第438話 再びの鼓動
「気分はどうかな?」
そう問いかけると、ハオラン・リーは瞬きをして自らの手を握る。
「死んでから感じていなかった感覚です。背中がむず痒い……生きていたころを思い出せませんが……とりあえず、身体を起こすのは無理そうですね」
背中に成人男性一人ひっついているからな。
念動力で抱えて身体を起こしてやる。
「これぐらいの重さなら問題ありませんが……重心がおかしいですね」
「そりゃまあ……おっと、すまんがもう一度寝てくれ。これはダメだ」
ハオランの心臓が再生できていれば良いのだけれど……再生治癒は生体側に負担がかかるし、このまま続行していいか不明だな。
「ステータスはどうなっている?」
「……私の方は……このように」
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名前:ハオラン・リー
状態:亡者・キメラ・寄生
職業:武装商人
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ふむ。状態が見たこと無い感じになってる。
「推測だけど、死霊術の魔術によって自我を維持していて、かつ肉体と接続されている状態が亡者なんだと思う」
肉体が失われた、つまり生物的には死んだ状態で、それでも魔素によって自我を維持して現世に影響力を持った状態は、
亡者は死霊術の条件を満たさなければ、自分を維持するのに必要な魔力を集められない。しかし逆に言えば、肉体が損傷し自身の維持を肉体に依存できなくなっても、他者の魔術を起点として疑似精霊・疑似神として存在していると言える。
「つまり、死霊術で疑似精霊化・疑似神化して肉体を操っているのが亡者という事になります」
エルダーたちの目的、そして
「亡者が人類側の
「もし、再生治癒で私側の肉体が生者と変わりない物となった時、
「ええ。それが出来れば、遺体をキメラ化して生体に置き換えることで、死者を蘇らせることが出来る。そのキメラの状態ですが、俺がスキルで分かるのがこれ」
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名前:ガリレイ&ハオラン・リー
状態:寄生体キメラ・瀕死・昏睡・亡者
職業:偵察兵,武装商人
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ハオランが見たステータスはハオラン側だけだったが、俺のスキルで確認するとちゃんと二人がキメラ化している事が分かる。
ガイレイというのがこの男の名前で、寄生体キメラとういうのが二人合わせてみた時の状態なのだろう。瀕死・昏睡がガリレイの状態で、亡者がハオランの状態かな。
寄生体って事は、ガリレイ側からハオランが一方的に利益を得ている状態で、しかもガリレイに害があると見るのが良いと思っている。言っている間に、またバイタルが怪しくなってきてる。
「こっち側の心臓を動かさないと、ろくに動けないですね」
必要なのは適切な栄養補給。そして栄養補給できるのは生きている側だけ。とりあえずたたき起こすか。
「ちょっと眠っているこいつをたたき起こしますよ」
「背中にくっ付かれているとやかましそうですね」
どっちかと言えばハオランがくっ付いてる側だけどな。
「おら、起きろ」
HPが無いので出来る限り手加減して殴る。
「ぐぼぁ!」
「痛っ!?」
男の叫びと、ハオランの叫びが重なった。
「がはっ、げふっ!!なにが!」
「痛い!久々に痛いですぞ!?」
キメラ化したハオランに男のダメージが伝わっているようだ。亡者は痛みをロクに感じないはずで、これは新たな発見だな。
「お目覚めの気分はいかがかな?」
「なんだこれ、俺の身体はどうなって!腕が!足の感覚もっ!」
「暴れるなよ。
「しびれる!?」
男は麻痺して言葉が出ないが、耐性のあるハオランは喋れるが影響は出ているみたいだな。
「さて、カロリーを取ってもらわないと困るんだが……とりあえずおかゆでも流し込むかな」
飯を食わせようと思ったが、麻痺していると咀嚼は出来ない。真面に食事を取らせるのも微妙だし、搔っ捌いて胃に直接流し込んだ方が早いが……あ、もう一度改造すればいいか。
解決策を思いついたので再び
「追加改造は……ああ、切り落とした手と足を使うか」
人造獣使いのスキルは、対象に何かを加算するためなら何度でも発動できる。そして『足したもの』を引く事は出来ない。『足したもの』はその生物の
ネズミの尻尾を切り落とし、ヒールで癒す。その後切り落とした尻尾を繋げてから、再生治癒を施すと尻尾は2本になる。
ガリレイだっけ?こいつの手足が倍に増えるかも知れんが、まあ気にする必要は無いだろう。このままの体勢は不便だろうから、ついでに体勢が体育座りのようにコンパクトになるよう皮膚を融合。これでハオランのランドセルになる。
「お前の口から食べた物が、背中の胃に行くようにするけどOK?」
「もう好きにしてください」
ハオラン側の食道を分岐して、ガリレイ側の胃につなげる。これで食べた物は問題無く吸収されるはず。
「……いや、待ってください。食事を取るという事は、出すモノも生まれるって事ですよね!?これ、どうなるんです!?」
「あー……うん、どうしようかね」
今だとガリレイのケツがハオランの腰の上あたりにコネクトされてるから、そっから出るな。チ〇コは向きを下向きにするとしても、ちゃんと拭き取れるかは微妙。常時うんこ臭い仲間は嫌だな。
「……大腸を繋いでうんこ移植することになるけど、自分のケツから出すでOK?小便も膀胱を繋ぐから、自分の方から出せるようになるはず」
「言葉の意味半分わかりませんが、糞尿垂れ流しはいやですぞ。人としての尊厳を保てるようお願いいたします」
「亡者に尊厳ねぇ……」
まあ、背中で付属品になるこいつよりはあるかな。
殺気から呻き声を上げながら、恨みがましい目でこちらを睨んでいる。
「……てめぇに奪われ、犯され、殺された者たちの恐怖と恨みは、こんなもんじゃないからな?」
思わず口が滑る。
この男は集合知にも名前が上がる重犯罪者。
俺の集合知では、全ての犯罪者の名前が分かるわけじゃない。むしろ犯罪歴は個人情報なので分からない事の方が多い。
単なる殺人、強盗程度では記録されない。集合知で分かるのは、生かしておけば人類の害にしかならないと判断された犯罪者だけだ。
「お前の
集合知の悪い影響が出ていと思いながら、言葉が止まらない。
「魔物にすら、隷属紋を刻んで奴隷にする価値が無いと思われている奴が、人間らしく死ねると思うなよ?出来る限り残虐で苦しむ方法で、死を願う言葉すら吐けない様にしてやるからな」
殺人などに対する忌諱感は、日本で暮らしていた時と同様に残ってはいる。だけど敵を前にした時に、それに対すタガが外れやすくなっている。
……ダメだな。この手法は出来る限り自重するべきかもしれない。
少なくとも、子供たちをこの方法で蘇生する気にはならない。こんな業を無垢な子たちに背負わせるべきじゃない。
俺の葛藤は意に介せず、発動したスキルは肉体の改造を行っていく。
エンチャントアイテムでHPの切れた身体をサポートしてやって、ハオランは何とか座って食事をすることが出来るようになった。
久しぶりに口にした食事を、彼は『味の無い泥か何かを食べているようです』と評した。亡者の身体には味覚が無く、口にするものは料理である必要もない。それでも彼にはまともな料理を出す。それが背中のクズに対するあてつけであり、より苦しめるための拷問になるのだから。
食事をし、
ハオラン・リーの心臓が再度鼓動を始めたのは、それから半日後のことだった。
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