第281話 神を目指す者たち
「なるほど、自らに合う武器を求めてか。そのドワーフが会ったのはアルヴェロたちだな」
なんと畳敷きの応接間に案内された俺たちが迷宮に挑んだ経緯を放すと、長と呼ばれたエルダーは、俺の話を聞いてかつてこの地にたどり着いた冒険者の一行の話を聞かせてくれた。
彼らは当時各地の遺跡を調査していた研究者の護衛としてこの地を訪れたらしい。
そのままここに残った者もいれば、再度外へと旅立った者もいる。ゲンジュウロウさんが出会ったのは、その旅立った側のメンバーだ。
「求める武器を作るのは可能であろう。だがその前に教えて欲しい。今の装備でも十分強力に思えるが、それ以上の力を求めて何を成す?」
「魔王を倒します」
いつものようにそう答えると、全く予想外だったのか長は目を見開いた。
「なんとなんと!今の時代にそのような事を迷いなく口にするものがいるとは!面白い!」
「まさか本当にエルダー・ドワーフの皆さんにこうして会えるとは思っていませんでしたが……武器もそうですが、魔王討伐に助力いただけませんか?」
案内してくれた男性が言う通りなら、ここには4次職相当の実力者がそろっていることになる。
小さいとはいえ街の規模から言って人口が100人未満という事は無いだろう。地上にいる4次職の人数を考えれば、むしろ戦力として期待したい。
「残念ながらそれは出来んのだ。どこまで聞いたか分からぬが、我々について話しておこうか」
そういうと長は、エルダー、つまり人類の次の存在について語り始めた。
「我々は古の時代に魔術師と呼ばれて居た者たちに当たる。その定義は今の魔術師をは異なり、自ら魔素を操り、神の奇跡と言われている術を自らの手で再現するものだ。今でいうスキルや魔術を、職の力を借りずに成すものだな」
「私たちはそれを
「……なるほど。魔術やスキルと混ざると確かにややこしい。とりあえずそう呼ばせてもらおうか。
「……なんでしょう?美味しいごはんとかですかね?」
「不老永寿だ」
……おう、大きく出たな。
「
「眉唾であるな」
「不老永寿って、魔人と同じでしょう?」
コゴロウは信じられない、タリアは大したことないという雰囲気でそれぞれ反応が違う。
「そして儂らは今もその先を目指している。概念からすると人が精霊、神使、または神と呼ぶ存在だな。そこに至るための中継点が
「ってことは、ここにいる人はまだ神様に成れていない人達って事か?」
「……アーニャ。言い方を学びましょうね」
率直にセンシティブなところを突くアーニャをバーバラさんがたしなめる。
「嬢ちゃんの言う通りで違いない。技が足りぬもの、心が足りぬもの、先を見据えて技量を高める者、まだ人の姿でやるべきことがある者……まぁ、こっから先は人それぞれさ。儂らはエルダーという種ではないからな。進み方は個々それぞれだ。誰も気にしはすまい。それでだ、儂らが魔王と戦わぬ理由だが、幾つかある。一つはそもそも力が足りぬことだな」
「4次職と変わらぬ呪法を使えると聞きましたが?」
「うむ。抗魔の呪法の一つだな。確かに使えるものが多い。さらに言えばお主たちが4次職と呼んでいる者たちが使う術より強力であろう。だが、それだけだ」
「それだけ?」
「我々は戦うことを目的としておらぬからな。おぬしらの言う3次職に相当する破壊の呪法を磨いている者はおらん。そもそも先達の役割を考えれば必要のない術だからな」
「必要ない?」
「うむ。我々はまだ人と同じ次元に居るが、先達たちはそうではない。そして彼の者たちの役割はここに至ったものをさらに先へいざなう事。ここに至る者がいなくならぬようらぬよう、地上の秩序と混沌を維持することにあり、我々もまたそこを目指す。故に単純な破壊の力は不要にて、持ち合わせておらぬ」
4次職のスキルの多くは相手の力を封じるモノだ。以前、ウォールで一緒に戦った狂乱戦士のグランドさんが使っていた
「そもそも、単純な戦闘力、破壊力という点ではお前さん達の言う2次職ぐらいが個人で持つ良い所よ。それであっても一人で100人、1000人相対することが出来るのだ。それ以上は人が一人で抱えるには過ぎた力。守るべきものすら滅ぼすことになりかねん」
「言いたい事はわかりますが……」
確かに3次職、伝説級と呼ばれるスキルや魔術は破壊力が高すぎて扱いづらい傾向にある。
味方を巻き込みかねない乱戦では使えない場合も多い。
「さらに二つ目の理由として、そもそも我々は均衡を乱せぬ。外、端的に言えば世界は人類を始めとするそこで生きる者たちが支えるものだ。儂をはじめ、すでに人類を辞めた者が干渉して良いルールは無い。もしその様な事をすれば、今度は神が魔物たちを助けねばならなくなる」
「……神が魔物を倒せと言っているのにですか?」
