第178話 天啓のサービスと亡者のレベル

ハリス市長の伝手をたどって、ハリスからリャノへの出国者リストを調べさせてもらったが、件の商人らしき人物は記録に残っていなかった。

逆に街から出た者の記録では、それらしき形跡が残っている。やはり未成年連れは珍しいから記憶に残るな。


ハリスから南下するルートを取ったようなので、タリアを巫女への転職してもらった後、これまで通り装軌車両で追いかける算段を立てる。

転職のついでに、幾つか聞きたかった事を含めて、手動魔術について天啓オラクル様に聞いてみると……。


『魔術やスキルは、この世界に満ちたる魔力を操作することによって生まれる。魔力が正確に操作可能であれば、再現は可能』


『推測通り、再現するには魔力操作が必要。魔力操作は、もともと人類が有する技術。体術や剣術などと言った訓練で身に着くモノ』


『きっかけは魔力に触れる事。産み落とされた子供が肺で呼吸を始めるように、機会さえあれば至ることのできる技術。元来は魔力の感知が可能になり始めて至るが、職業とスキルの付与によって、先に操作を得る者も増えた』


と、まずはおおむね予想通りの答えが返ってきた。


「私は魔力操作で魔素の動きを再現出来なさそうなのですが?」


『ステータスと異能の弊害。成人した人類は、神の加護によって魔力を身体能力に置換する。自ら操作できる量に当たるのがMPやINT。元来、その値が大きく上がるには魔素を扱う技術が必要。職業システムによって、それを簡略化して肉体に刻み込んだ。貴殿の異能はその機能を取り込み、変質した。貴方の中は異界。この世界の理以外の力が干渉している。詳細は不明。その結果、魔力量の上りが大きすぎて、操作の技量が追従していない』


「……私のMP×INTが魔力量と言う仮説は正しい?」


『……否。けれど一部は是。そこまで単純では無いが、考え方はあっている。魔力に関する数値は刻一刻と変化する。ステータスは時間平均を取っているので一定に見えるが、揺らぎが存在しており観測に意味は無い』


「操作の技量の技量が達すれば、手動魔術は俺でも可能?」


『是』


「目安は有る?」


『……魔力制御。サービス』


魔力制御? 魔力操作ではなくて?……集合知に情報が無い。

……サービスか。


「……アーニャ、ステータス見せてもらえる?」


「ん、ああ。これでいいか?」


アーニャのステータスを確認すると、スキルに魔力制御と言う項目が生えていた。

なるほど、知らなければステータスに反映されない。集合知で分からない仕様は、俺にもわからないか。


自分のステータスには魔力制御の項目が無い。

俺は魔力を動かしているだけで、コントロールがし切れてはいない、という事かな。


「魔力操作に、職位リミッターがある?」


『是。すべてのステータスにはリミットがある。あなたはそれを異能で破壊した』


「俺の魔力操作が3で伸び悩んだ理由は分かる?」


『否。ただし推測は可能。おそらく、認知の問題。これまでの推移から、魔力操作意味を知らなかったゆえ、異能による改変の効果が及ばなかったと考えられる』


……異能ってほんとなんだろうな。

全く説明が無いし、この世界の神がくれた力でもなく、良い効果はあるようだけど詳細は不明ときてる。

上手く使いこなせれば魔王討伐に近づくのかも知れないが、そもそも良く分からない。名前から言って成長バフ系のような気がするけど……。


とりあえず、俺が手動魔術を使うためには魔力操作のレベルを上げて、自分の魔力をコントロールできるようになることか。

他に聞いておきたいことは……。


「精霊が色々と教えてくれるのだけど、ぶっちゃけ聞いて平気?」


『理解できる範疇なら是。禁則事項については理解できない。例、死霊術師の人格再填リ・ロードは□●※◆△”▼■#%▼……』


「ちょっ!それやめ!」


めっちゃ深いで頭痛い!やめ、マジ止めてっ!


