第190話 森の奥地を探索した
翌日の昼、話していた通り兵の詰所に顔を出すと、20名ほどの兵たちが慌ただしく準備をしているところだった。
昨日、先行して見つけた荷馬車の足取りに関する見立ては、既に書面で報告してある。
俺たちとしては、早々に例の街道から外れた村々を調べたい処。さて、どんな捜査方針になるかな。
「お初にお目にかかーる。本件の指揮を任された同心、ダイゴロウ・アケチと申す。捜査協力のほど、感謝いたーす」
自己紹介をくれたのは紺色の髪に黄金の瞳のナイスガイ。
さわやか系の細身イケメンなのに声と口調が……。
「……どうされた?」
「いえ、何でもないです。ワタル・リターナーです。こちら
「うーむ。先ほどまでこの街の入出者を確認していたが、怪しげなものは見かけなかった。担当にも不正はない。先の街には馬を出したので、報告いただいた、わき道の先の村の調査を行おうと思っている。同行願えるか?」
「はい。我々もまずはそこからかと」
「本件、私のほかに
真偽官が街の外で活動するのも珍しい。彼らはステータス補正の恩恵を受けられないから、十数Gの魔物でも襲われれば命の危険が大きいのにな。
「もし相手が死体を操る人間だった場合、我々だけでは不測の事態に陥る可能性がある。そこで、貴殿らにも審議官殿の護衛を頼みたいのだが?」
「直接的な手掛かりが見つかるまではそれで問題ありません。ただ、我々の方が移動が速いと思われますので、先行させていただいてもよろしいでしょうか」
千里眼で街の中の調査は一通り行ったので、あとは兵に任せればいい。
俺たちは冒険者なのだから、魔物を狩りながら見落としが無いかを探したい。
「ふーむ。ここまでも走ったのであったな。健脚である。我々は真偽官殿の安全が第一である。こちらから特使殿に護衛は付けられないが、それで構わなければ、夕方に最も街道に近い村ニースで落ち合う形でよいであるか?」
「はい、問題ありません」
「あいわかった。では、また後程お会いしよう」
理由をつけて引き留められるかと思ったが、スムーズだな。居場所だけ分かって居ればいいという感じか。
すぐに動いてよいと言われたので街を出る。幸い、出発の準備は済ませていた。
「タラゼドさん、まずは馬車の跡を追いたいのですが、いけますか?」
追跡と言えばこの御方。俺が連れている亡者の中で、代わりの利かない冒険家殿に追跡を依頼する。
「ああ、大丈夫だ。行こう、そう歩みは早められないし、日がくれれば無理だ」
「みんな、体力は大丈夫?」
「「「な、なんとか~」」」
……ここまで15キロちょっと位は走っているが、まだいけそうだな。
レベルが上がっても体力が上がらないのは、なかなかの問題な気がする。落ち着いたら、もう少し体力づくりに力を入れるか。
そこからはゆっくり歩きながら、緩やかな上り坂を進む。
あまり整備もされて居ないらしい。轍はあるし、下草も多い。通る人はあまり多くないのだろう。
一つ目の分かれ道までは1時間ちょっと。タラゼドさんの見立てではさらに先に向かっている。
そこから更に1時間ほど進んで、二つ目の分かれ道を進んだところで、足が止まる。
「……おかしいな。跡が消えたようだ」
「ここでですか?」
二つ目の村への分かれ道から、三つ目の村への道を少し入った所。周りを見回しても、進む以外ほかに道はない。
「手前で二つ目の村に向かったんじゃないの」
「レディ、俺は例え腐ってもいっぱしの冒険家だぜ。その程度を見間違えたりはしない」
「じゃあ、ここから荷馬車はどこへ行ったって言うのよ?」
「ん~……空かな」
「いや、馬車は飛ばないでしょう」
馬車は……ん~……メルカバ―では無いが、飛ばす方法ならいくつかあるな。
2次職が居れば、軽量化や浮遊、念動力などを駆使して短距離なら荷馬車でも持ち上げて移動させることが出来るはず。
「皆、周囲に気になる所は無い?ここまで来て、道を外れたのかも」
俺のサーチ魔術には反応が無いから、目視で探すしかない。
本格的に冬に入ったおかげで、地面にはえている草の量はかなり少ない。脇の藪の中をのぞいてみる程度のことは出来る。
「……あたしには分かんねぇ」
「私もです。タリアさん、どうですか?」
「今、千里眼で見てる。透視で見える範囲に気になる所は無いけど……」
「空からは?」
「ぱっと見は分からないわ。枝の広い木が多くて、上からじゃ地面が見えないし」
「タラゼドさん、範囲を絞れませんか?見立てが正しいなら、わき道があると思うんですが」
「ああ、そう考えてた。気になるのはそこだな。周りに比べると……ちょっときれい過ぎる」
指さされたのは低木が生い茂った辺り。獣道の一つもなさそうだが……。
「道を隠す……幻術系は継続時間が厳しい。……
「とりあえず千里眼で追いかけてみるけど、まっすぐでいい?」
「お願い」
広い森の中をやみくもに探すのは難しい。
それに道を外れると魔物に襲われた時に対処が厳しい場合もある。不意打ちを受けることはまずないだろうけど、うっかり躓いただけで酷いことに成る。
「……あ!獣道!この先、視線が通らない所まで進むと獣道に当たるわ」
「広さは?」
「人一人くらいは通れると思う。馬車は厳しいかも知れないけど……でも、ちょっと地面が気になるわね」
「行ってみましょうか」
俺の提案に皆がうなづく。
薮を切り払って、タリアが見つけた獣道まで進む。かなり距離があるな。300メートル以上あるかな。木が茂っていて、しかも高低差もある。
「……さすがにここは違うか?」
奥に進み、確かに獣道と思われるところまでは出た。
だけどここ、ほんとに人が通る道か?
「いや、当りだ」
地面に触れながら、タラゼドさんが教えてくれた。
「なんでか知らんが、草の生えているところに車輪の跡がある。この島で使われている荷馬車と、あいつらが使っていた荷馬車は車輪の幅がちょっと違うんだ。どうやったか分からないが、ここを通ったらしい。そこの植え込みとか、気が生えている前後に新しい車輪の跡があるぜ」
「たしかに」
「どういうことでしょう? こんなところを馬車が通ったら、周囲の木々が引っかかって跡が残ると思うのですが……」
こういうことが得意なスキル、と言うか、職業に心当たりがある。
「……精霊魔術士が居るわね」
「たぶんね」
綺麗すぎると言われた痕跡の除去。森の木々で痕跡を消すなんて芸当が出来るのは、おそらく精霊の力を借りたからだろう。
「どうする?進む?」
「相手が人間ならリスクが高すぎる。そろそろ戻らないと日が暮れるから、アケチさんに相談しよう。タリア、働きづめで悪いんだけど、千里眼で先行偵察と、ここに入ってきた茂みの再生をお願い」
一度林道に戻った後、タリアの精霊魔術で道を復元してもらう。
その後は千里眼で獣道の先を探索。目を閉じていなければならないので、また俺が抱きかかえて村まで移動することに成った。
……鬼が出るか、蛇が出るか。
自分で探索出来ないのが、なかなかにもどかしいな。
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