第210話 技術について検証してみた 前編

冒険者ギルドでの一通りの報告を上げた後、珍しく全員で冒険者ギルドの管理する訓練場に足を運んでいた。

町はずれに作られた訓練場の雰囲気はどこもそう変わらない。グラウンドがあり、木や石、巻き藁で作られた的があり、そのほかにあるのは訓練用の装備を管理する小屋くらいだ。


時刻は2時すぎ、日暮れの早い冬に身体を動かすのは少し遅い時間。

にもかかわらず全員で来たのは、二つの目的があったからだ。


一つ目はクラーケンのドロップ品である槍の性能確認。

魔力が込められているのは分かって居るが、どんな効果があるのかは不明。検証しなくても売却は出来るが、珍しい効果だった場合は備蓄品や亡者に使ってもらうのも選択肢に入る。


二つ目は上手くいかなかった技術の検証のため。

先だっての邪教徒アヴァランチとの戦いで、レベル以外の実力を高める必要性に感じたので、各々が新たな技術の体得を目挿してのトレーニングを行っていた。

俺の場合はモーションに合わせた魔術の発動。タリアは念動力の複数発動。バーバラさんはスキルキャンセルの自在化。アーニャは手動魔術のモーション連動である。


「とりあえず、試していた技術について確認しちゃおうか。まずは俺から」


俺が追加で試していたのは、剣の斬撃モーションに合わせて魔術を発動する技術。

拳で殴るモーションに合わせて魔弾マナ・バレットが撃てるなら、剣で斬るモーションに合わせて魔弾マナ・バレットが打ててもいいだろう、と挑戦していたがこれまでの所一度もうまく行っていない。

ぶっつけ本番で上手く出来たりしないかと試してみたが、案の定ダメだったのだ。


土人形クレイドール!」


いつも通り、土人形で目標を作って剣を構える。

ここから斬撃、3連撃に合わせて魔弾マナ・バレットを発動する。太刀筋は上段、返し切り上げからの横凪だ。


「せいっ!」


一息の間に三手。最速では無いものの、目には止まらぬ太刀筋。

その一刀目を振るった直後、10メートル先の土人形がはじけた。そしてそれを認識したタイミングでは、既に三刀目を振り切っている。


「……やっぱり最初の一発しか飛ばないな」


本来なら3発飛ばすつもりで剣を振っているのだ。拳でなら発動するのだ。この差は何だろう?

試しに拳に載せて撃ってみる。こちらは2連。思った通り、きわめてわずかな時間さで2発が土人形に当たってはじけた。


「何かわかる人いる?」


自分だと何の差があるのか分からない。


「剣の方は普通に発動してるように見えるわね。拳の方も同じ。早すぎて差があるのか分からないわ」


ふむ。それじゃあもう一回。


「今度は?」


「私には差が分からないわねぇ」


タリアと俺の魔力感知の差はレベル一つ分しかない。自分で見るのと外から見るので違いが判るかと思ったが、そう簡単にはいかないか。


「……剣を振った時は、魔術が身体から出てると思う」


何かとっかかりは無いかと話していると、発言したのはアーニャだった。


「身体から?」


「うん。拳の時は、魔術が拳を起点にして発動してる。でも、剣の時は身体から普通に発動しているように見えた」


「拳から、身体から……?」


「多分、見たほうが早い。ちょっとやってみる」


そう言うと土人形の前に立って、アーニャが魔力制御を始める。


「これが普通の魔弾マナ・バレット


そう言って放たれた魔弾マナ・バレットの魔力の動きは、確かに身体から発生していた。

身長を直径として円を描いた時に、目標方向に面する先端から魔術が撃たれている気がする。


「それで、これが拳から放った場合」


アーニャは顔の高さに拳を突き出すと、再度魔弾マナ・バレットを放つ。

今度の魔力は、拳を中心にして撃たれている気がする。


「私にもわかったわ。凄いわね。ここまできれいに操作できるなんて」


「……へへ、威力は全然だけどな!ワタルが剣撃に魔術を乗せたって言ってるときは、あたしには剣から撃ててない気がした」


「なるほど……」


確かに、やりたいのは剣士のスキルに有る飛翔斬のように、剣から魔弾マナ・バレットを放つ場合事だ。

……できていない理由は何だろう。


「ちなみに、これはどこから発動している?」


付与魔術用の杖を取り出して、同じように魔弾マナ・バレットを放つ。


「……剣の時より、杖から撃たれている気がする。拳ほど集中していないけど」


ふむ。剣よりはましか。

杖は魔術をサポートする機能があると言われているけど、原理が明確じゃないんだよなぁ。


「これはアーニャに見てもらうのがよさそうだな。後で色々試してみよう」


魔力制御の存在を知ってから、彼女の手動魔術や魔力の流れを見極める能力は、頭一つ飛び出た者に成っている。

おそらくだが、俺たちの知らないスキルが裏で発動している気がする。


「細かい検証は後回しで良いのよね。次は私。念動力で二つの敵を掴むのは出来た。両方とも火や雷に変えるのも出来るわね。実戦でもミスすることは無かったわ」


砕けた土人形の大きな欠片を二つを持ち上げる。さらにスキルを発動させたのだろう。持ち上げた礫の主変に炎が立ち上る。


「でも、片方を炎、もう片方を雷に変えるのは出来合いのよね」


両手で岩を持ち上げて別々に操作することは出来るが、2種類の変質を同時に行うことは出来ないらしい。


「掴んで燃やす、じゃなくて掴んでいる空間を燃やす感じだから、変質させた瞬間に手は離れちゃう。難しいわね」


種別の違う変質を行うのは、2つのスキルを同時に使うことに成るからうまく行かないのだろうか。

集合知で火と雷を同時に操る巫女が居たという伝承があることは分かって居る。トレーニングで出来るのか、それとも他のスキルとの組み合わせなのか……。


多重処理マルチタスクじゃ無理なのか?」


多重処理マルチタスクは複数の身体があって効果が発揮するスキルだから。確かに人形操作ドール・マニュピレイトでもう一つ身体を増やして、そこから多重処理マルチタスク、念動力、変質と段階を踏めば出来るけど、それは技術じゃないだろう」


多重処理マルチタスクでどうにかなるなら、俺も斬撃と同時にどころの話では無いスパンで魔術が使える。でも、残念ながらそれは出来ない。アレは人形遣いのスキルで、効果を発揮するには憑代が必要なのだ。

……ちっこい憑代を用意するという手は当然あるが……今一かっこ悪いし、カマソッツが使った魔力の乱れマナ・ターヴュランスのような妨害呪文で防がれるので、やりたい事ともずれる。


「そう言えば、片手は念動力のまま、もう片方を炎ってのは出来るの?」


「……それは検証してないわね。やってみる」


タリアが2つの岩を持ち上げて、片方だけを炎で焼く。


「んっ!?」


炎が発生すると2つの岩はどちらとも地面に落ちたが……。


「今、念動力の方が少しだけ落ちるのが遅かったように見えましたね」


バーバラさんも気づいたらしい。

ほぼ同じ高さに持ち上げられた岩だが、落ちるタイミングには若干のずれがあった。炎い包まれた方が先に落ち、つづいて念動力で持っていた方が落ちた。


「……多分、スキル的には出来るんだと思う。練習が足りないか、集中力が足りないか、そんな感じ。私はしばらくこれを練習することにするわ」


タリアは磨くべき技術の方針が決まったな。

それじゃあ次はバーバラさんか。

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