんだよなぁ。

彼をボコボコにしたのは一緒に入浴はいっていた冒険者仲間らしい。気持ちは分かる。


「他にトラブルは無かったんですか?」


「大きなものはこれ位です。支援物資のおかげで開拓は順調ですよ。作付けできる農地が少ないのが問題なくらいでしょうか。それと木炭がまた焼き上がっております」


「農地は村の外から土壌を運ばせましょう。人形遣いに頼んでください。できるだけ高い所から運ぶように。木炭は料理に使う分以外はアース商会で買い取ります」


森を切り開く開拓で一番出る余剰資材は、建材に使えない切り株である。

開拓村ではこれを錬金術師の乾燥ドライで完全に息の根を止めた後、変性で引っこ抜きやすい形状にしたて引きはがし、適当なサイズに割って木炭に加工している。

緩くなった地面は、場所に応じて耕すなり踏み固めるなりしている。そのうち植樹も考えた方が良い。


「後は……木材加工の工房と、陶器焼の窯が出来上がりました。生産を始めても良いので?」


「ええ、お願いします。うちからも注文を出しますよ」


「ありがとうございます」


建物はあるものの、ベッドが無いので床に雑魚寝だし、テーブルも小さいものだし、何かと足りないモノが多い。

街から運んでくることも出来るが、村で作れるものは村で作って仕事を生んだ方が経済的に良い。


「そう言えば、コゴロウ殿から正式に訓練場とする区画が欲しいと提案がありました」


「へぇ……問題はありますか?」


「いえ。土地が余っているので領兵、冒険者ギルドと共用で区画を割り当てましたが……ただ、管理をどうしようかと。ギルドの調査員殿が支部設立に割と乗り気でして」


村長に案内されて訓練場を見に行く。

旧城壁の外、今は四方に杭が討たれただけの簡素な区画だがそれなりの広さがある。


「共同で使うとなると、後々トラブルに成らないかが心配なのです」


「……ここは冒険者ギルドに管理を任せて、領兵側の訓練場は飛行船の発着場兼用にしたらどうでしょう。飛行船の格納庫も欲しいですし、あそこの管理は国に任せた方が良いでしょう。村からは1年は無償貸し出し。どちらもその後は一定額で使用量を徴収する形で。使用料は広さに応じて取ると良いです」


「なるほど。検討してみます」


冒険者ギルドの建物は訓練場に併設するようにした方が良いだろうな。今のうちにメインストリートを決めておくべきだろう。ついでに、転職神殿誘致のための場所も確保しておいた方が良いかも知れない。

村をぐるっと回って、自宅兼商会に帰り着いた時には日がとっぷり暮れていた。


「おかえりなさい。もうすぐ夕食だから、それまでは発狂してる商会長代理の相手をしてて」


「ワタル殿っ!なんですか、このぞんざいな商売はっ!」


ジェネ―ルさんは帳簿と書類を見て発狂していた。金に成らない出費が多すぎると。

気持ちは分かるが、別に商会の出費でやってるわけじゃないから良いじゃないか。むしろ金を集めすぎて困ってるくらいなんだし。


「それとこれとは話が別です。ただ与えるだけでは労働意欲にも関わりますぞ」


「最初だけですよ。あげた生活水準は落とせませんから」


「それはそれでヤクザのやり方です」


失敬な。真っ当な商売をしているつもりなんだがな。

村は免税期間なので、ボホールでの取引記録を基に俺の私財と商会の財布を分離していく。


「木炭の購入価格も高すぎでは?」


「ボホールの売値の5割ですよ。暴利でしょう」


「ここからの運送費用を考えたら、2割でも怪しいですよ」


「飛行船なり装軌車両なりが使えるので。自社開発の強みですね」


こういう機械を規制する法律はまだ無いからな。

普通なら商人が護衛を雇い3日かけて街まで運ぶ。その倍以上の量を半日で運びきれるのだ。


「買いたたく商人ギルドに卸す分には良いですけどね……」


「直接売るなんで面倒な事、俺がすると思います?」


「普通はするんですよ」


商人ギルドは既定の品目ならほぼ際限なく買い取ってくれるが、その分価格が安い。商会で小売りなり、契約商店への配送なりした方が利益は大きくなるが、その分手続きがめんどくさい。

