第283話 ローナとアンドリュー
ワタルとコゴロウがムネヨシから付喪神についての話を聞いていた時。
タリアとアーニャは村のはずれにある神殿に足を運んでいた。
「わっちがローナ。んで、そっちのおじいちゃんがアンドリュー。よろしくね!」
ローナと名乗ったのはハーフリングの女性。明るい金髪で、年齢は良く分からない。人間から見ればハーフリングは良くて10台前半、見誤れば一桁代後半にしか見えないので、外見から推し量るのは無理に等しい。特に女性はである。
「おじいちゃんとはひどいの。わしはお前さんの半分も生きては……あ、はい、すいませんなんでもないです」
睨まれて口を閉じたのは、長いひげを蓄えた白髪の人間族の男性。
ザ・魔法使いという雰囲気の茶色いローブに身を包み、飾り気のない杖を突いている。年齢は60代から70代くらいだろうか。二人の感覚だと、そろそろ何時お迎えが来てもおかしくないように思えるが、思いのほか背筋は伸びていて衰えを感じさせない。
そんな二人に連れられてやってきた神殿は、なかなかに大きなものだった。
建物としては3階建てくらいだろうか。大理石で作られた壁や柱が荘厳な雰囲気をだたよわせている。
……が、中に入ると小さなホールの真ん中にポツンと祭壇あるだけで、後はいくつも扉が並んでいた。
「神殿、なんて読んでるけど、呪術を試す際の小ホールと図書館がメインの施設だから、祭壇はおまけみたいなものなの。入ってこれだとびっくりするでしょう?」
なんて答えた物か、二人は顔を見合わせる。
けれどローナと名乗ったハーフリングは気にした様子も無く、奥の物置から椅子とテーブルを引っ張り出すと、座る様にと指示した。一連の流れが全部念動力で行われていて、いかにも魔術師の隠れ里っポイ。
「さて、長とかから聞いていると思うけど、わっちたちはあなたたちが迷宮の試練に挑むのを見ていました。あの部屋には映像を送る魔術が掛けられていて、ローアングルを除いていろんな視点から部屋の中を確認することが出来るのです!」
「ろーあんぐるってなんだ?」
「アーニャ、気にしちゃダメな奴よ」
出会って5秒でダメな雰囲気を感じ取ったタリアは、ツッコミを入れないと既に心に誓っていた。
無駄に話が長くなるだけだからである。
「さらに、操作の試練に挑んだ人のステータスとか、肉体の状態とかも見ることが出来ます。まぁ、今回それは関係ないです。その試練の中で、精霊の力を借りて、その親和性の高さを示したタリアさん、そして発露の試験を見事突破したアーニャさんに興味を持ったのが私たち二人です」
ローナは祭壇の上に立って胸を張る。
「わしらは
「私は元神薙なので、精霊使いのタリアさんにそれぞれ力を貸したいと思います。はい、ここまでは大丈夫ですね?」
「えっと……バーバラさんは?」
「ドワーフの彼女は同じドワーフのタテマルさんが話をしたいとおっしゃってました!不思議ですよね!あの人、鍛冶畑の人なんで格闘家に興味ないと思うんですが。まぁ、気にしなくても大丈夫です!」
鍛冶師関連なら、バーバラのその素養にひかれたのだろうか。
タリアは納得してとりあえず目の前の二人に集中することにする。自分たち3人は装備の強化が難しいと言われてしまったのだ。ワタルの太刀が強化されればそれで十分な気もするが、力はあるに越した事は無い。
「さて、二人まとめてここに呼んだのは、最初に魔素と魔術……ああ、ややこしいですね。あなたたちは
「……
「共有知です。長とのやり取りは全部知ってると思って大丈夫ですよ。ここで起きてることは、わっちたちの間ではおおむね共有されてるので、心配しなくても大丈夫です」
何がどう大丈夫なのか二人には理解しがたかったが、気にするのは止めた。
分からない事が多すぎていちいち聞いていたら進まないのだ。この話だって『あとで他の人にも話してくださいね』と言われている。要点を覚えて、後はワタルと相談すればいいと聞きに徹することにする。
