第391話 異能の足音
「ふぃ~……こいつぁ……なかなか良いもんだな」
「……そうでしょう」
1日の仕事を終えて、開拓村で温泉に浸かるのは至福のひと時だ。
本日のレベル上げを完了し、バーバラさんは3次職の魔闘将にランクアップ。素手と魔術による高速戦闘を得意とするジョブだ。
タリアは巫女系3次職になる予定だったが、デルバイの転職神殿には神凪以上の選択肢が無かった。仕方ないので俺と同じく一度魔術師になって、
「バノッサ殿は大浴場にお湯を張る前に迷宮に行かれてしまったのでしたな」
「ああ。この辺に稼ぎになる魔物が居るわけでも無かったしな。……しっかし、いつに成ったら必要なスキルを覚えるんだ。お前、いくつかレベルを上げたら覚えるって言ってたよな」
「すいませんね。何せ中途半端な情報しか無くて」
時の賢者のスキルに、凍った檻に相手の時間を止めて封印する魔術と、それを解除する魔術がある事は分かっている。それが永久の氷獄と呼ばれることは分かっているが、実際いつ覚えるのかは詳しい情報が無い。
「まあ、あのダンジョンなら20半ばくらいまではすぐに上がるだろう。そこまでで覚えなかったら……如何すっかな」
「南大陸で無茶しないでくださいね」
バノッサさんは
丁度向こうに居る昔の仲間にも会いたかったのでタイミングも良いらしい。
「俺はザースの方が気がかりだけどな。山越え後はしばらくなんもないが……モニュメントがある廃都は、大勢で攻めた場合魔物の守りが厳しいだろう」
「そのための準備と王国からの出兵、戦力強化のレベル上げですからね」
オリジナルモニュメントには未知の職業があるらしい。今回のクロノスの出兵は、その確認が取れたことも理由の一つ。
こっそり廃都に行くだけならシガルタの都市国家群を伝いながら西に行き、そこから北上するのが良い。それをしないのは、モニュメントコピーを作るためだ。モニュメント自体を移設できればなおよし。
「まぁ、確かにな。……コゴロウはレベル上げは良いのか?」
「そう言えば、今日は来ませんでしたね」
「うむ。いきなり大きくレベルを上げても動きが雑になるのである。3次職はこれまで以上にレベルアップでステータスが上がるので、前衛職は気を付けるべきだと判断した」
なるほど、アーニャも来なかったのもその為かな。
「それに、ステータスの影響を抑えたトレーニングでも少し成長するのである。効率は良くないのであるが、実能力はそちらの方が上がっている感じがしているのである」
と、問題発言を投げ込んできた。
「ステータス……成長しているんですか?」
「うむ。ニか三日に一つ二つ上がっているのである。筋肉痛を感じるのは久々であるが、ワタル殿の造ったメニューは良いメニューであるな」
「いやいや……上がっているのはSTRですか?」
「一番上がりやすいのはDEXである。STRもそう変わらぬ頻度で上がっているのであるよ」
……そんなバカな。
この世界のステータスは身体能力に魔術的な強化を施すことで成立している。ベースとなっているステータス値の10という値は、成人時の人類の平均値や中央値に類する値であり、1増えれば1割増、20に成れば倍になる事を意味する。
コゴロウは既に3次職で、年齢的にも戦士として肉体は出来上がっている。大幅に能力が増える要素は無いはずだ。
「筋肉痛は……剣を振るう際に使っていない筋肉を鍛えているからだと思いますが……」
だからと言って、コゴロウレベルの肉体を持つ人間のステータスが数日で1割も伸びてたまるか。
「HPとか他のステータスも伸びます?」
「うむ。ステータス影響を抑え込んだ上で、竹刀で叩かれるなどしているとたまに伸びているのである」
頭がおかしい。
「ステータス抑えた上で叩かれたら、相手が村人でも骨が折れません?」
「力を籠めて防御を固めれば何とかなる物である。……回復魔術もあるであるしな」
「そう言うもんだっけか?」
バノッサさんも首を傾げるが……そんなバカな。そもそもVITは鍛えてもほとんど成長しないステータスだぞ。
「俺が知る限り、そんなにステータスが伸びるわけないんですけど」
「そうなのであるか?……皆、各々伸びているようなのであるが」
「皆?」
「うむ。そもそも某にトレーニングの効果を教えてくれたのはアーニャである」
「……それ、初耳なんですけど」
アーニャは成人前のステータスでSTRが10未満だったから、筋トレで多少伸びるのは理解できる。
とは言え見た目がそう変わってないから、そんなに筋力量は変わっていないはず。
「タリア殿が『ムキムキは可愛くないのよ』と言って過度な筋トレを禁止したらしいので、もっぱら成長しているのは魔力操作で伸びるINTと、DEX、AGIと言っていたのであるが」
「……声真似ありがとうございます。AGIはVITと同じく育ちにくいステータスなはずなんですけどね」
なんだろう、とても違和感がある。
「ステータス、見せてもらっていいですか?」
「む?構わないであるが」
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名前:コゴロウ
職業:剣豪
レベル:18
HP:1642
MP:1156
STR:640
VIT:428
INT:519
DEX:562
AGI:530
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んん~……ちょっと高い……か?
