第192話 正体不明の村を調べた
周囲の人里から離れた山間に見つけた村は、空からですら隠された完全な隠れ里のようだった。
周囲の村からは1日以上離れており、直接続く獣道すら存在しない。有ると分かって周囲を探索しなければ、まず見つからない場所に存在した。
「我が国の領土内ではあるが、このようなところに村は無いはずであーる」
タリアからの報告を聞きながら、アケチ氏は眉間にしわを寄せてそう述べた。
日が暮れてしまって細かくは分からないももの、タリアは調査結果を報告してくれる。
建物は5軒ほど、その内居住用の建屋はおそらく3軒。残り1件は納屋で、もう一軒は倉庫に見えるとのこと。
周囲は木製の壁でぐるりと覆われていて、村の直径は数十メートル。中には畑が有り、鳥小屋と数頭の牛もいる模様。馬も1頭存在する。
住んでいる人間はぱっと見30人ほど。今のところ子供は見かけていない。
村の周囲は区画的平たい地面が続いていて、人が入っていない為か大木が多い。
家々はその陰に建てられており、空から見てもぱっと見て人工物があるのは分からないだろうとのこと。日が暮れたにもかかわらず、屋外ではかがり火も焚かれていないらしい。
徹底しているな。
「どう考えても、巫女の千里眼で偶然空から見つかるのを避けてますよね。国境付近は、こちらの国でも向うの国でも監視しているんでしょう?」
東群島は巫女の本場だ。
国境付近には千里眼持ちの巫女を配置して、周辺に隣国の部隊が侵入してこないか警戒しているはず。
「よくこの国の事をご存じであるな」
「各職のスキルについては公開されてますからね。クロノスでも、冒険者ギルドで色々な職を調べれば出てきますよ。それに、タリアが素質持ちでしたから。推測は容易です」
「それでも我が国の民にはそこに至らぬものも多い。リターナー殿は平民の出と聞き及んでいるが、クロノスはずいぶんと教育が進んでいるようである。わが国でも見習うべきかもしれぬな」
俺の場合は集合知を使っているからなぁ。
まぁ、賢者の弟子という事になっているから、もし話が行ってもそれで済むだろう。
「しかしダラディスの悪党どもめ。このようなところにまで侵入しているとは!」
「いや、まだ隣国の兵と決まったわけでは無いでしょう?」
「我が国で悪逆非道な行いをするのは、奴らと決まっているのである!即刻兵を集めねば!」
あ、こりゃあかん。
この国はしょっちゅう隣国と小競り合いを起こしているからな。魔物より隣が脅威だと思ってるくらいだ。話の通じそうな雰囲気じゃない。
「集落を強襲するつもりですか?」
「どうせ犯罪者の一味である!場所が分かって居るなら、叩きのめすのみ!」
「我々としては捕まった子供の確保が最優先です。殲滅戦に手を貸す理由はありません。どうしてもと言うなら、勝手にやらせていただきますよ?」
「……むぅ。それは困るのであーる。貴殿や巫女殿のスキルは貴重。ぜひともご協力願いたいが」
「であれば、こちらにも協力していただきたいのですが」
今のままだと無警告で村を強襲しかねない。
敵の戦力がどの程度か分からないし、そもそもダラディス兵の前線基地かも不明なのだ。
「敵がどのような戦力であるにせよ、警戒をしているのは間違いないでしょう。攻め込めもうにも、大人数では不意打ちなど不可能です。であれば、森の中の孤立した拠点など、取り囲んで降伏勧告を出せば十分です」
人間同士で直接戦闘なんてしようものなら、どれだけ被害が出るか分からない。相手に3次職いた場合、人数だけ集めても返り討ちに合う可能性だってあるのだ。
広域の攻撃魔術は核兵器のようなものである。互いに撃ったら撃たれ、甚大な被害を及ぼす。
広く薄く人材を配置して広域魔術で攻撃されるリスクを減らし、探索スキルで一点突破を警戒しながら確実に降伏を狙うのが良い。
「それに死霊術師がいるなら乱戦は不利です。味方に被害が出たら即敵の戦力強化ですよ。敵は殺しても起き上がって来る死兵です。捕縛に注力することを考えておかないと、痛い目見ますよ」
高レベルの死霊術師なら、スキル範囲は四、五百メートルはあるだろう。今回のような村なら、戦場はすっぽり範囲に収まる。双方に死人が出れば、あっという間に地獄絵図だ。
この世界の戦争は、人数差だけで何とかなるような話では無い。
「……そうであるな。分からぬスキルを相手にするのは危険である。参考にしよう」
良かった。一応話を聞いてくれるくらいの冷静さは有るらしい。
敵の拠点は分かって居るので、明日はタリアの千里眼で現地を確認しつつ、周囲の村に協力者がいないかを確認。
拠点に向かって進行を開始するのは、兵力が集まる3日後となった。
それから3日は慌ただしく過ぎて行った。
タリアの千里眼で、村にウェインと思われる少年が捕らえられている事を確認。村の住人はほとんどが戦闘職であり、術師らしき男も確認できた。
巫女のスキルには千里耳といい、千里眼の音版が存在する。これと同じく巫女のスキルとして覚える読唇術を持ちいて調査したところ、男たちは誰かを待っているらしいことが判明した。
千里眼と千里耳は同時発動できないという制約があるので、会話自体はほとんど聞けていない。
応急的な防壁ではある物の、村はそれなりの防衛能力を有している模様。
魔物の発生もなさそうで、村長、もしくは町長のような職の者が一人は居ると考えられる。
周囲の村の聞き込みをして、協力者がいない事を確認。
ただ、村から街道への道は3本あり、いづれかを使って周囲の村や町を行き来しているらしい。
こちら側に来たものが居ない為、残念ながら捕らえることは出来ていない。
タリアの話だと、出た者と入ってきて者が数人居そうな話だ。タイミングが悪く、外に出た者を追いかけて捕縛するには至らなかった。
俺たちの準備は捕縛用封魔弾の量産。捕縛スキルを発動できるようビットの改良。
それに当たりどころが良ければ助かる、非殺傷?剣の作成などに精を出した。
「どういった武器なのでしょう?」
「切ったすぐ後にヒールが発動する。これで腕だの足だの切り落としても死なない」
腕を飛ばした瞬間、切られた腕は宙を舞い、傷は癒えて腕無しになる。ちなみにその状況から接着は無理なので、癒すなら再生治癒が必須になる。
「耐久力向上と、切れ味強化をマシマシにしているから、ステータス参照が無い鉄鎧くらいなら軽く切れる。ついでに剣と盾とかも問題無く切れる」
魔鉄比率を30%まで高めてあるから、何気に凶悪な仕上がりになった。
首をはねたらさすがに死ぬので、戦い方は気を付けなければいけない。
切れ味の性能を試して見たバーバラさんは『なぜここまで?』、ジト目をしながら適当に丸太を輪切りにしていた。
アーニャ用には封印解除と同時に発動する多重の
彼女は早く突撃したいところだと思うが、ここは我慢してもらう。
バーバラさん用には普段使ってる篭手に
タリアの装備は1次職の物より性能を上げることが難しいので、今回の更新は無しだ。
錬金術を使って素材を確保したり、隠れて亡者たちのレベル上げをしたり、魔物を倒して素材を集めたりとそのほかの準備を進め、出発の日の朝までに一通りの事を終えた。
途中で一泊の野営を挟み今日、日が昇って約2時間。
俺たちは目標の村まではおよそ5キロの地点まで迫っていた。
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