第282話 付喪神とエルダーの頼み
「今の時点で意味のある強化が可能な装備は、兄ちゃんたち二人だけだ。それ以外は現時点で出来ることがねぇから、協力してくれる他の奴らに相談してみな」
装備の強化について相談したところ、応えてくれたのは長の家まで案内してくれたドワーフの一人。名をムネヨシと言うらしい。
彼が見初めたのは俺とコゴロウの二人。それ以外の3人については『装備の使い込みが足りねぇ』ということで出直して来いと言われた。
仕方ないのでコゴロウと二人でムネヨシ氏の話を聞く。タリアの視線が刺さるが致し方なし。
「まず最初に、お前さん達が使っている装備は中々のもんだ。今の実力、これから当面の成長を考えても、使っている期間を考えても、新調する意味はあまりない」
「
「金属の特性は知らんか? 金、銀、白金、どれも鉄に比べりゃ柔らかい。武器として使うとしたらルチルと一緒に採取されるアダマンタイトだが、量が少ないし硬けりゃ強いってもんでもない」
「
「ああ。だがそれは人が作ったもんじゃないだろ」
「エルダーは人ではないのでは?」
「似たようなもんだよ。いいか、神器ってのはな、成るものであって作るものじゃねえんだよ。素材だけで作れる強力な武器なんてものは存在しねぇ。そもそも魔素には『破壊』に関する特性があるわけじゃない。武器の性能は、魔素を使って起こす現象に依存すんだ。希少な魔素同位体の中にゃ今の魔術と相性がいい物もあるが、すべての現象と相性が良いわけじゃあない。創造神ですら全能ではないって言われてるんだ。素材だけに着目すんのは意味がねぇんだよ」
創造神って初めて聞いたな。俺がこの世界に来た時に会ったあいつか?
全能でないって……まぁ、そうだろうけどさ。
「ふむ、では某たちの武器に施せる強化とは?」
「魂の発現だ」
「魂?」
また怪しい単語が出てきた。魂、存在するのか?
「お前さん達、付喪使いって職業は知ってるか?」
「聞いたことは無いのである」
「陰陽師の上位職ですね。現在成り手がいるかは知りませんが、名前だけなら」
人形遣いと同系統の、いわゆる無生物を操る3次職だ。正式な系統は式紙使い、陰陽師、付喪使いとなる。人形遣いは人形しか操れないし、その上の
情報が少ないのでどんな職なのかはよく分からない。
「付喪使いはな、無生物に魔術で疑似的な魂を刻み、付喪神と呼ばれる一種の精霊のような状態にして使役する職業だ。この付喪神だが、長く、たくさん使われた道具なんかは自然に発生することがある。人が魔素を認識する術式が偶然発動するように、たくさん使われ、たくさん人の魔力に振れた道具は、偶然魂を刻印される。それが魂の発現だ。そうして個、つまり人格を得た物が元来の付喪神だ」
「精霊とは違うのですか?」
「精霊は自然物であり現象。付喪神は人工物であり個。似ているが別の物だな。例えば火の精霊はどこで呼んでも同じだが、刀の付喪神が二柱居たら、それは全く別の存在さ。んでだ、付喪神はその特性からモノに縛られるんだが、それと同時に魂を持つ疑似生命体とも言える存在だ。無生物が生物に変わるとどうなると思う?」
「……食費がかかるのである」
コゴロウが惚ける。
「それ、俺が長に言った話に釣られてますよね。……成長するって事ですか」
「正解だ。使用者と共に成長する装備。神器と言われる武器は、大抵がその類さ」
なるほど。……形としては俺が使う
人形遣いが操る人形は意志を持たない。あくまで使い手が操作する。
それに対して
「道具を付喪神化するには条件がある。端的に言えば、長く、多く使う事だ。お前さん達の中でこの条件を完全に満たしたのは、そっちの侍が持ってる太刀しかない」
「む……某の大鬼斬りであるか」
そう言えば、先祖から受け継いだ業物だとか言っていたっけ。
「その太刀は長く大事に使われている。運が良けりゃそのうち自然と付喪神化するだろうが、意図的に働きかけることでそれを今にすることが出来る」
「なんと。誠であるか。……我が家に代々伝わり、兄上が私にふさわしいと下さったこの太刀が……」
コゴロウが感慨深げに自らの太刀を撫でる。
……待てよ?そうすると、俺の装備はどれもそんなに長く使ってるものじゃないぞ?