『サービス』


「嫌がらせだろうっ!」


精霊からだとここまでの不快感は無いらしいが、理解は出来ないとのこと。

くそっ!今のは聞いていない話だし、絶対嫌がらせでやりやがったな。


「……集合知だと、巫女の上位職も精霊と似たような効果に見えるのだけれど、精霊と神は違う?」


『非なるモノ。詳細は禁則事項』


「なら説明は要らない。2次職の神凪のスキルに、神降ろしってのがあると思うけど、それで呼べるのは君と同類?」


『……禁則事項』


ん~……この感じは同類かな。

後聞いておくべきことはあるかな……一応聞いてみるか。


「魔物たちの動向や、タリアの家族の居場所などはそっちで調べられない?」


『……困難。干渉が大きすぎて世界が崩壊する。そもそも個人情報は回答不能』


……怖いこと言うな。

しかし神様側の力で、魔物をどうこうすることは出来ないと。

という事は、神がこの世界に積極的にかかわれるようにするのが『神降ろし』を始めとする巫女系スキルの効果って所かな。


『……実際の所、魔王討伐に近づいてると思います?』


『……不明。システム付加は依然増加傾向。神々の呼び出し回数も増加中。回収リソースは軽微。けれど変化は確認。要経過観察』


……まぁ、俺がやったことでそう情勢が動くとは思っていないさ。

とりあえず聞いておくことはこんなところかな。


『……もう一つサービス。大陸のオリジナルを目指せ。まだ人の知らない3次職が存在する。それでは、健闘を祈る』


祈る位なら手助けが欲しい、とは言うまい。

人の知らない3次職か……東大陸の転職モニュメントは旧ザース王国領内のはず。ちょっと簡単にアクセスできる場所じゃない。

東群島にはオリジナルモニュメントは無いはずだし、商人の件が片付いたら、ちょっと検討してみますかね。


………………


…………


……


タリアの巫女への転職を終えたので、商人たちから5日遅れでハリスの街を出る。

装軌車両を組み立てて、少しレベル上げの時間を取りながらとなりの街へ向けて出発。道が悪いのであまり速度が出せない。

とは言え普通に歩くよりは早いし、いざとなったら飛ぶなり、収納空間インベントリに収納して走るなりも可能だ。とりあえずタマットでも移動に支障は無さそう。


問題と言えば、クロノスを出たので解禁した隠し事の方。


「……これは……本当に報告にしないと不味かったものでは……」


とばりの杖を使って、タリアの巫女レベルを50まで上げた所。


「こんなもの城の宝物庫行きでしょう?マジックアイテムは有効活用してなんぼですよ」


タリアはわずか5分足らずでレベル50に達した。

魔物を強制的に強化をしてレベルを上げる手法だと、捕獲工程が入るから時間がかかるし、生まれる魔物もランダムだから封魔弾一発で撃破できるかも確定しない。

とばりの杖ならHP低めの魔物を呼び出せるから、こういう時に使うのは楽だ。


「さて、次はアルタイルさん、お願いします」


「ああ、それで誰で実験してみるのだ?」


「一番レベルの低いベンさんで」


人格再填リ・ロードで亡者となったアルタイルさんは、他の50人の亡者をまとめる取りまとめをお願いしている。

具体的には、魔鉄をベースに作った収納空間インベントリの指輪を装備して、自らの魔術で質量を1キロにした他の亡者を収納している状態だ。


普段は収納空間インベントリに格納して運ばれている亡者たちであるが、さすがに俺が50人分を持ち歩くのは問題がある。街のチェックで何を言われるか分からない。

そこで、アルタイルさんが収納し、アルタイルさんを俺が収納することで、実質一人にまとめている。無限収納方式だ。


収納空間インベントリの指輪は、使用者と対象物の両方が触れている必要があるという、ちょっと面倒な仕様でしか実現できなかったが、亡者となったアルタイルさんでも使うことが出来た。

それ以外のマジックアイテムも、彼自身が使うことが出来ることを確認してある。


今日はその検証の続きである。


「それでは、収納空間インベントリ


「おっと、敵か?」


アルタイルの収納空間インベントリから放り出されたベンさんが構えを取る。

彼は元新米領兵で、職業は槍兵。レベルは30になったばかり。年齢は俺と同じく18だ。


「いや、今日は実験だよ。でも、その緊張感は忘れずにお願いするよ」


アルタイルさんが状況を説明してくれる。

亡者の皆さんには、戦闘の真っただ中で呼び出される可能性があることを伝えてある。

つまり、収納空間インベントリから出て意識が戻った瞬間、そこは戦場の真っただ中かも知れないという事。警戒を怠らない様に、と言うわけだ。


「今日は死者でもレベルが上がるか、と言う検証を行う。使うのは座学で話した封魔弾だ。覚えているかい?」


「さすがに本の数時間前のことを忘れはしませんよ」


「うむ。収納空間インベントリの時間停止が利いているな。では、主殿、お願いします」


ベンさんのステータスを確認し、封魔弾を渡す。


「へぇ、これがそうなんですね」


「あとは、穴の中に魔物を召喚しますから、起動状態にしたそれをぶつけてください。そうしたらレベル確認です」


「わかった」


とばりの杖で3000Gの魔物を召喚し、それを封魔弾で倒す。

人形で倒すと経験値は全部操作者に行く。屍体操作コープス・マニュピレイトで倒しても経験値は操作者に行くのだが、これには減衰があるらしい。

では人格再填リ・ロードで俺のコントロールを離れた亡者ならどうなるだろう。


「……おお!見てください!レベル、上がってますよ!」


ステータスを確認すると、確かにレベルが上がっている。

ステータス値も職業の上昇領分程度は成長しているようだ。

屍体操作コープス・マニュピレイトで、“魔力を身体能力に置換する神の加護”が失われていない事は確認している。レベルと言う項目が残っていたからもしやと思ったが、これなら死んでいてもレベルが稼げるな。

もしかしたら、転職も出来るかもしれん。


「……ねぇ、レベルの上り、悪くないかしら?」


「あ、タリアさん!」


「うん……そう言えばそうだな」


3000Gの魔物を倒したのだ。レベル30からでも、40前後までは上がるはず。なのに彼のレベルは35だ。


「もう一匹やろうか」


追加でもう一体倒させると、今度は39まで上昇した。

……獲得できる経験値が減ってるな。


「アーニャ。お願いしていい」


「了解。50まで上げるなら後いくつ?」


「あと3匹かな?」


召喚役をディアナの首飾りを持ったアーニャに交代してもらい、ベンさんのレベルを稼ぐ。

レベルの上がり方から言って、獲得できる経験値は半分くらいになっている感じだ。残り半分はどこに行った?……普通に考えれば、俺に来ているかな?


自分のステータスを見てみるが、既に3000G数体ではレベルが上がる気配はない。


「やった!レベル50だ!……出来れば生きてるうちに到達したかった」


……深くは言及すまい。

ステータスは上がったので、この後は慣らしが必要かな。


「じゃあ、俺たちは30分くらい休憩。バーバラさん、彼の相手をお願いします」


「はい!ベンさん、スパーですよ」


「よろしくお願いいたします!」


ベンさんの周りに音符が飛んでいるのが見える。彼は美人に弱いタイプだ。

しばらく休憩をしてMPを調整したのち再出発し、日暮れごろには近くの農村にたどり着いたのだった。

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