第191話 敵について分析してみた
最も街道に近い村にたどり着いたころには、空が赤く染まっていた。
タリアは今も千里眼で獣道の先を調べている。
「こちらへどうぞ。捜査本部として使わせていただいている屋敷になります」
街道を戻る途中で、ミャケから派遣された兵士たちに合流し、近くの村の屋敷へと案内された。
村の避難所兼村長の屋敷となっている建物らしい。
この村は林業を生業とする村で、人口は9世帯80人ほど。
村の周囲はぐるりと策でおおわれていて、出入口は3つあるが、ここから他の集落や街道へ通じるのは入ってきた道一つらしい。
「おやや、怪我をなされましたか?」
俺に抱えられたタリアを見て、裏切りそうなボイスをしたアケチ氏が首を傾げた。
「い、いえ、遠見のスキルを使っている最中です」
いかん、この人が話しているの見ると笑ってしまう。
なんで芝居がかった声なんだよ。笑ってっしまう。
「なるほど。そちらをお使いください」
部屋の隅に寄せられたソファにタリアを座らせる。
「どう?」
「少し進んだところで野営の跡を見つけたわ。
「わかった。無理に暗い中を動いて迷いそうなら無理をする必要は無いけど」
「どうせ寝たらリセットだから、行ける所まで行ってみるわよ。他はよろしくね」
「了解」
それじゃあ状況確認を始めよう。
「私たちは先ほどまで、街道から伸びる馬車に跡を追っていました」
二つ目の村への分岐を過ぎた先で後が消えていたこと。そこから森の中に入り、痕跡の残る獣道を見つけたこと。その先に野営の跡があり、今はタリアがさらに先を探索している事を報告する。
「巫女であられたか! わが国でも希少な能力の持ち主。特使殿のパーティーは人材が豊富なのであるな」
「まぁ、ぼちぼちです」
巫女が少ないのは、職業の知名度が低いからだろう。
東群島の識字率はクロノスよりだいぶ悪いし、農村部は閉鎖的だ。
東大陸国家連合に所属してはいるため最低限の施設は有る者の、農村部や山村には冒険者などの外の人間を受け入れる施設も文化も無い。
職業に関する知識も広がっていないから、素質があっても気づかない人が多いのだ。
「こちらでも話に上がっていた馬車の痕跡の追跡は行った。ハットリ殿の話では、確かにこの村より先に進んでいるようだ」
ハットリと言うのは、今回の捜査に参加してくれている
職業柄、あまり人に顔を見せないらしくここには居ないか、居ても分からない。
この村に入った理由は、本体が先に進んだとはいえ、近隣の村に協力者がいないとも限らないからだそうだ。
今回の件、アケチ氏やその上は人間の犯行だと見ている。
「結果はでましたか?」
「少なくとも、先日の襲撃に関わったとされるものは出て居ない。心当たりもなさそうである。一応、貴殿が連れている死人に面通りを頼みたいのであるが」
「大丈夫ですよ。どなたが?」
「一番長く生きておられた、スコット・チェン殿一人でよい。この手のスキルは、MPを消費する者であろう?」
「そうですね。では」
3人は俺の
「っ!……何度経験してもなれないな。ここは?」
「街道からほど近い村である。真偽官殿の調査で関係は無さそうとの身だ出てあるが、一応の面通りをお願いしたい」
「村の中ならスキル範囲内なので行ってあげてください」
彼らが働いている間に、俺たちは少し作戦会議をしよう。
「まず状況を整理しよう。襲撃者だけど、おそらく魔物でもクーロンの対皇帝派ではない。可能性があるのは、ミラージュどもか、この一帯で活動している山賊どもと考えられる」
「ん?なんでだ?」
「魔物はそもそも
正攻法以外でこの国を出る場合、漁村や接岸可能な浜に船をつけて出国する方法が考えられる。
追っかけるのに一番やっかいなのがその方法だったのだが、追跡がうまく行っていると信じるならそれは無かったわけだ。
「単なる山賊でしょうか?商隊には2次職も多かったという話でしたが」
「うん。なんで可能性の筆頭は
消去法だが、これが一番可能性が高い。
「犯人があいつらの仲間だとして、どうする? ぶっ飛ばせれば話は早いけど、10人以上の商隊がやられたって事はあたしじゃ太刀打ちできないよな」
「厳しいと思う。今想定できる敵の戦力は、死霊術師か人形遣い、それに精霊魔術士か精霊使いが居ると考えられるくらいかな」
操られたらしき3人には魔術師がいなかったことから、チェン氏の死因的に魔術師系統も良そうなんだよね。
「おそらく不意打ちは困難。亡者の皆さんに協力してもらって、人形を遣えば何とかならなくもない、くらい」
そしておそらく、相手側も何かしらの探査スキルは常時使っているだろう。
こちらが一定以上近づけば捕捉されるのは間違いない。
「俺たちの中で、索敵をかいくぐって相手に近づけるスキル持ちは居ない。亡者の皆さんも含めてね。可能性があるのは、
スキルでの索敵を回避しようとすると、3次職にならなければまず不可能だ。
「つまり、互いにバレた状態で人数も職も不明な複数の相手と戦わなければいけないという事ですね」
「そういうこと」
うちの亡者の皆さんは総勢54人。その内2次職はハオラン・リーとスコット・チェンを入れて5人。
1次職の三分の一はレベル50に達してもらったが、残りはまだレベルが足りない。
また2次職に転職可能かは試せても居ない状況だ。装備も不完全。
「装備面で言うと、対人戦は余り想定したものが無い。ビットは12機、フェイスレスは
メルカバ―の整備や改造に時間を使ったから、鉄人1号フェイスレスの修理は先延ばしになっていた。
特に自立機構の調整は手間がかかるので、今は無事だった
「皆殺しにするだけなら、射程内にとらえたらストーム系の魔術でも打ち込めば行ける。おそらく俺よりINTが高い相手はそう居ないから、気づかれる前に発動できる」
今ならブーストをかけまくれば、一キロ先位に魔術を放てる。
「ちょ、そりゃダメだぜ。ウェインも死んじまう!」
「分かってるよ。目的は奪還なんだから、さすがにそんな真似はしない。しかしそうなって来ると、俺たちだけでは出来ることが限られるな。敵の索敵に引っかからないのは、タリアの千里眼か、
そうなって来ると、一番の問題点は俺自身だ。
対人戦の訓練は続けているものの、剣を持っても技術的にはバーバラさんに及ばない。ステータスでごり押しできるから、スキルを使えば負けないけど……。
……俺に人殺しが出来るだろうか。相手が2次職だと、殺さずに捕らえるのは相当難しい。
亡者の皆さんに数で押してもらうのも手だが、自分の手を汚さないと言うのもちょっと違う。
「相手に目的は知られていないですよね。ハオラン・リーの商隊は事実上全滅でしょう。陽動してウェイン君だけを救出できませんか?」
「選択肢としては有りかな。アケチ氏達の協力を得られればだけど」
「とりあえず、対人用の装備を作る所からやっておこうか」
今の封魔弾は魔物用だし、殺さずに痛めつけることが出来る装備が欲しい。
バーバラさんは騎士なので、人間相手でも覚悟は決まっているらしい。タリアとアーニャも、死体に触れるのは多少慣れたらしいが、だからと言って人殺しの経験があるわけじゃ無いしな。
3人で相談しながら、臨時の装備を考える。
タリアが村のようなものを発見したのは、それからしばらくした後だった。
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