第390話 繭での合流

「いいタイミングで来やがったな、この野郎っ!」


開拓村からコクーンの借家に転移すると、家の前でばったりバノッサさんに遭遇した。


「おおっと、良い所に。時間迷宮攻略に手間取っていたら呼びに行くところでしたよ」


タリアの旅立ちの為、今日はダンジョンでのレベル上げとバノッサさんの回収をするつもりでいた。まさか家を出た所で鉢合わせるとは思わなかった。


「デルバイまで来てるって事は、一通り説明を受けてここまで移動して来たって事ですよね? とりあえず俺達はレベル上げのためにダンジョンに行きますけど、一緒に来ます?」


「聞きたい事が山とあるが……そのダンジョンとやらも興味がある」


「なら、移動しながら話しましょう」


バノッサさんを案内していたエルダーに頭を下げて、俺、タリア、バーバラさんにバノッサさんを加えた4人はダンジョンへと向かう。バノッサさんは既にデルバイの長に挨拶を終えたらしい。


「今日の目的は二人の2次職50レベル到達と、俺の1次職のレベル上げですね」


南大陸へのパーティー分裂の話は既にバノッサさん以外には行っている。亡者からの参加者も募るため、ウォールの拠点へ手紙で連絡済みだ。

今日はタリアの神凪、バーバラさんの魔闘士をレベル50にして戦力を増強するとともに、俺自身の戦い方のバリエーションを増やすために魔術師を99LVにカンストさせる。


「ずいぶん面白い構造のダンジョンだな」


「レベル上げが楽でいいですよ。まだ一般の冒険者が4階層までしか来ていないのもいい。鉢合わせしませんから」


コアの持つ価値を調整して、4階層は難易度が高く、かつドロップがおいしいように構成してある。

さらに5階層に少し手を入れて複雑な構造にしたため、一般の冒険者は4階層までで概ね満足して引き返している事が分かっている。


「しかし……どんだけ湧くんだ?」


「ドロップを回収してませんから、実質無限ですよ」


場所は普通のボス部屋。タリアとバーバラさんが5体のボスを湧くそばからぶちのめしているのを、俺達二人は部屋の外から眺めている状態だ。

精霊使いの踏み出す者アドバンスとなったタリアは、一部の契約精霊を神凪の状態でも使うことができる。このおかげで5体のボスも二人で安全に仕留めることができる。一度数が減れば後は1体づつリポップの度につぶしていけば経験値稼ぎはボロい。


「それで、一通り話は聞いたと思いますけど不足はなんでしょ?」


「……お前が時の迷宮の話をした時、コクーンの事を知っていたのか?」


「まさか。……と言っても信じられないと思いますが。エルダーを始めとする進人類ネクストの存在を知ったのはデルバイの迷宮を突破してからですよ」


確かに集合知に伝承はあったが、あくまで噂レベルの話だ。


進人類ネクスト?……ああ、そう呼んでるのか。確かに偉大なるグレイテストだの古のエルダーだの、統一した呼び名は無かったな」


「種族ごとに違いますからね」


「だとしたら、お前は永久の氷獄をどこで知った?お前さんがアインスで俺を訪ねて来た時、ステータスはほんとに初心者ノービスだった。出自なんて気にするつもりは無かったんだが……いくら何でも腑に落ちない」


「ああ、そこですか。……まぁ、ステータスを見せた方が速いですね」


見せるのは加護、つまり集合知が記載された項目。

今はクロノス王国歴290年版と300年版が同居している。


「やっぱり加護持ちか。……天啓オラクルはともかく、集合知は聞いたこと無い加護だな」


「人類が有するすべての知識へのアクセス、それがこの加護の特権ですよ」


集合知の使い方を説明すると、さすがに驚いたようで目を丸くした。


「俺が永久の氷獄について知っていたのは、この世界の誰かがそれについて知っていたからです。時の賢者についてもですね。個人的な事は分かりませんが、単なる情報なら概ね知ることができる、と思ってもらって大丈夫ですよ」