金はあって困らないが、金で解決できない事の方が多い。金を稼ぐのに労力はかけたくない。


「そう言えば、クーロンの方はどうだったんですか?行っておられたのでしょう?」


雑談を交えながら、書類を片付けていく。うちの書類は定型を作ってあるので、後は機械的に処理するだけ。おそらく普通の商会より楽だ。


「……酷いもんですよ。落ちた村は数知れず、大きな領も一つ占拠されて難民も多数」


「それでも結構な活躍だったのでしょう?」


「どこで聞いたんです?」


神の声アナウンスが流れてたじゃないですか」


「……そうでした」


「ワタル殿の名前が売れるおかげで、商会の手続きはスムーズで良いですけどね。真偽官のお世話に成りっぱなしですよ」


「詐欺師でも湧いてますか?」


「語りくらいですかね。まぁ、各地の領主に任せていますよ。それで、あっちでは儲け話に成りそうなものはありませんでした?」


「混乱が酷いので商機はあると思いますけど、面倒です。粗悪品の封魔弾が出回り始めていましたし、クロノスより権力者や地商会との癒着も酷い。……人は余ってますから、難民の有地はしました。ここは人手不足ですからね」


「国外から迎えるんですか?トラブルになりません?」


「伯爵殿に審議官を始めとする官僚の派遣をお願いしていますから。そこは大丈夫でしょう。それに、ボホール領内もすぐに人が集まってきますよ。そのためにギルド職員を呼んだり、街道を整備したりしたんですから」


「まぁ、村の管理は領主様の仕事ですね。……私の方はこれで終わりですね」


「こちらも一通りですね。確認してもらえます」


「立場が逆なんですけどねぇ。……ふむ……はい、大丈夫そうですね」


「そう言えば、こういう仕事ができる人も村に必要になりますね。……学校も作るかな」


「学校?」


「教会のまねごとをする施設ですよ。文字を教えたり、計算を教えたり。まあ、この村だとまずは大人が相手ですけど」


「……稼ぎになりますか?」


「なんでも商売に結び付けるのは悪い癖ですよ。無用なトラブルと格差拡大を防ぐには教育が手っ取り早いです。ちらっと村法の書類見たでしょう」


「そりゃあ……教会が進出する前に抑えておくのはメリットあるか……村人側にメリットが無いですね」


「……娯楽が無いんですよねぇ、この村。とはいえ玩具おもちゃは隠れ賭博に繋がりそうなのでまだ披露目たくないですし」


「ああ、あれはダメですね。男爵閣下から厳重管理を言い渡されていますよ」


ヒンメルの孤児院に置いてきた玩具色々は結構リスクの高いアイテム扱いされているらしい。

子供たちからアイデアが漏れないようにするため、取り上げるのは見送ったらしいが……。


「……大人向けと言えば酒ですかね。ペーパーテストの商品に酒を出すか」


任意で参加にして、一定以上の点数を取ったら景品とか。……行ける気がする。

むしろクイズ大会みたいな感じにするのもアリか?


「……また何か突飛な事考えてません?」


「参加費取ったり無料券配ったり、いろいろと策が練れそうだなと」


アイデアを話すと「面白そうですし、試験的にやるのはありかもしれませんね」と前向きな返答が返ってきた。


「小さな祭りみたいなものでしょう?うまくノウハウ化出来れば、領地持ちの貴族様方や町長などに売り込みをかけられるかもしれません」


「俺はやりませんよ?」


「王都で封魔弾の生産に競合が出てきてますからね。ビジネスを広げられるなら広げておかないと。それに、こういう形の無い商いは真似されづらいと見ました」


……この人無駄に商才あるのかも知れん。


「なら、少しアイデアを詰めてみますか」


タリアから夕食のおよびがかかるまで、そのまましばらくジェネ―ルさんと話詰めた。

うちの料理を食べたジェネ―ルさんが、すぐにレストラン経営に乗り出すべきだと力説を始めたが、まぁそれはどうでもいい話である。

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