「意志と法則は必ずしも一致せん。それが分かっているから、魔王はこの世界のルールとして、均衡が維持される範囲で魔物を生み出す呪いをかけた。魔物が勢力を増し、混沌が許容範囲を超えたため職業などと言う物が与えられたが、本来であれば魔物の脅威は人の身で克服できる程度にすぎぬ」
確かに、倒せないほど強力な魔物はいない。それが価値を魔物に変える魔王の力のルールだ。
「直接ここに攻め込んでくるようなことがあれば、降りかかる火の粉を払うくらいは出来る。しかし、表立って戦うわけには行かん。世界の命運はあくまでそこに生きる物がつかみ取るものだ」
「あなた方も世界に生きているのでは?」
「死なぬものは生きてもおらぬよ」
不老永寿。事実上、不死と言っていい存在。そして彼らは俗世から離れ、神となることを目指している。
なるほど、少なくともまっとうに生きているとは言えない存在だな。
「まぁ、抜け道もあるぞ。我々からお主らに提示できることは2つある。一つはお決まりの話であるがが、ここで修業を積み、人類から次の存在へと進む道を提示する事だ。素養とやる気に大きく影響を受けるが、今ではお主らが天寿を迎える前に、不老程度なら実現できる教えを施せるであろう」
「……ありがたい話ですが、興味ないですね」
「であろうな。ここに来る者の多くは初めはそう答える。再訪する者もそれなりに居るがの。もう一つは、間接的に助力をすることは出来る。お主らがここを目指す理由となった、アルヴェロたちに武器を授けたようにな。ただとはいかぬが、物であれ、技であれ、お主らが対価を支払うなら助力することは可能だ」
「対価とは?」
「モノであれば材料。技であれば時間じゃな」
……それは対価と言うのか?
「すまぬ、一つ伺ってもよろしいであるか。先ほどから話を聞いていると、貴殿らは非常に協力的に思える。しかし某にはその理由が皆目見当もつかぬ。なぜであるか?」
「未来の同胞になるかも知れぬ者に、力を貸すのは当然だろう」
「しかし、ワタル殿は興味がないと答えたのである」
「人の心は変わるものだ。我々は再訪を快く受け入れる。言ってしまえば、お主らがどのような人間であっても構わぬ。外での大罪人であろうと、ここで修業を積み、次の存在へ至れるならそれでよい。そしてそれは今である必要もない」
「心が変わらぬ者もいるやもしれぬのに?」
「永久を手に入れることは、欲求を捨てるに等しい。欲求が消えれば執着も消える。善も悪も無く、すべての在り様を受け入れられねば、いずれその身を滅ぼすことになる。……次の存在に至り真っ先に無くなるのは性欲だが、他も変わらん。捨てられずにここを去った者もいる。今は最初から期待してはおらぬのだ。お主らの未来に、お主らの選択で我々と交わることを期待している」
「……自ら選べば、だれでも受け入れるという事であるか」
「選んで進めるかは別だがな。年老いて再訪し、次へ至れず死んでいった者もいる。対価は時間、その者は支払うだけ持ち合わせていなかったという事だな。種族から個へ至る道は、基本的に孤独なものだ。むろん、助け合う者もいるぞ。エルダーの夫婦も何人かいるし、夫婦神となった先達もいる。他者の助力が得られるかは、ここでも外と変わらぬ。執着を捨てようとしている者たちの心を動かせるなら、それはその者の力であるからな」
好かれて居れば助けてもらえるし、嫌われ者は助けてもらえない。つまりそういう事か。
助け合いという概念は形骸化していて、ギブ&テイクは成立しなそうだな。なかなか世知辛い集団だ。
「あなた方の在り方は理解しました。それであれば、出来る限りで良いので、魔物と戦うための武器と技を授けていただきたい。俺は魔王を倒すつもりでいます。そのためには、今の力では足りないと考えています。たとえ4次職になったとしても成せるか分からない。出来ることはすべてやる必要があります」
「うむ。かまわぬよ。知覚の試練では面白い戦いを見せてもらったし、お主らに力を貸そうという者も既にいる。その者たちに話を聞き、自ら決めると良い」
長は、自分が話すべきことは話し終えたというと、それぞれに力を貸してくれるというエルダーたちを紹介してくれた。
知りたい事はまだまだあるが、今すぐでなくてもいい。俺の目的は魔王を倒して地球に帰ることだし、今は戦力増強に努めよう。
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現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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