「……そんな話聞いた事ねぇよ。……しかし、それだけの加護があるって事は……教会共が探してる例の?」


「イエスですね」


ここまでくればもう話してしまって問題無いだろう。

創造神と思われる存在に、魔王を倒せと言われてこの世界に放り出された話を簡単に要約して話す。


「と言うわけで、俺は魔王をぶちのめして自分の世界に戻るためにこうして日々励んでいるわけです」


「異世界ねぇ……神界や冥界とも違う、人間が暮らす世界か……そんなに違うんか?」


「ええ、まあ。魔術も職業もスキルも無いですけど、便利でいい所ですよ。飯は上手いですし」


「……嬢ちゃんたちはそれを知って?」


「もちろん。コゴロウはどこか遠い島国、くらいに思っていると思いますが。タリアは家族を救出して付いてくる気満々の発現をしてくれています」


「俺にゃ夢物語にしか聞こえねぇが……まあ、全適正なんて狂ったモノも見せられてるしな。神の使いってのは納得だ」


「使いったって、大した能力は無いですからね」


バノッサと出会った時はへっぴり腰の初心者ノービスだったのだ。それは彼も十分承知しているだろう。


「……そんなに魔王を倒したいなら、なんで神様は自分でやらねえんだ?俺は進人類ネクストの話を聞いて、魔王ってのは神が与えた人類への試練か何かかと思ったくらいだぞ」


「なんでも、地上への干渉には制限があるらしいですよ」


神も精霊も、直接地上に干渉して力を振るうのは難しいらしい。例外が精霊同化や神降ろしなどのスキルだが、これには使用者の代償がある。


「そうかい。……まあ、そっち考えるのは俺の役割でもねぇか。疑問だったのは概ね理解した。言って見りゃ、なんでもありって事だろ」


「そうでも無いですよ。……人類がまだ成し得ていない事をしなきゃならないんですから」


「魔王討伐か……故郷に帰るだけの壁にしちゃデカすぎる。難儀な話だな」


一番難儀なのは、この世界で順調に思い出……絆が増えて行っている事のほうだけど。

日本の記憶が薄れないように、定期的に想起リメンバーで思い出してはいるけれど……たまに現実の方に流されそうになる。


「お前が俺に迷宮攻略を勧めた理由はなんだ?」


「そりゃ、ここがレベル上げに使えるからですよ?」


偉大なる者グレイテストを増やせとかお告げがあったわけじゃないのか」


「そっちはノータッチです。こんな怪しい勧誘、誰が受けますか」


「……ちげぇねえな」


タリア達二人の息が上がってきたので、俺とバノッサさんが交代で入る。


「1次職でステータスは大丈夫なのかよ?」


「魔剣士の踏み出す者アドバンスになったんで、かなり余裕ですよ」


物理限界突破はしていないし高速移動スキルも使えないが、ステータスはすべて2次職半ば以上。いつもに比べればINTは低めになっているが、この部屋の魔物は1体々々は5千Gほどだ。さすがに余裕がある。


謎の経験値減衰が入っているものの、数体で魔術師50レベルを突破。そのまま99まで上げてしまう。

これで初級だが詠唱無しで使える魔術のレパートリーが大幅に増える。

バノッサさんは「賢者になりゃいいのに」と言っていたが、賢者の踏み出す者アドバンスはまだ出ていないし、シナジーの無い職では使えないので意味がない。

初級魔術は最もバリエーションが多い。表6属性を操る魔術師でも、多様な効果の魔術を覚えられるのだ。INTが高い俺なら効果が大きいし、即座に使えるようにしておいて損はないだろう。


「ここは良いな。コンスタントに経験値が多いのが沸く」


俺が99に到達した後は、タリア、バーバラさん、バノッサさんが3人交代で魔物を倒していく。5千Gで足らない所まで来たら、次はゴーレムかワイトキングを狩る。

そうやってその日一日で、タリアとバーバラさんがレベル50に、バノッサさんは4つほどレベルを上げて時の賢者Lv15に成っていた。


---------------------------------------------------------------------------------------------

いいね、応援コメント、ブックマーク、評価、レビューなどなど励みに成ります!

したの☆をポチポチっとよろしくお願いいたします!


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る