「ボーナスポイントはどう振ってます?」
「割と平均的であるが、STRが多いはずである。INTとMPには割り当てていないのである」
「俺の持ってる知識だとちょっと高い気がするんですが……正直
「STR600越えって4次職の世界だろ。3次職だとボーナス振って500くらいが良い所なはずだぞ。あと、INTがおかしいだろ」
「INTは術師系の
「俺か?」
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名前:バノッサ・ホーキンス
職業:時の賢者
レベル:15
HP:1170
MP:2080
STR:209
VIT:153
INT:1702
DEX:242
AGI:254
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「さすがの高INT。しかし……前衛が侍の
「ああ、ある程度動けないと中央では厳しいからな。最近稼いだポイントはセオリー通りにINTやMPに振り分けてる」
こちらは概ね想像通りのステータス。ちょっとINTが高いが……これは何とも言えない。INTは魔力を司るだけあって、ガチめによくわからないパラメータだからな。
「そう言うお前はどうなんだよ?」
「今は魔術師なんでステータスぐちゃぐちゃですけど、合成獣使いの時はこんな感じでしたよ」
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名前:ワタル・リターナー
職業:合成獣使い
レベル:10
HP:1768
MP:2743
STR:483
VIT:481
INT:1837
DEX:521
AGI:590
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「いろいろおかしい」
「今に始まった事じゃないんで」
集合知から分かる情報から今のLVで想定されるステータスを計算して比較すると、HP、MPが300以上、STRからAGIまでが200以上高い。これは
ただ、付与魔術師、錬金術師、侍、魔術師と4つの職の
魔術師と錬金術師はボーナスポイントも獲得できていない。
MPは高いが劇的にステータスが高くなっているかというとそうでもないのが辛い。エリュマントス戦後にめちゃ成長していたから、あまりメジャーでは無かった死霊術師になってみたが、あの頃ほど劇的なレベルとステータスではなくなっている。魔王に
「それに、どんなにステータスが高くても物理限界の所為で有効活用できるのは200くらいですよ。死霊術師も合成獣使いも、
「あ~……上級魔術の
「無いですね。そもそも、その魔術は使える職の方が少ないし、使い道も少ないです」
他人に掛けられる物理限界突破魔術ではあるが、普通の戦闘職なら物理限界が影響しだす頃には自力で覚える。俺には使い道があるが、基本的には死にスキルと言われている部類のものだ。
「……詠唱で覚えるか?」
「覚えられますかね?」
上級魔術を覚えるためのスキルは有しているが、詠唱で上級魔術を使うというのは聞いた覚えがない。
復唱法で覚えられるかもしれないから、試してみてもいいかもしれない。……試してみよう。
「それはさておき……素質とか加護とか変わった点は無かったですか?」
話を戻そう。
3次職のコゴロウのステータスがトレーニングで成長するようなら、本格的にトレーニング方を広めた方が良い。数値的にはわずかでも、腕相撲ぐらいまでルールを縛るとSTRが1~2高ければ確実に勝てるようになる。
それに術師もトレーニングで数値を伸ばせるなら、その影響は計り知れない。
「某に分かる範囲では無かったのであるが……そう言えば、全く知らない情報は見えないのであったな。どれ、ワタル殿、全表示するので見てもらえるであるか?」
「ええ、もちろん」
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名前:コゴロウ
素質:侍適性,士官適性,役者適性,指揮適性,炎魔術適正,武芸者の素質,学問の素質
スキル:
魔術:無Lv1,炎Lv1,神聖Lv1,雷Lv1
加護:一族の祝福
異界の加護:
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……あるはずの無い項目が増えていた。
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来週は日曜日から仕事の為、次回更新までに1週間ほど空いてしまうと思われます。
お待たせいたしますがご了承ください。
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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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