「魔素とは、魔術的、呪術的現象を発生させる、この空間に満ちた不思議な粒子の事です。粒子と言っていますが、同時に波であり、力でもあります。この魔素は私たちのすべてに影響を受け、影響を与えるので、うまく操ると魔術的な現象が発せします。ここでいう魔術的な現象とは、物理現象的に因果関係が観測できない事象に成ります」
「不思議なことが起きると、そう思っておけばよい」
「それで、この魔術的な現象を起こす方法ですが、一つはあなたたちもご存知のスキルに成ります。これはわっち達が目指す存在、神や精霊に魔術を使ってもらっている状態です。詠唱スキルって知ってますかね?あれがいい例です」
「詠唱魔術の事だよな。ワタルが『神様に許可をもらっている』って言ってたけど」
「はい。その認識であっています!スキルと言うのは、人には見えない領域にそのスキルを記した本、呪文書のようなものがあって、そこにアクセスして効果を発動させています。アクセスするための許可証がそれぞれ違っていて、詠唱なら長い呪文が必要ですし、定着する前は条件を満たした職について居たり、レベルが達している必要があります。スキルの定着とは、この呪文書へのアクセス権をずっと持ち続けられるようになった状態ですね」
「転じて、
「え、ああ、うん。……じゃあ、
アーニャは小さな
MPを極力絞ったので、威力はほどんどない。ぱん、と風船が割れるより小さな破裂音を残して天井ではじけて消えた。
「なかなか面白いわね!」
「うむ。スキルの魔素の動きを目で見て再現したのじゃな。君の魔素の操作の中には、まだ呪文書へのアクセスを試みた残骸が残っておる。しかしその年齢でその再現度は素晴らしい。どれだけ幼少のころから練習を積んだのじゃ?」
「え……半年くらいかな?」
「……おお、天才の類じゃったか」
アンドリューは感心したように頷くと、同じように魔素を操作し、天井に向けて
「見えたかな?」
「……ああ、すっごいな。動かしてる魔素に無駄がないってこういう事なのか」
「わたしにも見えたわ。……でも、どう魔力を操作すればそうなるのか、まださっぱりね」
「ほほ、その辺は練習に励めばおのずと分かって来る。さぁ、話の続きじゃ」
「はいはい。目に見えない領域にある呪文書は、魔力を流せば現象を発動する形に魔素が動いて、スキルとして発現するわ。
「精霊は、頼めばMPを使って勝手にやってくれるわね」
「そう。精霊魔術も、契約精霊も私たちよりずっと魔素への干渉能力が高いの。というか、神も含めた次の存在は、肉体を魔素に置き換えた生命体って思えばいいわ。魔素の動きを操って、自らの意識を魔素の変動による演算に置き換えて永久の存在になるのが、わっち達が目指す次のステップ。精霊や一部の神はその人格を創造神が作った物で、わっち達は下から上がっていく形だけど……まぁ、身体が魔素で出来ている方が、魔素を操るには都合が良いらしいわ。ここまでは良いかしら?」
「ええ、なんとなく」
「あたしは精霊の話はよく分からなかったけど、それ以外は」
「すぐに理解する必要は無いわ。それで、あなたたちのリーダーが行ったように、外で好き勝手してくれてる魔王を倒すために力が欲しいなら、二人にはお勧めの方法があるわ。普通に
「……それが私たちに合った物ってこと」
「そういう事です!タリアさんは、精霊との親和性が高いから……精霊同化! 今はいちいち精霊に頼んで現象を起こしていると思うけど、契約精霊と半一体化することで、その力を意のままに……とは言わないまでもこれまでよりずっと細かく扱えるようになるはず。魔素の精霊から契約を持ち掛けるくらいだし、かなり見込みはあると思うの!」
「アーニャさんは、魔術刻印の習得じゃな。これは
それぞれが得意な分野を伸ばす提案。
まずは試してみて、それからパーティーで話を持ち寄って方針を決めればいい。
そう言われた二人は、さらに詳しく話を聞いていくのだった。
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現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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