「その条件だと俺もダメそうなんですが」
むしろタリアの槍の方が骨董品だから、そっちの方が望みがある。
「お前さんの武器は他の奴らよりいいが、それでもだめだ。素材が使い込まれている感じはするが、足りん。今の形になってからの期間が短すぎる」
今の石斬り、霞斬りには、折れたバスタードソードの一部が材料として再利用されている。
そのバスタードソードも、エリュマントス戦で破損した装備や古びた魔法剣が再利用されているから、確かに素材としての使いまわし期間は長い。それでも足らないのか。
「お前さんの持ち物の中で、これはと思えるものが2つある。一つは防具。鎧と盾だな。自然と付喪神化するレベルには達していないが、ステータス参照が可能な装備、自身のエンチャントと相まって、良い性質に育ちつつある。そしてもう一つが……人形だよ」
そう言って中破した状態で横たえられたフェイスレスを指さした。
「もともと人形遣いのスキルは、お前さんの人格を仮の肉体に宿すに近い。それは疑似的な付喪神状態と言って相違なく、魔素の刻印と相性が良い。必要な条件が整いつつある。……つっても、自然に付喪神化する場合、このペースで使い続けて十数年ってとこだけどな」
「全然条件が整ってる気がしないんですが」
「魔素の蓄積と、魂の発現は別なんだよ。んでだ……鎧と盾、それに人形、それらを俺が1つの装備として融合、再構成すれば……おそらくだが、付喪神化した防具を作れる」
「……マジですか?」
「マジだ。むしろ俺はお前さんの知覚の試練での戦い方を見て、その人形に興味を持った。人形の形では難しい。人形に宿る人格は完全なる人だからな。だが、鎧と合わさって新生するならあるいは……こればかりは試してみないと分からん。だが、試す価値はあると思ってる。つーか俺が試してみてぇからやらせろ」
最後本音が出たぞ。
この人、きっとやりたいことがまだまた会って先に進まないタイプだ。
「……一つ聞いていいですか?メンバーの中でタリア……髪の長い人間の女の子が持っていた槍が、かなり古いものなはずなのですが、あれは付喪神化できませんか?」
「ん、ありゃだめだ。すでに成ってる」
「……マジですか?」
「ああ。んで、今は休眠状態だ。どうやったら起きるのかはわからん。起きる気が無いともいえる。作り手が初めからそれを意図して設計してる気がするが、あれこれ弄るもんじゃねぇよ。大事に使ってやりゃ、その内勝手に応えてくれるだろうさ」
「なるほど」
現状装備として強化できそうなのは俺の鎧とコゴロウの太刀だけか。
熟練者がそういうなら、俺に出来ることはそう無いだろう。
「……わかりました。俺の防具は更新しなきゃと思っていたので、お預けします。コゴロウはどうする?」
「……お願いするのである。力はあるに越した事は無いのである」
俺は鎧と盾、それにフェイスレスと
そうすると、その間に出来るのは魔力制御を磨くことくらいだろうか。
武器の方はどうしよう。今の石斬り、霞斬りも使いこなせているとはいいがたいのだけど、ゲンジュウロウさんの話じゃ、先に進めば足らなくなるという話だしな。
「……ステータスをお見せした通り、俺はちょっと特殊でして。今の太刀ではその内役不足になる可能性があると言われているのですが、付喪神化以外で強化する術はありませんか?」
必須ではないが、この機会に聞いておくくらいは良いだろう。
「ああ、それについてだが、俺達からもちょっと頼みたい事がある。それをこなしてもらえれば、自然と強化に結び付くはずだ」
「頼みですか?」
なんだろう。ここの人たちに出来ない事で、俺達に出来る事なんてあるかな?
「何、大した話じゃねぇよ。……ちょっと外の迷宮を侵食してるダンジョンをぶっ潰してくれ」
ちょっと買い物に行ってきてくれ。そんな雰囲気でダンジョン攻略を打診されたのだった。
---------------------------------------------------------------------------------------------
現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます